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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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すり減ろうとも(1)

 メーザード政府議会は紛糾していた。今や大多数の国民が反政府を訴えている。幾ら財閥や大企業が雇用を盾に抑え込もうとしても無理な状態にまでなっていた。


「イブストル大統領、この状態をどうなされるおつもりか?」

 大統領府には本院議員が多数押し寄せている。

「かのワイアット大統領府広報官はあなたの派閥『至心会』に属しているのでしょう? 反政府活動をやめて議会の査問を受けるよう手配していただきたい」

「そう言われましても、彼個人は国民の正当なる選挙によって選出されていますのよ。当人が辞職しないかぎり、わたくしの権限で解職することはできませんわ。広報官は罷免いたしましたでしょう?」

「ですが、あのような放言を連ねられては我らの職権さえ侵されかねません。議会リコールの動きも見られるのですよ?」

 詰めてきた。

「ワイアットが主張しているような事実はないとおっしゃるのかしら?」

「もちろんですとも」

「では、国民に訴えられることですわね。彼の主張は嘘八百で国民を騙しているのだと。無論、根拠を示さねば納得はしないと思いますけど」


 キトレイアは取り合わない。そもそも彼女の主張は間違ってなく、なんの根拠もなくワイアットを解職させられはしない。できるのは大統領権限に含まれる任命権の行使だけである。


「根拠などどうやって……」

 反撃すると口ごもっている。

「議会の提案する立法に関して一つひとつどういう国益に通じるか、国民の利益をどう守れるのか説明なさればよろしいのでは? わたくしはそうできると信じて議会の決定を承認しているのですもの」

「しかし……」

「わたくしの権限が及ぶのは行政にまつわる大統領令のみです。法改正については勧告を行えるだけですもの。議会はなかなか通してくれませんけど」

 事実を並べる。

「こんな形での報復はいただけませんな。議会との亀裂を深めるだけとご理解いただきたい」

「それこそ、わたくしを脅迫しているも同然でしょう?」

「そんなつもりは欠片もございませんよ」


 いけしゃあしゃあと言ってくる。相当面の皮が厚くなければ国民からの搾取ばかり考える議員はやっていられないのだろう。もっとも、今回の一件はその分厚い面の皮も貫きつつあるようだが。


(まったく大胆だこと。あのワイアットがここまで強く押し出してくるなんて)

 キトレイアは彼を若い頃から知っている。

(これほどの攻め手を駆使してくるとは、どんな味方をつけたのかしら? 一人ではとても無理だわ。ゼオルダイゼ同盟に楔を打ちたい第三勢力が関与してる? そんな気配はないもの。もしかして、星間管理局にマークされてしまったかしら)


 国内状態は良いとは言えない。それでも同盟加入を決めたのは、それを推進する公約を掲げた時の大統領を国民が選んだからだ。星間管理局が国内問題として関与してこなかったのはそれが理由である。


「仕方ありませんわね。ワイアットと話してみますわ。個人回線が生きていればの話ですけど」

 埒が明かないので折れてみせる。

「厳重に処分を申し渡していただきたい。場合によっては彼を罪に問わねばならないかもしれませんのでね」

「説得は無理かもしれませんわね。ここまで事を大きくするのはワイアットも相当の覚悟あってでしょう。思い直してくれればいいのだけれど」

「お願いしますぞ。すでに政治停滞が起こってるのですからな」


 議会はもう機能停止してなにも決められなくなっている。おかしな立法を提案すれば市民暴動に発展しかねない。制圧しようとすれば人権問題で議会に管理局の手が入る。そうなってはお終いだ。


(お粗末だこと。尻拭いくらいご自分でしなさいな。利権にばかりうるさい役立たずのくせして)


 キトレイアは仕方なくワイアットの個人回線にメッセージを乗せた。


   ◇      ◇      ◇


「レイア様が、大統領閣下が内々に交渉を望まれている」

 客室でメッセージを受け取ったワイアットは操舵室(ステアハウス)に集まっているライジングサンのメンバーに相談する。

「そう申されましても、僕が決めていいことではありませんね」

「ああ、好きにすればいいじゃん」

「お願いしたらエニメンツォパフェ食べられるぅ?」

 突き放された。

「いや、作戦は君たちが立てているじゃないか」

「提案はしていますが決定はあなた任せです。行くもやめるもワイアットさんが決めることです」

「もう引き返せないところまで来ているんじゃないか?」


 所詮は愚痴でしかない。すでに立ち止まるつもりも放棄するつもりもない。行けるとこまで行くしかないと思っている。


「あなたは国民の代弁者になっています。もう個人的な感情は捨てて対峙すべきだと思いますがどうです? 僕からできる助言はこの程度です」

 ルオーはメインシートに深く身を任せながら言う。

「ああ、そのとおりだとも。だが、あの方にはずっと世話になってきた。突っ走りがちな私を教え導いてくれた方だ。弁舌で敵うとは思えない」

「じゃあねぇ、邪魔にならないようルオに消してもらぅ?」

「物騒なこと言うな!」


 とんでもないことを言い出すウサ耳娘にワイアットは慌てて否定した。

次回『すり減ろうとも(2)』 「そのわりに意気揚々とした演説に聞こえたけど?」

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