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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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理知通し(1)

 確かにルオーが言うとおりメーザード国軍は順次、地上基地から発進していく。大気圏を離脱して軌道上に展開するには二時間以上を要するが、ゼオルダイゼ軍が領宙内に入って軌道近辺にやってくるには半日仕事である。十分に間に合う。


「なぜこんなにも早く?」

 部隊を編成して発進まではかなりの時間が掛るはずなのだ。

「準備していたからです」

「準備だって?」

「そうですねえ。あなたが演説を始めた少しあとから国軍の進発準備は始まってました。なので準備万端で発進したんです」

 当然のように言う。

「君はこの動きを?」

「知ってました」

「それならそうと……。では、レイア様は最初からこの事態を予測してらしたのか」

「ご自分でお聞きになってください」


 ワイアットには直通回線の認証コードがある。忙しいかもしれないが、聞かずにはいられない。


「レイア様、よろしいでしょうか?」

 幸い、応答がある。

「ワイアット、ごめんなさいね、たばかって。こうでもしないとゼオルダイゼや親同盟議員は動いてくれなくて」

「では、私はあの国を動かす餌に?」

「ええ、今ピックアップした親同盟の議員の工作を通報して捕縛に動いてます。星間法の国際貿易条項の違反容疑で星間(G)保安(S)機構(O)が協力してくださってます」

 キトレイアは一気に議会の掃除を目論んでいる様子だ。

「このタイミングを虎視眈々と狙っていらっしゃったんですね?」

「ただの利権欲しさか、かの国に直接動かされているのか選別に苦労しましたわ」

「そのために近づいていかれたんですね」


 彼女も海千山千の政治家の一人だった。一年以上を掛けて、議会内の売国者を徹底的に洗い出ししていたのである。


「やりにくかったわ。身近にスパイを置かれてるし、取り除こうにもこちらの動きを知られたくないし、結果としてあなたを苦しめることになってしまって、本当にごめんなさい」

 笑いが込み上げてくる。

「本当に悪いとは思ってらっしゃらないでしょう? 実にいいタイミングで派手に暴れてくれたと」

「気づいちゃった? でも、顔は売れたでしょう」

「よくもまあ」


 若い頃からの付き合いである。ワイアットを広報官に据えていればストレスを溜めていつか弾けてしまうだろうことは予想に難くなかったはず。どういう行動をするかもある程度見抜かれていたと思って間違いない。


「あなた様には敵いません」

「そう? わたくしの予想を遥かに超える素晴らしい質とスピードでしたわよ? お陰で軍司令官としての動きを速めなければならなかったわ」

「それはちょっと。幸運がありまして」


 しかし、これからが難局である。ゼオルダイゼを動かしたはいいものの、撃退できねば意味がない。


「お忙しいでしょうから邪魔はいたしません。存分に」

「あら、手伝ってくださらないの?」

「戦争となると私の出番はございませんので」


 深々と一礼して通信を切る。全身から力が抜けてへたり込みそうだ。ただし、役に立てたという達成感はある。


「気を抜くのは早くありません?」

 ルオーに尋ねられる。

「早い。早いが、なにができる? 進入してきたゼオルダイゼ艦隊はそれほどの規模ではないだろうが軍備に大きな開きがある。それでも国軍全軍をもってしてどうにか撃退くらいは可能だと思ってるが」

「撃退じゃなく勝ってみせたほうがよろしくはないですか?」

「無論だ。だが、他にどこに軍がある? 現段階で管理局を動かせるほどの根拠はない」

 星間法違反を立証できれば侵入を違法行為だと糾弾もできようが。

「あなたが動かせる戦力が一つだけあります。しかし、それを動かすには、あなた自身が前線に出向き、自身を守る契約を履行させるしかありませんがその覚悟は?」

「君たちか。参戦してくれると?」

「アームドスキン使用契約もあります。ボディガード契約はまだ遂行中ですよ」


 わずか二機である。参戦したところでどれほどの差があろうか。しかし、最後まで自身を危険にさらす判断が責任の取り方のような気がしてきた。


(正直怖い。だが、この事態を予想だにせず、危うく国民を危険にさらすところだった責任は取らねばならない)

 奥歯を噛み締めた。


「私を前線に連れてってくれ」

 はっきりと伝える。

「了承いたしました。では。ライジングサンはこのまま離陸してメーザード軍を援護します。あなたも前線の兵士を鼓舞すればモチベーションも上がることでしょう」

「そうだな。観戦するだけじゃ芸がない」

「勇気ある決断でした」

 ルオーが相好を崩す。

「前にも言いましたが、理知を通せば軋轢は生まれます。それはどうしようもない。ですが、そこで悶着を嫌って引けばどうなるか? 物事は先に進まなくなるし、なにも改善されないと僕は思ってます。ときに理知を通す人が必要なのです」

「私は君の期待に応えられたか?」

「ええ、なので僕は自らの命を懸けることであなたの思いに応えるとします」


 離れつつある地上を見ながら言う。これからは軍事的な戦いの時間だ。


「ライジングサンはメーザードの明日を暗闇に閉ざしたりしない」


 そう宣言するルオーがワイアットは心強かった。

次回『理知通し(2)』 「勇気あるワイアット議員のために」

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