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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る
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明るい道へと(7)

 背後からぬるりとコリト・ノガ隊長のアームドスキンが現れる。ミアンドラのザイーデンの背中にビームランチャーの砲口を突きつけながら。


「そんな……」


 窮地に立っていた彼女を救ってくれるべく無理を聞いてくれた相手だと思っていた。他家と縁があるとわかっていながらも、互いに切磋琢磨すべく送ってくれたのだと信じたかった。しかし、実際には刺客だった。


(わたしが馬鹿だったの? 馬鹿正直に信じたのが愚かだって言うの?)

 泣きそうになるほど自分が情けなかった。

(だったら、これは報い。わたしの愚かさを証明するように現実が降ってきただけなんだわ)


「この状況にすれば仕掛けてくると思ってましたよ」

 ルオーは平然と言う。

「なに? お前!」

「油断してると思います? あなた方の動きは最初からロックしてあります」

「動くな。動いたら即座に撃つ」

「もう、動いてます。強敵を相手にする前に消えてもらいます」


 ルイン・ザは振り返ってミアンドラのザイーデンの脇に砲身を差し込んでいた。その砲口から光が溢れ出る。


「くあっ!」

「お粗末ですよ?」


 至近距離からの一撃に反動で転倒する。ルオーは即座に砲身を引き抜くと、周囲に向けて二射を放った。部隊回線で「うあっ!」と悲鳴が聞こえる。狙撃したらしい。


「そうならよ!」

 撃墜判定でカメラアイを真っ赤にしたアームドスキンが立ち上がる。

「ゾンビ行為は厳禁って言ったじゃん」

「なあっ!」

「オレの出番でしょ?」


 隊長機は蹴り飛ばされる。代わりに現れたパトリックのカシナトルドが誇らしげにポーズをつける。激しい激突音から先の応えはない。おそらく失神しているだろう。


「呑気にしていられませんよ、パット」

 ルオーが指摘する。

「わかってるわかってる。指示をしたこいつらの雇い主が近くにいるってことじゃーん」

「では、段取りどおりに」

「ほいほい。まったく、オレがいないとなんにもできないんだからさ」


 カシナトルドが重力波(グラビティ)フィンを展開して飛び立つ。金色に光る虫の翅のようなフィンは格好の的だ。周囲から一斉に狙撃されている。


「あなたは動いたら駄目ですよ?」

 念押しされる。

「でも、これじゃパトリックが見殺しに」

「相方をそんな目に遭わせません。あれは誘いです」

「あ!」


 重力波(グラビティ)フィンにリフレクタまで使うカシナトルドが攻撃されるほどに敵機の位置が判明する。ルオーはそれを丁寧に一機ずつ狙撃していっていた。応射してくる敵のビームを迎撃しながら。


(もう、二人の独壇場だわ。すぐに終わってしまう)

 一方的になっていた。


「なんて汚い手を使うの、ミアンドラ。役立たずのロワウス女子にお似合いね」

 その声はパヴァリー・リスカーのものだった。

「汚いのはどちらです? 相手の部隊に子飼いを入れて狙わせるなんて下劣もいいところですよ」

「たかだか民間軍事会社(PMSC)のパイロットごときが偉そうに説教するんじゃない!」

「残念ながら、その民間パイロットごときにあなたは負けるんですよ」

 ルオーはほとほと呆れたという風情である。

「さーすがのオレもさあ、君みたいな毒の強い花は遠慮したいね」

「言わせておけばぁ!」

「はい、さよなら。間違ってもゾンビ行為なんてしないことだね。全部、記録されてる。汚名を被るのは君だけじゃなく家ごとだろうよ」


 霧が薄まってきている。霞む帳の向こうに見えたのは、レモンイエローのアームドスキンがパヴァリーのザイーデンを見事に薙ぎ払うところだった。


「あなたにはつらい現実でしょうが、これも一面なのです。ガンゴスリの軍閥各家も一枚板ではありません。派閥争いに打ち勝とうと日々虎視眈々と狙っているのです」

 眠そうな目で説いてくる。

「ショックですか?」

「う、うん。ショックかも。現実がつらいというより、本当のことから必死に目を背けようとしていた自分が惨めで」

「上手に折り合いをつけるしかありませんね、あなたが軍閥で名を挙げようと思うなら」

 彼の言うとおりだろう。

「もしくは、この現実を打破できるくらい大きくなることです」

「打破できるほどって」

「軍閥を飛び越えてトップに立ち、政治的に糾合すべく働き掛けることです。誰かがバラバラになっている各家をまとめればいいのではありませんか?」


 遙か先の目標を説かれる。しかし、彼女がガンゴスリの軍閥をまとめあげようとするなら、あまりに大きな権限が必須になってくる。それだけの地位を目指せと言われていた。


「そんなの……。この観兵試合で躓いてるようだと届かないわ」

 勝ち抜ける力も作戦立案能力も足りていない。

「負けるとお思いですか?」

「だって、もうルオーとパトリックしかいないんだもの。まだ、レンティン・ピルデリーも、あのエスメリア・カーデルも残ってる。おそらく、ほぼ無傷よ」

「たった二つではありませんか」


 位置表示でトップを飾る名家の二つが健在なのはわかっている。配下の十機、減っていても一機が二機がいいところだろう。わずか三機で対抗できるとは思えない。実質、戦力になるのは二人だけなのだ。


「ミアンドラ様、ライジングサンはあなたの明日を暗闇に閉ざしたりしない」


 困惑するミアンドラにルオーは力強く告げてきた。

次回「明るい道へと(8)』 「だったら、ものの数ではないわね」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 ……どこまで(いつから)読んでいたのか……。
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