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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る
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明るい道へと(4)

 わずか数秒での退場劇に衝撃が走る。なにが起こったのか理解が遅れた部隊機もすごすごと退場エリアへと下がっていくしなかった。


(当たり前よ。あんな、ほんとcm刻みで狙わないといけないような隙間を三連射で一気になんて考えられない。いいえ、あり得ない)

 それだけ驚愕の出来事だった。


「パトリック?」

 混乱でひどく平坦な声が出たと思う。

「驚いてる場合じゃないよ、ミアンドラちゃん。ルオーはこの程度、平気でやるからさ。そうじゃないとオレの相方なんて任せてらんないぜ。無防備にルイン・ザの前に出た時点で終わり」

「無防備じゃないわ。リフレクタを……」

「リフレクタなんてあんまり頼りにならないかな」


 恐るべきことを、さも当然のことのように言う。本当だとすれば狙撃間合いのルオーはほぼ無敵という状態。


『ルオはすごいスナイパーなんだよぉ』


 クーファの言葉が蘇る。そのときは軽口の一つくらいと聞き流したが、今目の前で起きた現実はすごいの域を遥かに超えている。格違いの領域で狙撃というものをしていた。


「行きましょう、ミアンドラ様。敵部隊が群がってくる前に移動しないといけません」

 ルオーも複数の部隊を相手にする愚は避けたいらしい。

「わかったわ。上を取られるのは問題なしね。峡谷に降りましょう」

「正しい判断です」

「ついてきて」


 囲まれたくなければ狭い場所に入るしかない。そう考えただけなのだが、どうにか正解を引いたらしい。


(リンクでテキスト?)

 降下しつつ読む。


「コリト・ノガは前へ。ザンロロフは後ろで警戒」

 ルオーからの進言どおりに指示する。

「上はライジングサンがチェック。ターナ(ミスト)でレーダー通らないし視界悪いから突然の接敵ありよ。集中」

「あいよ」

「わざわざこんな狭いとこに入らなくてもよー」


 クレームが来るが無視する。それもテキスト内で指摘されていたからだ。


(どこまで想定内?)

 前を行くモスグリーンの背中に問う。

(この人、今の状況になるのを最初から狙ってた?)


「ルオー?」

 リンク内だけで送った声に心情が映る。

「驚いてる、ミアンドラちゃん? スナイピングショットってのはさ、見える敵を照星(レティクル)に収めるだけじゃなく、視界にターゲットを入れる状況を作るのも重要だからルオーは戦術を最大限に駆使するぜ」

「言われれば確かに。でも、ここまでとは」

渓谷の底(ここ)は接近ルートが限られる。オレたちの得意なフィールドに持ち込めたんだ」


 偵察に余念がなかったのはこのためだったのだ。彼らの機体にもすでに分析を終えたマップが備えられていることだろう。


(こんなに心強い。びっくりだわ)

 すでに術中だという。

(でも、スナイパーは接近されたら終わり。そっちをカバーするためのパトリック? 二人で遠近両面をサポートしてる?)


 それだったら、わずか二人での運用も納得できる。よほど大量の敵を相手にしないかぎり有効だ。ただ、現在がバトルロイヤルという大量の敵に包囲されている状態なのだが。


「油断なりませんよ。どこの部隊も地形の偵察くらいはしています。伏兵もありますから」

 ルオーが注意を促してくる。

「もちのろんさ。一気に囲まれる状態はキャンセルしたんだから、あとは任せとけ」

「無駄に目立ちたがるのが君って人でしょう?」

「そう言うなって。オレにも美味しいとこ寄越せよ」


 前方から別の部隊の接近を察知して砲撃戦が始まる。実機シミュレーションでは味わえない感覚が襲ってきた。出力を落としてあるとはいえ、岸壁を抉り表面を焦がして溶かすビームが横殴りの雨と化す。


(当たっても死なないっていっても怖い)

 リフレクタを掲げる手が震える。


 そんな中、パトリックのカシナトルドは平気で飛び出していく。軌跡を追うビームの束から身を避け、岸壁を蹴って敵部隊の前へ。いつの間にかと思えるスピードで抜かれたブレードが一閃する。


「もらいっ!」

「なんだとぉ!」


 受けに回ったアームドスキンのリフレクタごと弾き飛ばす。後ろに控えていた敵のブレードもかち上げ、自然に振り抜いた剣閃は胴体を薙いでいた。

 敵中に入った彼は当然のごとく集中攻撃を受ける。しかし、襲い掛かるブレードを叩き返しては一撃を見舞って屠っていく。


「こいつは!」

「逃がしませんから」


 散開しようとした敵機はルオーの狙撃の前に次々と撃墜判定を余儀なくされる。瞬く間に丸裸にされた指揮官機が呆然と立ち尽くしていた。


「ごめんよ。これも運命ってものさ。今度は別の場所で巡り会おうね?」

「ふざけたことを!」


 指揮官機のパイロットは激発するもパトリックの敵ではない。二閃でブレードグリップを跳ね飛ばされると無防備なボディを上下に舐める斬撃を受けて終了。前面に展開したコリト・ノガの隊機が活躍する暇もなかった。


(ちょ、強すぎない?)

 レモンイエローのボディが大きく見える。


「パッキー、格好いぃー!」

「ありがとちゃーん。でも、パッキーって呼ぶな」

「パッキーはパッキーだもーん」


 クーファの甘ったるい声が聞こえる。ライジングサンの船内で二人のガンカメラ映像で観戦しているか。


(あれ? どうして繋がってる? そもそも、このターナ(ミスト)放出された戦場でどうしてディープリンクなんて可能なの?)


 疑問を覚えたミアンドラだったが、それを追求する暇はなかった。

次回『明るい道へと(5)』 「今の……。そんなの……」

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