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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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理知通し(2)

 惑星軌道に上がったライジングサンは防衛陣を敷こうとしている国軍艦隊と合流する。フィットスキンとヘルメットを借りたワイアットが仲介して許可を得た。

 彼の顔はすでに国軍でも有名で、その本人が前線まで出向いてきたことが兵士の愛国心を刺激する。喜んで敬礼を送ってくる指揮官たちの様子で実感できた。


「こんな事態になったことを私個人は残念に思っている」

 請われて全軍に向けて演説する。

「甘いと言われれば返す言葉もないが、国民の命を危険にさらすつもりなどなかった。それは貴官らも同様である。大事な国民の一人なのだ。とても国民すべてを守るために命を懸けろなどとは言えない。しかし、しかしだ」


 つらそうな面持ちで訴える。宇宙の彼方を示した。


「ここで守らねば我が国の苦難は何倍にもなってしまうだろう」

 ゼオルダイゼの報復は想像に難くない。

「だからお願いする。貴官らの家族を守るつもりで本星を死守してくれ。であれば、私は貴官らの家族が必ずや幸せに暮らせる国にするとここに誓おう。真の独立国として、豊かな暮らしのできる誇れる国にすると約束する」


 懇願するしかない。命じる立場でもなければ監督する立場でもない。ただ、見守ることしかできない自身を情けなく思う。それならば自身にできることをしようと約束してみせるのが誠意だろう。


「我が国の未来のために」

「愛する家族のために」

「勇気あるワイアット議員のために」


 兵士たちが口々に返してくれる。その様が嬉しくて涙してしまいそうになる。まさに政治に携わる人間の本懐であった。


「君たちに報いるために、私は絶対に逃げたりしないと宣言する」

 力強く伝えた。


 国軍艦隊は多数のアームドスキンを放出しながら展開していく。その中の一部がライジングサンに向かって、その剣を捧げるとばかりにブレードをかざしながら通り過ぎていった。

 窓外では真横の空間に向かってパトリックの鮮やかな黄色いアームドスキンとルオーの深緑のアームドスキンも発進する。うつ伏せの姿勢から機体を立てると金色の翼を生み出した。


(頼む)


 ワイアットの目前でルオーの機体が背中のビームランチャーを手に取った。


   ◇      ◇      ◇


 ゼオルダイゼ軍の艦隊司令の予想に反して、メーザード軍はかなりの数の部隊を投入してきた。しかし、彼は不運をなじるでもなく楽しげにする。


(多少の抵抗があるくらいでなければ面白みがないと思った任務だが、これは楽しめそうだ)

 心の中で舌なめずりをする。

(これはいい。数は向こうのほうが多いがどうせ弱軍。久々にまともな戦争ができそうだ。少しは兵士のガス抜きになろう)


「準備でき次第突入せよ」

 命じる。

「メーザード軍など紙一枚ほどの抵抗にもなるまい。一気に引き裂いて思い知らせてやれ」


 戦闘艦三隻九十機のアームドスキン隊がフォーメーションを整えて突撃を開始しようとしたときにそれは起こった。宇宙を一筋の光が貫いたのだ。


(は?)


 彼我の距離はまだ戦闘距離にはほど遠い。お互い、もっと接近してから砲撃戦をというところ。それさえ前哨戦に過ぎないのがセオリーだった。


「ちょ、直撃!」


 一機が腹から胸にかけて溝を掘られる。一瞬の間を置いて内側から爆炎の舌が宇宙を舐めたかと思うと次には爆散した。オレンジ色の火球が花開く。


「なんだ?」

「スナイピングビームです! 狙撃されました!」

「馬鹿な。そんな距離では……」


 アームドスキン隊は分散する。慌てたのもあるが、敵の狙いを外す目的もある。ところが次のスナイピングビームが暗闇を走ったかと思うと、また一機が爆散する。その段階でパイロットたちは恐慌に陥った。


「なんで当たる!? なにが起こってる?」

「ターナ(ミスト)放出してんのか、くそ! レーダー照準じゃきゃこの距離の狙撃なんて当たるわきゃないだろうが!」

「このままじゃ的だ! 詰めろ! 詰めて押し潰せ!」


 三射目、四射目と襲いかかってくる。さすがに動きが出れば機関部などの危険な部位に直撃しなくなったが腕や足を貫かれて大破する。姿勢制御用のプラズマチャンバーが小爆発を引き起こしてクルクルと回転した。


「射線は見えるだろ? 応射しろ!」

「馬鹿言うな! 撃ったって先でなにが起こってるかも確認できない距離なんだぞ」


 仕方なく全機がリフレクタを展開し、その陰に隠れるよう前傾姿勢で前進する。有視界の射程距離までそれでしのぐしかないと考えたのだ。

 ところが、スナイピングビームが今度はリフレクタの端を叩く。反動で傾いたアームドスキンはリフレクタの裏からはみ出した部分を狙われて大破。余計に傾いた機体に直撃を喰らって爆散するものまで出はじめた。


「あり得ない。俺たちは悪夢でも見てんのか?」

「なんだよ。メーザードには怪物が棲んでやがったのか?」


 みるみる減っていく友軍機。ようやく敵の本隊を視界に収めるところまでやってくる頃には三十機近くを削られていた。

 ビームの弾幕が彼我を繋ぐ。そこへスナイピングビームが重なり、姿勢を崩したアームドスキンから犠牲になっていく。


 彼らの悪夢は終わりを知らなかった。

次回『理知通し(3)』 「今になって騒いでも遅いですよ」

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