海の星で(1)
傭兵をやっていれば長期任務も少なくはない。従軍ともなれば年単位の場合もある。しかし今回、モッサ・オーラーが招集された任務は特殊といえる。
(星間平和維持軍の発注だから変な任務じゃないの確実だとしてもな)
目標は設定されているが期間が切られていない。その所為で独身者が選抜されて動員されている。なので顔見知りのほうが多い編成となっていた。
(しかも、ほぼ地上任務になるか。いや、地上という表現は違うな。なにせ、惑星ニコルララは表面の99.5%が海洋だって話だもんな)
海上、下手すれば一部海中を戦地にしなくてはならないかもしれない。機動兵器があまり得意としていない環境である。だからといって、現代ではアームドスキン以上の兵器は存在しないといっていい。
(相手もアームドスキンを使う以上、こっちもアームドスキンで応じるしかないってわけで)
結果、彼らのような二十代のパイロットが集められた。
「なに憂鬱そうな顔してんの、モッサ」
話し掛けてきたのは同じ傭兵のピレニー・シュレンである。
「っても、いつもどおりだけど」
「余計なお世話だよ。あまり慣れない任務、というか任地になると思ってな」
「そう? 絶対に綺麗だと思う。だって、保全惑星だよ、保全惑星。人の手が入ってないやつ」
任地の惑星ニコルラバは星間管理局の保全惑星である。種類は幾つかあれど、文明保全惑星ではなく生物保全惑星と呼ばれるタイプの惑星だ。
前者が以降知的生命の文明レベルが上がれば加盟が見込まれるためにノータッチとされるのに対し、後者は特殊な進化を遂げている生態系の保護を目的とするもの。つまり、手つかずの自然がそのまま置かれている。
「そこを荒らす連中が問題になってるんじゃないか」
目標は保護状態の維持となる。
「ちょっと変わった生物がいるんだってね。で、欲しがる好事家に販売する目的で乱獲が行われていると」
「結構な規模の裏組織が絡んでるんだろうな」
「そりゃ、一時はGPFの部隊を退けたくらいだもんね」
流通しているはずもない特殊生物が裏社会を通じて販売されていた。それを掴んだ管理局の情報部が摘発に部隊を派遣したのだが、なんとGPFの部隊が頑強な抵抗に遭い、撃退されてしまったのである。
軌道監視をして逃亡のみは防いでいるものの密猟組織の摘発には至っていない。どれほどの規模の組織か判明しておらず、しかもニコルララが十分なサイズの惑星であるため捜索も捗っていない。
「組織の規模を調べようにも海中はレーダーが通らないからな」
潜られると捜索手段が限られる。
「だから、今回は大量の海上ドローンで捜索するんでしょ? 炙り出したところを一網打尽にってことでウチらが駆り出されたと。いやに徹底してない?」
「相手は国じゃない。それだったら管理局に抵抗なんかせずに手を上げてる。反社組織、それも相当規模の組織が見込まれてるな。見逃してしまう前例を作りたくないから確実に摘発する気なんだろう」
「戦力は削ぎ落として組織ごと壊滅させるんだ。おー、怖い。星間管理局を敵に回しちゃ駄目って見せしめにされそう」
捜索および摘発はもちろん星間管理局警備部門である星間平和維持軍が行う。しかし、戦力を集中させようとすれば他が片手落ちになってしまう可能性がある。
そんなときに動員されるのが傭兵協会の戦力だ。星間銀河規模の組織力は半ば公的機関のように扱われており、当たり前のようにGPFの予備戦力として使われることも少なくない。
「まあ、ぼくたちがやることには大差ない。GPFに叩けって指示された目標を叩くだけでいい」
そっちはあまり心配していない。
「確かに。どっかの国軍の演習相手みたいな加減は必要ないもんね。賊狩りのちょっと変わったやつって思っとけばいいでしょ」
「その分、敵も命懸けだ。気を緩めたら駄目だからな?」
「わかってます。モッサったら心配性なんだから」
爆笑している。
「君はノリだけで突っ走る癖があるから気にするなってのが無理な相談だ」
「そんなこと言ってえ、よーく見てるんだから。もしかしてウチに惚れてる?」
「それなら、こんなにストレス抱えたりしない。どうしてこう傭兵ってのは癖の強い人間ばかり集まってるんだ」
傭兵協会に所属するパイロットは総じて優秀である。下手な国軍パイロットより腕は確かで装備も充実していたりする。
ただし、一癖二癖ある人間が多い。命を稼ぎに変えて生きているような人種だ。享楽的であったり、妙に打算的であったり、一見不真面目に見える場合も少なくない。
「気にしはじめたらキリないんだからやめとけば。だって、今回、なんでか知らないけど民間軍事会社も一社加わるらしいでしょ?」
情報が知れ渡っている。
「そうなんだよな。PMSCだなんて、どんな経緯で割り込んできたんだか」
「そんな話じゃなかったみたい。なんだか、艦隊司令官の人がよく使ってる会社なんだって」
「信じられないな。あの任務達成率でオイナッセン宙区一って言われてるクガ・パシミール司令だろう?」
「そうだけど」
(民間軍事会社のパイロットなんて、どうせ一段腕が落ちる)
自信があれば普通は傭兵協会に登録する。
(面倒な環境なのにそんなのが加わって大丈夫なんだろうか)
モッサは人間関係含め心配でならなかった。
次回『海の星で(2)』 「ぼくには気を張ってるようには見えないんだが」