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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
知に働けば角が立つ
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千里の道を(2)

 返す返すも奇妙な二人組みだ。一人は眠そうな顔の青年に、一人はわけのわからない出で立ちの少女。ワイアットはもしかしたら関わってはならない人たちに関わってしまったような気分になる。


「ともあれ手当たり次第、人の良さそうな相手を捕まえて美食探訪に巻き込んではなりません」

 青年が説得を試みている。

「無理は言ってないのぉ。クゥは人の善意に甘えているだけぇ。善意が銀河を救うからぁ」

「ですが、君は善意を胃袋でしか感じられない体質ですので、他の方にとっては迷惑なのですよ」

「知らなかったぁ。クゥの善意アンテナは胃袋の中にあるのぉ?」

 またわけのわからない単語が出てくる。

「他にどこにあるんです?」

「ここぉ」

「そのウサ耳は善意アンテナだったんですか。交換が利くとは便利ですね」

 少女は「感度抜群なのぉ」とウサ耳をピコピコ揺する。


 二人のペースについていけない。傍目には語り合っているかのように見えているかもしれないが、彼は突如として現れた暴風に立ちすくんでいるだけであった。


「ちなみにウサ型は声に敏感で、犬型は匂いに敏感なのぉ」

「耳なのに匂いに反応するんですか? 画期的ですね」

 もはや方向性さえ見えない。

「クマ型は甘み感度がアップされててぇ」

「味覚にまで? 銀河学術学会も驚愕の感覚器かもしれません」

「パンチのパワーも0.02%アップするのぉ」

 思わず「微増!」とツッコんでしまう。

「ですよね。そもそも元が飛んでる小虫を打ち抜く程度の力ですのに」

「しかも、意外と俊敏!」

「日夜、戦いをくり広げているからぁ」


 如何にも力のなさそうなヘロヘロパンチを打つジェスチャーをしている。妙に鋭い視線なのも似つかわしくない。


「船の中にはいないのに、地上はやつらに制覇されてしまっててぇ」

 不満げな声音だ。

「大切なスイーツに虫がついてしまうと台無しですし」

「クゥがいつか惑星用バグキラーを発明してこの世から一掃してやるぅ」

「今は船内用がせいぜいですもんね」

 話が大きくなってきた。

「夢が壮大になってきたことですし、このあたりで少し腰を落ち着けて話しません?」

「クゥも小腹が空いてきたぁ」

「それは困りました。クゥの小腹はなかなかの容量ですからね」


 いつの間にか同席する流れになっている。差し迫って急ぎの用件があるわけではない。それに、なぜか内心に渦巻いていた苛立ちも小さくなっている。


(これもなにかの縁か。二人から我が国がどう見えているかも聞いてみたい)

 ただし、必要な話を引き出すには遠い道のりがありそうだが。


 少し歩いたところで適当なカフェテラスを見つける。適度にテーブルが離れていて話しやすそうだ。眠そうな青年も聞き耳を立てられなさそうな席を選んでくれた。


「なにがいいかなぁ」

 少女がただでさえ大きな目を皿のようにしてメニューを吟味する。

「この、エニメンツォパフェってすごそぉ」

「名前もすごいですね」

「エニメンツォはメーザード自生のハーブだよ。少し甘くて爽やかな香りを楽しむことができる」

 来訪者に説明する。

「自生ですか。大々的に栽培を?」

「ああ、プラント農法に移行して久しいが輸出実績は悪くない」

「用途は多様みたいな感じですもんね。スイーツだけではなく、料理にも使えそうです」


 二人はゆるゆると走ってきたウェイターマシンからパフェを受け取る。ワイアットはシナモンティーだけにした。


「ふむふむ。やはり趣深いものがありますね」

 一口味わって講評する。

「舌に残る香りが次の一口を誘ってぇ、癖になるタイプぅ。人を魅了する危険なハーブなのぉ」

「害はないよ」

「メーザードにはこういった香草類が豊富にあるんですか?」

 青年も忙しなくスプーンを往復させながら訊いてくる。

「種類も少なくないな。地方の広大な土地はほとんど農業プラントに使われている」

「手が掛かりませんものね。でも、軌道プラント型では駄目だったんですか?」

「軌道プラントは原資が掛かるだろう? 経営者にそれほど余裕がなくてね」


 内実をいうと、せっかくの輸出品栽培に政府補助が足りてないからである。恥ずかしくて口にできなかった。


「もっと流行るべきぃ。クゥが投資するぅ?」

「確かにこの癖のある爽やかさは捨てがたいですね。国内でなくとも、どこかの実業家が目を付けてもおかしくないレベルですのに」

 力説を始めた。

「ハイパーネットに宣伝するぅ。もっと流行るべきぃ」

「難しいかもしれない。ほとんどが品種登録されて他では栽培できなくなっているからね」

「それは厳しい。まあ、資産として保護する気持ちはわかります。ところで、あなたはどうして狙われているのです?」

 取って付けたように言われて咄嗟に答えられない。

「すぐさま命を、という感じではありませんが確実に監視されている感触ですね。身なりもいいし、ここの要職の方でしょうか? 政敵でも?」

「君は?」

「申し遅れました。僕はこういう者です」


 スワイプして送られてきたプロフデータには民間軍事会社(PMSC)『ライジングサン』の表記がある。頭にσ(シグマ)・ルーンを着けているのでアームドスキンパイロットだとは思っていたが意外に思える。


 ワイアットの青年と少女を見る視線が揺れた。

次回『千里の道を(3)』 「君たちはそういう仕事をしているんだったな」

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