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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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理知通し(3)

 操舵室(ステアハウス)で戦況を見ているワイアットは呆然とする。国軍が壊滅しないうちにゼオルダイゼの部隊を退けるにはどうすればいいかと案じていたのにそれどころではなくなったからである。


(我がほうが優勢に進めている)

 素人目にもわかる。

(ルオー君が勝利を口にしていたが、あれはリップサービスでもなんでもなかったのか)


 現実に青年のスナイピングショットでゼオルダイゼのアームドスキン隊はかなりのダメージを負っている。そこへメーザード軍の攻勢とパトリックの機体の乱入で今や混乱状態。それぞれのガンカメラが確認できるワイアットとクーファには勝利が見えつつあった。


「ヘイヘーイ、その程度で軍事強国気取りかーい。情けないね」

「その侮辱、後悔させてやる!」

「甘い甘ーい。オレのカシナトルドにそんなヘタレな攻撃が当たるとでも?」


 すでに敵軍は引くに引けない様子。挑発にも簡単に乗り、パトリックの手管に完全にはめられている。突進をすかされると、がら空きの背中に一撃を喰らう始末。


「オレがあんまり色男だからって嫉妬して狙ってくるんじゃない。今回は撃墜数ボーナスなんてない依頼(オーダー)なんだからさ」

「ふざけるなー!」

「ふざけてないって。ちゃんと相手してあげてるじゃん」


 レモンイエローのアームドスキンは華麗に舞い、鋭く刺しては撃墜を重ねていく。その派手さに引っ張られるようにメーザード部隊も一気呵成に攻め立てていた。


「少し粘られてます。粗が見えてくる前に確実に行きます。僕は動きますから、ちゃんと周りを見ててくださいね?」

「任しとけって。よろしくちゃーん」

「ティムニ、状況に応じてリンク強化を」

『はいはーい』


 モスグリーンのアームドスキンが戦闘艇ライジングサンの前から離れる。戦列を迂回するように飛んで艦隊を直接狙いに行っていた。

 直掩機からの砲撃も彼の機体にはかすりもしない。逆に一機ずつ仕留められていく。戦闘艦そのものは防御フィールドで守られているが、内側に入られるとアームドスキンの敵ではない。


「今になって騒いでも遅いですよ」


 艦橋(ブリッジ)で腕を振り回して命令している司令官が見える。ルオーは容赦なくビームを放り込み沈黙させた。艦体の数カ所にわたり、スナイピングビームを突き刺していくと内側から爆炎を上げる。機関部にまでその手が及ぶとついには巨大な火球と化してしまった。


「旗艦がやられた? 冗談じゃないぞ!」

「直掩はなにしてたんだ!」


 最後のトドメだった。オープン回線で騒ぎ立てゼオルダイゼ部隊は完全に浮足立つ。メーザード軍に攻められるままになり、すでに全体の三割近くまで数を減らしていると思われる。


「帰るとこなくなる前に帰ればいいのにぃ」

 クーファでさえ呆れている。

『同盟の主ってプライドが許さないんでしょー。それも尽きる頃合いかなー』

「来たぁ」

『そーそー。怖い怖い星間(G)平和維(P)持軍(F)の艦隊がやってくるからねー』


 明らかに最新鋭と思われる戦闘艦が二隻、戦闘宙域に接近してくる。艦のほうぼうに重力波(グラビティ)フィンを展開し、宇宙を滑るように進んでいる。それはライジングサンも同じで、プラズマスラスターの急に押されるような加速のない新感覚の乗り心地はワイアットも実感したばかり。


「ゼオルダイゼ軍艦隊に告ぐ」

 勧告が始まる。

「すでに貴国の企んだ貿易不均衡による経済侵略の目論見は白日の下にさらされつつある。それに基づいた今回の軍事行動は自衛の範囲を逸脱していると認められた。ただちに戦闘行為を停止し、当艦隊の聴取に応じなさい」


 星間(G)平和維(P)持軍(F)まで出てくるに至ってゼオルダイゼ軍はもう戦闘意欲を持ち得ない。次々に自艦へと帰投する者がほとんどを占めた。わずかに抵抗を示した者はメーザードからの弾幕に飲まれ撃墜の末路が待っている。


「パット、そろそろ潮時ですよ。戻りましょう」

 ルオーが呼び掛けている。

「だな。これだけ弱らせておけば今後も下手に仕掛けてくることもないだろ」

「管理局の監視の目も強まるでしょうからね。状況はかなり良くなるでしょう」

「じゃ、戻るか」

 並走する二機とGPFのアームドスキンがすれ違う。

「おー、君らがあのライジングサンか。噂は聞いてるぞ」

「なんだ、お前、ライジングサン見るの初めてか? こいつら、とんでもないんだぜ」

「しっかり見させてもらったって。なあ、なんかあったら頼むからよ」

「はい、ライジングサンは可能なかぎりいつでも依頼(オーダー)を受け付けておりますので」


(……冗談だろう? 彼らは星間管理局の下請けするくらい優秀な民間軍事会社(PMSC)だったのか。まったく知らなかった)

 会話から実態が窺える。

(国内ばかりに目が行って勉強が足りないと思い知らされる。これからも精進しなければならんな)


 ルオーとパトリックのアームドスキンが帰投するために後ろ側に回っていった。期待以上の働きをしてくれた二人には頭が上がらない。


「クゥ、お腹へったぁ。早く降りてエニメンツォパフェいっぱい食べたぃ」

『心配しなくても、そこのワイアットさんがお腹いっぱい食べさせてくれるからー』

「私が奢るのか!?」

 とても優秀なチームとは思えないメンバーが揃っている。


 さすがのワイアットも彼らの本当の姿を見破れなくとも仕方ないと思った。

次回『理知通し(4)』 「クゥのお腹は絶対にこの恨みを忘れないのぉ」

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