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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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理知通し(4)

 地上に戻るワイアットは盛大に迎えられる。キトレイア・イブストル大統領本人が議事堂前まで出迎える有り様だ。国民向けのポーズであるのを彼も理解しているが、それでも嬉しいものだった。


「お帰りなさい、ワイアット。あなたの勇気ある行動がメーザードの未来を救いました。国民の代表としてお礼を申し上げますわ」

 恭しく接してくれる。

「それほどでは、レイ……、大統領閣下。私のしたことは、あなた様の長年の教えに従ったまでのことです」

「ですが、理想と実際にした行動には大きな違いがあります。後者は褒め称えられて当然のものでしょう」

「はい。国民に選ばれた者として、国民のために働けたこと、誇りに感じられています」


 そこで交わされる会話は大手マスメディア向けのもの。キトレイアはもちろん、ワイアットもそのあたりは心得ている。


「では、今後のことをお話しましょう」

 裏手に控える大統領府へと招かれる。

「皆様にはご心配お掛けしました。メーザードの勝利によって一時的にはどうにか救われましたが、これからのことはまだ詰めていかねばなりません。協議のうえ、改めて広くお報せする機会を設けますので今日はここまでに」

「大まかな方針だけでもお教えいただけませんか、大統領?」

「ワイアット氏と図るということは、今後、氏は重用されるものと考えてよろしいですか、大統領?」


 ジャーナリストたちの質問が集中するも、キトレイアはやんわりと躱して歩を進める。ワイアットはそのあとに従って場を辞した。

 通い慣れた大統領府の執務室に到着すると張り詰めていた緊張感が切れてしまう。ソファーに崩れ落ちるように身を横たえた。


「疲れまして?」

 大統領が少女のように笑う。

「さすがに。覚悟のほどが知れてお恥ずかしいかぎりですが」

「多少の時間的猶予はありましてよ。労りなさい。でも、そのあとはとても忙しくなるから」

「理解しているつもりです。お助けいたします」

 変化への対応は生半可ではあるまい。

「そうではなくて、あなた本人が忙しくなると言っているのですよ?」

「私がですか?」

「当然です。同盟宥和政策を執っていたと思われているわたくしはまだ信頼を得られていませんわ。だから、国民の英雄であるあなたの威を借って政権運営をしなくてはなりません」


 途端に再び緊張を強いられる。キトレイアは彼を前面に押し立てて改革を推し進めると言っているのだ。


「今夜にはあなたを大統領補佐官に任命すると発表します」

 第一段階だという。

「その後は二人で協議しつつ進めていくことになりますわ」

「私にそんな重役はまだ……」

「もちろん、国民向けのポーズです。実際はわたくしの構想に従って発言してもらいますからね」

 悪戯な面持ちで告げてくる。


 今回のことでワイアットはまだまだ彼女には遠く及ばないと実感した。周到に準備された同盟脱退計画の一翼を担っただけだ。それも、幸運に頼った部分が大きい。


「経済面は問題ありません。星間管理局に一部の産物流通の権利をお任せしました。手数料は掛かりますが安定した歳入はあるでしょう」

 すでに手筈は整えられていた。

「大変なのは国内法制の再整備です」

「ええ、これまでは売国議員によって欲しいがままにされていましたからね」

「改めなくてはなりませんわ。それも親同盟派が一斉に抜けた少ない数の議員で処理しなくてはなりません。補欠選挙も早い内の実施が不可欠です。その他諸々細かい処理を挙げればキリがありませんわね」

 かなり煩雑な手続きが必要だ。

「私の能力の及ぶかぎりお手伝いさせてください」

「お願いするわね」

「こちらの処理もお願いしたいのですが」


 金髪の青年が申し立てる。それと同時にクーファのお腹も抗議の声をあげた。


「まだいた!」

 ワイアットはつい驚く。

「いますよ。契約を終了し精算していただかねば帰れません」

「すまない。忘れていた」

「クゥのお腹は絶対にこの恨みを忘れないのぉ」

 怒り顔で非難される。

「申し訳ない。すぐに」

「では、請求書をご確認ください」

「は? 待ってくれ、この額は……」


 スワイプで送られてきた請求書に法外ともいえる金額が記されている。個人で賄える数字ではない。


「あら、知らなかったの? わたくしはてっきり、政府予算に押し付けるつもりだと思っていたのに」

 キトレイアは平然と言う。

「そんなつもりは」

「あのね、アームドスキンまで運用するボディガード契約はそれなりに掛かるものよ。憶えておきなさいな」

「すみません」

 建て替えをお願いする。

「働きで返してもらいます。でも、あなたがあの『ライジングサン』を連れてきたものだから驚いたわ」

「ご存知だったので?」

「界隈では多少ね」


 色々と噂が伝わってくるものらしい。黄緑色の船体を認めた大統領は一気に計画を進める決断をしたと言う。


「はい、支払いを確認いたしました。ありがとうございます」

 ルオーは平然としていいる。

「今後もメーザードに協力いただけるのかしら?」

「いえ、今回はたまたまです。ライジングサンは可能なかぎり、いつでも依頼(オーダー)をお待ちしております」

「なかなか良いお返事くださらないのね」

 大統領の視線には媚が見えた。

「忙しい身ですので」

「そうなのぉ! これからエニメンツォパフェ食べに行かないといけないのぉ!」

「あらあら。では、持たせるから少しお待ちなさいな」

 今日もウサ耳装備の少女を宥める。


 ワイアットは最後まで事の成り行きに振り回されて終わった。

次はエピソード『情に棹させば流される』『海の星で(1)』 「もしかしてウチに惚れてる?」

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― 新着の感想 ―
日本もこうであれば……! と思う場面が沢山ありましたね!
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