明るい道へと(5)
「三つ巴になっちゃてるじゃないのよ! 一度引いて立て直さないと!」
「まだです」
二隊を撃破したのち、さらに一隊を墜とし、もう一隊を迎え撃ったところで別の隊が乱入してきた。完全にキャパオーバーである。
しかも、連戦のうちにコリト・ノガが一機、ザンロロフが二機脱落している。今や戦力は自身を除いて七機しかいない。
「ラジエータギル展開」
「どうするの?」
「せっかくですから、このタイミングで墜として減らします」
いとも簡単に言うが、そんな話ではない。確かにライジングサンの二人が破格の実力を持っているのはミアンドラも認める。しかし、入りこまれてしまっている今はスナイパーのルオーに抗する術はない。
リフレクタを使おうとすれば両手持ちのロングバレルランチャーから手を放すしかない。反動制御も難しくなるし、狙いを定めるのもほぼ不可能になる。
(もうポンコツに戻る距離になっちゃってるじゃない)
ガードしている彼が墜ちれば素人に毛が生えた程度のミアンドラはすぐにあとを追うことになる。
乱戦の中、突如として真横に敵が降ってきた。もちろん普通に飛んできたのだろうが、彼女には察知するだけの視野の広さがない。まだ不慣れなのだから。
ルオーは違った。気づいていた彼はすでにスナイパーランチャーを向けている。一射目でリフレクタの右端を叩いて横向きにずらし、二射目を空いた隙間に滑り込ませる。直撃を受けたアームドスキンは演習プログラムに従いカメラアイを赤く変え後退していった。
「でも敵だらけ」
「リフレクタで両サイドを固めてください」
膝立ちになって上半身を両腕のリフレクタで隠す。
しかし、そこら中から敵機が迫ってくる。穴だらけの防御でしかない。しかも、ルイン・ザに至ってはリフレクタもろくに使えない状況。
(やられる!)
敗退を覚悟した。
ところがルイン・ザは右足を軸に左足を滑らせて機体をターンさせる。その間に数射を放った。彼らの周囲には幾つもの紫色のプラズマボールが出現する。
(ビームを……迎撃した?)
衝撃の事態に意識を揺すぶられる。
認識できないほど多方向から彼女のザイーデンを狙ったビームが一度に消えたのである。それも、ビームにビームをぶつけて干渉したプラズマボールに変えることで。
「今の……。そんなの……」
あり得ないという言葉が出てこない。
大気圏内でも秒速にして三千mの距離を貫くビーム。その光条は目が慣れないと急に出現する一本の光の筋でしかない。それを飛んでくるものと認識して軌道上にビームを撃たないと起こらない事態なのである。
(当然みたいに)
ルオーのルイン・ザは彼女のザイーデンの周りをステップを刻みながら回り、丁寧にビームを迎撃していく。無数のプラズマボールが生まれた所為で今や高電磁帯ができてしまい、センサーにも影響してしまうほど。
「映像が不安定よ」
「カメラの素子に影響しています。お陰で向こうからもこちらの位置が不確かになりました」
彼の言うとおり、迎撃せずとも周囲に着弾するのみ。爆風に煽られ土埃が巻き上がるが、それさえも二機を隠すのにちょうどよかった。
「こうなったらたぶん……」
「接近してくるでしょうね。そこが狙い目です」
土埃を割って敵機が踏み込んでくる。スナイパーランチャーの砲口の真正面だ。一撃を喰らって反動で倒れている。
「どうして?」
「ルイン・ザは電子戦スペックも上げてあります。補正で接近が見えるようになっています」
もう一機撃ち落とす。
「いただきだぜ」
「遅いですよ、パット」
「そう言うな。これだけ獲物が多いとオレも忙しいんだ」
現れたカシナトルドがすり抜け際に敵機を薙いでいく。二人で撃破機を量産していく状態。撃墜判定を受けてカメラアイを赤くして去っていくアームドスキンが連続すると怖れをなしたか接近してくる者は少なくなった。
「ディープリンクで敵の位置はルイン・ザからパットにも伝わっています。彼なら正確に撃破していきますよ」
「そうだけれども、そうだとしても……」
絶句させられっぱなしであった。
最後はルオーが指揮官機を狙撃して片づける。三つ巴の乱戦状況だった峡谷の底がようやく静まった。またコリト・ノガ、ザンロロフともに一機ずつを失って、さらに戦力は減じているが。
「この状態だと残っている他家の部隊とはまともに戦えないわ」
彼女の配下はわずか五機に半減している。
「そうですか?」
「そうなの。まだ、カーデル家もピルデリー家も残ってるし、絡んできたリスカー家もね。優勝候補ばっかり」
「確かにこのままでは不利なことこのうえないですね」
ルオーも認める。
「どこかの時点で辞退を申し出るか、わたしが撃破されて終わり。後者のほうが格好はつくかもしれない」
「まともに戦えないのは事実です。では、皆がまともでない状況を作りましょう。そのためのこの位置です」
「なにを言ってるの? この位置って?」
単なる峡谷の一部でしかない。他と変わる部分は一つとして見出だせなかった。比較的見通しが良い点以外は変哲もない場所に思える。
ミアンドラの目の前でルイン・ザが伏せ撃ちの姿勢を取った。
次回『明るい道へと(6)』 「こんな状態だからこそこちらが有利なんですよ」