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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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すり減ろうとも(5)

 ワイアットは頭を抱えて機体格納庫(ハンガー)デッキにへたり込む。それくらいショックな出来事だった。


「反抗したからって、あの大統領閣下が刺客を送り込むとは。私はそれほどに邪魔だったのか」

 決別したとはいえ心が軋む。

「この国にあって害悪でしかないのか? 国民を救おうというのは国を傾けると同義になるとでも?」

「さて、どうでしょう。彼女がイブストル大統領の意を受けていたとはかぎりませんし」

「え?」

 ルオーが「ティムニ」と呼び出すとピンク髪の小さなアバターが飛び出す。

『なーにー。あの女のことー?』

「聞いていたんでしょう? どうです?」

『交信記録だと大統領より前進党の複数議員とのほうが多いー』


 前進党とは彼の属する公民党とは違う野党である。メーザードではこの二大政党が覇権を争っているが、どちらにせよ同盟寄りの議員が多いのが悩みの種であった。経済政策が増税論者か国外投資論者かの違いくらいである。


「まさか、スパイ?」

 背筋が寒くなる。

「まさかでもないんじゃないですか。大統領まで登り詰めるには公民党内で推薦されるほど勢力拡大していたんでしょう? 野党なり、他派閥なり、スパイを入れていても変じゃないと思います」

「そうだが、これほど露骨とは」

「イブストル大統領も警戒していたんでしょうね。聞いた話では、出す勧告が全て先回りで議会工作されていたんでしょう?」

 もっともな理屈だった。

「では、ヘルガ君の件は大統領閣下が私に差し向けた刺客ではないと」

「そうでしょう。なにせ、ライジングサンはずっと監視を受けてました。その中、大統領の命を受けた女性が一人でここまで来れます? あの首都警察だって売国議員が手を回して寄越したのでしょう? この二つの関連性を鑑みれば裏は読めます」

「至心会に入れていたスパイを、私を油断させて排除するために使ったということか」


 彼らは最初から予測していたという意味だ。それぞれが役割分担して企みを阻止してみせたのだろう。


「搦め手もこのくらいでしょう。時間切れだと思いますし」

『そろそろ一報入る頃かもー』


 ティムニがふわふわと踊りながら言っている。ルオーが空間に指を滑らせると多数にニュースページが立ち上がった。全てが同じ内容を伝えている。


『本星近傍の公宙(ハイスペース)時空間復帰(タッチダウン)した艦隊はゼオルダイゼのものと判明いたしました。以下の勧告を伝えてきています』

 画面が切り替わり、フィットスキンの上に軍服を羽織った男性が話しはじめる。

『当艦隊はメーザードの騒乱において、危険と思われる邦人および協力関係者の保護を目的とした軍事作戦を行うものである。我らは救出のために最大限の戦力の行使を許されている。メーザード国民は抵抗することなく我が軍に協力されたし』


「つまり、抵抗したら撃つってことじゃん」

 パトリックが鼻で笑う。

「そんなことまで?」

「やりますよ。あちらにすればメーザード利権の危機です。軍を派遣してでも制圧しないわけにはまいりません」

「馬鹿な。私は国民を危機にさらすつもりなんてない。ただ、同盟からの脱退を望んでいるだけなのに」

 背筋が凍った。

「許してはくれませんよ。同盟という名の経済侵略を果たすのに結構な投資をしたつもりなのです。せっかく軌道に乗った畑で収穫を続けているのに手放したりしません」

「軍事的に恫喝してまでか?」

「この投資も回収しなくてはならなくなりました。締め付けはより厳しくなるでしょう」


 ワイアットは絶句する。ゼオルダイゼがいくら傲慢でもそこまでするとは思っていなかった。事実上の軍事侵攻までとなるとただではすまない。


「せ、星間管理局は、星間(G)平和維(P)持軍(F)は動いてくれないのか?」

 宇宙の警察がいるのを思い出す。

「建前として邦人保護を訴えていますからね。実害が出るまで管理局も動けないでしょう」

「そんな。無理だ。強力なアームドスキンの前に普通の国民は抗う術もないではないか。でも、今の同盟脱退気運に取り憑かれている国民は……」

「入りこまれたら終わりですね」

 ワイアットは最後の望みとばかり彼らを見る。

「無茶言わないでくださいね。僕たちはアームドスキンをたった二機しか保有していません。艦隊相手に防衛戦をやるなんて不可能です」

「そうだよな。わかってる」

「ですが、メーザードにも軍があるじゃないですか?」


 もちろん国軍は存在する。ただし、シビリアンコントロール下にある国軍は大統領令がなくては出撃できない。


「閣下はゼオルダイゼ軍を受け入れてしまわれるかもしれない」

「そうです? 出撃してますけど」

「なんだって?」


 首都近郊の軍基地から多数の戦闘艦が上昇していくのがルオーの示す投影パネルに映っている。自衛行動なのかもしれないが、それにしては規模が大きい。


『ゼオルダイゼ軍に通達いたします。それ以上、我が国の領宙に進行してくるようでは対処せざるを得ません』

 キトレイアが宣告している。

『抵抗するならば排除も辞さないが如何に?』

『結構ですわ。ついでにお伝えしましょう。わたくしは大統領の名においてゼオルダイゼ同盟脱退を宣言します。同盟国たる我が国に戦力を差し向けてくるような方々は信頼なりませんもの』


(レイア様!)


 ワイアットは感動に打ち震えていた。

次回『理知通し(1)』 「あなたが動かせる戦力が一つだけあります」

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