明るい道へと(3)
準決勝に勝利したロワウス家率いる士官候補生の部隊は決勝で敗れる。押し気味のところを引き込まれ、後衛に覆い被さるように後ろを取られて挟撃されたのだ。経験の浅いパイロットはそれだけで浮足立ち、本来の力が出せずに終わった。
「残念でしたね」
額を押さえるミアンドラをルオーが慰めてくる。
「カーデル家が一枚上手だったのよ。求心力と作戦能力がまだロワウス家は足りないわ」
「そうですね。まだひっくり返す手があったのに留まってしまった」
「ルオーならどうしたの?」
ちなみに尋ねてみる。
「下は空いていたので降りました。峡谷に誘って敵部隊を引き伸ばします。あとは狭所を利用して一気に」
「上空を取られるわ。追ってこなかったら?」
「弾幕の餌です。急加速の難しい重力圏内なら効率的に消耗させられます」
距離が近いのでビームは一瞬で飛んでくる。回避しようとすれば極端な加速が必要。しかし、宇宙空間と違って最大限に反重力端子を使っている状態ではパイロットへの負荷が大きすぎる。
「紙の箱に入れられてシェイクされるようなものだしね。すぐに参ってしまう」
容易に想像できる。
「対して着地状態ならグラビノッツ出力を落として足を使った回避ができます。上空を取られても痛くも痒くもないですよ」
「考え方一つね。正々堂々と空中でという今の伝統戦術も穴が多いんだわ」
「重力波フィンタイプなら加速もソフトで少しは和らげるのですが」
国軍採用機はまだパルススラスタータイプが主流である。
「二人のアームドスキンは重力波フィンなのね?」
「用途が多様なので助かってます」
「お父様に早い切り替えを進言するべきね。耳を貸していただくには、わたしも実績を挙げなければだけど」
子どもの戯言だと一笑に付されてしまう。軍閥に限らず大人の実力社会の仲間入りをするには成果が不可欠だ。
「勝ちたいですか?」
言うまでもないこと。
「勝ちたいわ。少なくとも半分より上に行きたい」
「わかりました」
「安請け合いするのね」
くすりと笑う。
正直、現有戦力ではカーデル家やピルデリー家には全く敵わない。パイロットの質が違いすぎる。できるだけ当たらないよう立ち回って生き残るのが精一杯だろう。
例えパトリックがどれほど優秀であろうと、ルオーがどれだけスナイピングのレベルが高かろうとひっくり返せないほどの差がある。それはミアンドラがよく知っている。
「では、準備いたしましょう」
「ええ、総員搭乗」
『σ・ルーンにエンチャント。機体同調成功』
「システム、演習プログラムで機体出力100%」
『演習プログラム実行。機動及び駆動を100%に設定しました』
システムの応答を待って先頭を切る。
ランダムに設定されたスタート地点へと移動する。幸い、有力二家とは離れて配置されている。ただし、それは彼らがどこに配置されているかを他の部隊が知っていることも意味する。無名も無名の弱小部隊はいい的でしかない。
(ん? ディープリンクリクエスト?)
随伴するモスグリーンのアームドスキンからのものだ。
『ルイン・ザ』と表示されたルオーの機体が彼女の国軍開発機『ザイーデン』への通信密度太めのリンクを求めてきている。護衛するのに必要なのかと応じることにした。
「システム、ディープリンク受諾」
『ディープリンク接続します』
機体システムが実行する。
「お、ミアンドラちゃんとも繋がった?」
「パトリック? 言われれば当然ね。貴殿とルオーはバディですもの」
「そこまでさせるとは君もやるじゃーん。ルオーを本気にさせるとはね」
なにを言われたのか理解できない。
「オレの活躍見てるといいさ。どうやら勝ちに行く気だし」
「貴殿まで? 本気?」
「ルイン・ザの後ろでゆったり構えてればいい。すぐにわかるから」
設定位置まで移動するとザイーデンを着地させる。前にルオーのルイン・ザ、横にパトリックのカシナトルド、左右前面をコリト・ノガとザンロロフが固めた。各隊の配置が確認されてスタートのブザーが一帯に鳴り響く。
(早く動いて身を隠すべき?)
目の前の峡谷に飛び込みたい気分。
しかし、許してくれない。スタートから速攻をかけた部隊に頭を取られる。峡谷側上空に陣取られた。
「しまった」
不慣れからワンテンポ指揮が遅れる。
「終わりよ、ロワウス家。参加賞だけ」
「おやおや、馬鹿だな。そんな真正面に陣取ったらすぐにリタイヤだよ?」
「なにを言ってる?」
ルイン・ザのスナイパーランチャーがアームに支えられて右脇へと回る。手に取ったルオーは無造作に砲口を上げた。
「無駄なことを」
全機リフレクタを掲げている。
細く絞られたスナイピングビームが走る。指揮官機のリフレクタ上端に命中した。反動でそのザイーデンは上向きになる。そして、足元がリフレクタの範囲から外れた。
次の一射がその下肢に直撃する。ビームは表面で弾け破壊はしない。しかし、質量分の反動は表れ、今度は機体を前へと傾ける。前かがみになったアームドスキンの首元から腹部へと光条が舐めた。
「はい、おしまい」
「なんでよー!」
一瞬の出来事だった。指揮官機を撃墜状態にされた部隊は敗退が決定する。わずかビームの三発で彼らは試合からの退場が決まったのだ。
(今のを全部狙ってやった? 偶然じゃなく? そんなことが可能なの?)
ミアンドラは刹那の勝利に唖然とした。
次回『明るい道へと(4)』 「無駄に目立ちたがるのが君って人でしょう?」




