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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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千里の道を(6)

「政治活動であなたの志を表現するのは限界があると思います。そのくらい雁字搦めになっているでしょう」

 ルオーが指摘するとワイアットは視線を落とす。

「今や私も至心会も国民からは搾取の手先と罵られ、国内保守派からは政権運営のために寝返ったと貶され、国外リベラルからは保守的だと後ろ指さされている。どこに向かえばいいのかね?」

「そうですね。まあ、それが理知と割り切って動いてしまうと他者との軋轢は免れ得ないということです。至心会の領袖たるあなたの師はその壁に跳ね返されてしまいました」

「ああ、レイア様も内心では苦しんでおられるのかもしれない」

 心中は察せられる。

「ましてや国家運営の立場となれば。ですが、あなたは違いますよね? 比較的身軽な立場でもある。若く見目もいい。そのあたりも有権者の耳目を集めるのに有効だったのでしょう」

「思い当たる節はある」

「逆に利用しましょうか」


 事もなげに言うと怪訝な顔になるワイアット。なにを言い出したのかと思っていることだろう。


「レイア様を批判して成り代われとでも?」

 義理は捨てられない様子だ。

「遠回りに過ぎます。もっとショートカットしましょう」

「ショートカット?」

「国民に直にあなたの志を訴え掛けます」

 議員は首を傾げる。

「ゼオルダイゼにとってメーザード政府は微塵も怖くありません。完全に手の内にしていますから。ですが、民意は違う。一度動き出すと簡単には止められません」

「ダイレクトに苦しめられているからな」

「反同盟に振れないよう遠回しにコントロールされているだけで、きっかけを与えれば雪崩のように動きます。それが民意というものです」


 大衆は一度流れに乗ると止まらなくなる。集団心理も働く。大きなムーブメントは人を熱狂させるのだ。


「あなたが先頭で旗を振ってしまえばいい」

 きっかけになれとそそのかす。

「まるで内乱を起こせと言っているみたいだぞ?」

「そこまでは。国外の黒幕も、国内の権力者も最も怖れているのが民意です。デモが起こるようになれば議員たちも無視できなくなるでしょう」

「さすがに次はないと思うだろうからな。利権を漁っているからこそ捨てられない」

 同じ議員だからこそ心理を理解している。

「日和る者が増えれば政府内にもムーブメントが及ぶわけか」

「そうです」

「でもぉ、すごく混乱しなぃ? 政府がおかしくなっちゃうと、みんなが困ると思うのぉ。もしかしたら何年もぉ」


 一時的な政治の停滞が起こり得るというクーファの指摘は正しい。ルオーはあまり心配していないが。


「そこは問題ありません。管理局がきちんと調整するでしょう」

 加盟国であれば必ず手助けする。

「管理局ってそんなに優れてるのぉ?」

「統制機関として質が桁違いなんですよ。感じませんでしたか?」

「よくわかんなぃ」

 詳しく触れた機会がないようだ。

「多数を占める惑星国家では多くを人が運営しています」

「当たり前?」

「ところが、そうでもありません。星間管理局は三権分立のうち、立法の部分をAIに一任しています。人の入り込む余地はありません。なので、特定の人が得をする法律が作られないんです」


 多くの国家ではまだ立法府と行政府が混在している。そのシステムだと行政に携わる者が得をする立法になる。それがない。


「司法あるいは行政の部分は人の判断を要するので司法官や政務官が取り仕切っていますが、ベースになる星間法に偏りがないんです」

 法に従えば汚職などの腐敗を除外しやすい仕組み。

「さらに人事も基本AIが行います。計算法はわかりませんがポイント制みたいですよ。だから適した人物が配置されます」

「徹底してるんだぁ」

「惑星国家でも一部は採用されているようですがなかなか広まりませんね。やはりAIに支配される強迫観念が人の心の奥底にある所為でしょうか」

 人が権力を手放せない所為だとルオーは思っている。

「なので、優れた統治システムを持つ星間管理局が加盟国民のセーフティーネットになっています」

「びっくりぃ」

「実は星間銀河加盟国民って無茶し放題なんですよ。意外と知られてませんけど」


 どれだけ混乱しようが最終的には星間管理局が収めてくれる。誰もが自由に生きられる仕組みが根底に形作られているのだ。


「その点は心配しなくていいのはわかった。しかし、具体的にはどうやって私個人の意見を国民に広く知らしめるという? そんな簡単ではないだろう」

 ワイアットが不安に感じているのは別にある。

「そうでしょうか。おかしいとは思いませんでした?」

「なにをだ?」

「国家の重要機密である諜報情報をティムニが容易に抜いてきた点です」

 気づいて瞠目している。

「まさか」

「ええ、ライジングサンには国家に対抗しうるくらいの電子戦能力があったりします。内緒にしてくださいね?」

「そうか。それを使って……」


(ちょっとことが大げさになってきたなぁ。パトリックには本件にタッチするか否かは決めてもらわないといけないかも)

 街にナンパに出た相方も関係する。

(まあ、放牧しとけば自由に女遊びでもしてるだろうから放っとけばいいかぁ)


 ルオーは説明するのが面倒になってきていた。

次回『一歩でつまづき(1)』 「ちょっと派手になりそうです」

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