海の星で(2)
惑星ニコルララの任務ではエリアごとに班分けされて捜索が行われる。都度スクランブル発進が予想されるため、わずかに存在する小島にベースキャンプが設営される計画になっていた。
戦闘艦を使ってもいいのだが、狙いやすいターゲットになってしまううえに軌道監視にも用いられる。なので、星間平和維持軍の輸送艦と工兵が動員され待機環境が整備される。
「めちゃくちゃ綺麗!」
やることのない傭兵はベースキャンプ設営を横目に待機中。
「ほんと綺麗。でも、保全惑星なんだから無闇に触れたらいけないんじゃない?」
「保護生物の系統は限定されてるみたい。露骨な環境破壊なんかはタブーだけど、少しくらいは触ってもいいって」
「なんも触っちゃいけないって制限されたら戦闘なんてできないしね」
ピレニー・シュレンとやはり傭兵のフィルフィー・バクスターが話している。ピレニーが二十三歳でフィルフィーが二十四歳のはず。はち切れんばかりの健康的な肢体をフィットスキンに包んでのびのびとしていた。
「あまりはしゃがないでくれ。一生懸命働いてる工兵の皆さんに申し訳ないじゃないか」
モッサは注意する。
「えー、あの人たち、仕事終わったら軌道上の輸送艦に戻っちゃうんでしょ? だったらよくない?」
「そうそう。あたしたちみたいに、いつ知れないスクランブルに気を張ってなくてもいいんだし」
「ぼくには気を張ってるようには見えないんだが」
非常にリラックスしているように思える。
「そんなことない。周囲警戒中」
「そうそう、警戒中。タムも来なさいよ」
「呼んだー?」
もう一人加わったのも女性パイロットのタム・コートデムである。三人の中では一番若い二十二歳。今回動員された三十名の傭兵の中でも気の合う彼女たちは、全四班に分けられた編成で同じ班を希望していた。
「泳ぎたくならない?」
オーシャンブルーの海原を透かし見る。
「なる」
「あたし、水着持ってきた」
「実はわたしも」
要らないところまで気が合わないでほしい。
「程々にしような。独身者ばかりなんだ。トラブルは勘弁な」
「それってフリーってことでしょ。だったらモッサが気にするようなことじゃないもん。そういう目で見てるから想像しちゃうんだ」
「いやらしー」
おかしな非難のされ方は心外である。しかし、ここで仲違いは避けたい。なにせ、彼ら第四班の五人の傭兵のうち三人が女性で男性は少数派である。
「水着か。いいねえ。いつ着替えるんだよ」
後ろから声を掛ける男がいる。第四班の最後のメンバー、ルガー・ダファムである。彼はモッサの一つ下で二十七歳。男盛りに妙齢女性三名を加えて、どういうつもりで編成したのか呪いたくなる。
(どこも似たりよったりの状況か。うちだけ特別じゃない)
軍のように風紀に厳しいわけでもない。それでも大きな乱れがないのは、彼らが恋愛関係にも上手に折り合いがつけられているからである。ただ、ルガーに関してはトラブルメーカーのきらいがあって警戒していた。
「あんたの目の前で着替えるわけないでしょ? すっこんでなさい」
フィルフィーが指を突き立てている。
「なんだよ、つまんねえな」
「それはあんたがつまらない男なだけ」
「なんだと?」
身体を割り込ませる。
「いきなり喧嘩するなって。そのうちGPF隊員だってやってくるんだからな? 恥ずかしいところ見せないでくれ」
「もー、仕方ないんだから」
「そういえば、PMSCの連中、いつになったら合流すんの?」
第四班には件の民間軍事会社も加わる段取りになっていた。なので他が八名の編成なのに対して第四班だけ傭兵五名になっている。
「ただでさえお荷物なのに遅刻してくるなんていい度胸じゃない」
ひどい言われようをしている。
「都合がつかなかったって聞いただろう? 戦闘艇で来るみたいだから別行動でも構わないじゃないか」
「まあね。なんていった?」
「確か『ライジングサン』って」
知らされている情報はそれだけだった。
「御大層な名前ねー。どんな連中がやってくるんだか」
「女ばっかりだったら面白くない? ルガーたち、肩身狭くて凹んじゃうかも」
「凹むかよ。役得なだけじゃないか」
(それだけは勘弁してくれないかな。これ以上、トラブルの元になるようだったら、ぼくの胃がもたない)
悪い想像は当たるものだからしたくない。しかし、このときばかりは外れたのを呪うことになるのをモッサはまだ知る由もない。
「あれかも」
タムが空を指差す。
真っ青な空に滲むような鮮やかな黄緑の船体が降下してきている。見るからに派手な色合いに面食らってしまった。
「いきなりダメダメな感じしてない?」
「目立ちたがりの民間らしいっちゃらしいけど」
徐々に降下してきた戦闘艇。その船体から真横に二機のアームドスキンが吐き出された。右舷に飛び出した機体はよりによってレモンイエローをしている。
「誰がイロモノを呼び寄せたのよ。いよいよヤバげ」
「もしかして、うちの班、一番期待されてないエリア担当?」
二機がベースキャンプの島に到着して降着姿勢を取る。あまり見ない機種のアームドスキンだった。ブレストプレートが跳ね上げられて、目にも眩しい金色のフィットスキンを纏った男のシルエットが現れる。
モッサの耳は黄色い悲鳴に貫かれた。
次回『海の星で(3)』 「あれは病気なんであきらめてください」