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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る
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明るい道へと(2)

 簡単な打ち合わせを終えるとミアンドラは式典に参列するためその場を離れた。待機している民間軍事会社(PMSC)メンバーたちは大統領や軍務大臣の式辞など聞き流している。


「で、あれが終わったら先に操機士部門の試合が行われるわけね」

「そうですよ、パット。指揮官部門とかなり編成やルールが違いますけどね」

 ルオーは説明する。


 操機士部門はアームドスキン三十機同士の対戦形式の演習試合となる。予選はすでに終わっていて、上位四チームが今日の本選に挑むのである。

 勝敗はどちらかが十五機を失い半減した段階で敗北となる。多チームがバトルロイヤルとなる指揮官部門とは違い、準決勝決勝が続いて行われるのだ。


「こっちが本命だから、観覧者向けにいい時間帯に行われて夜には配信もされる、と」

「軍の花形の戦いですからね。国民も自然、こちらに注目します。指揮官部門はコアなファンや華やかな軍閥女子が競う姿を見たい人用ですね」

「オマケみたいなもんか」


 注目度は落ちる。とはいえ、軍閥名門同士が競い合う場に変わりなく、熾烈な派閥争いの的であるのは確かだ。


「なあ、お前。リスカーのお嬢さんに一泡吹かせたんだって?」

 同じ隊になる『ザンロロフ』のパイロットが話し掛けてくる。

「絡んできたんで少しね」

「デクターズを向こうにタイマン張るとはなかなかの腕だな。あそこは古参も古参で社内でも腕利きを揃えてるはずなんだが」

「そうだったか? まあ、オレにかかればあの程度、大したことないけどさ」

 ニヤニヤ笑いの男に答える。

「そっちのあんちゃんはさっぱりだったそうだけどな」

「うちの相方は喧嘩がからっきしなんだよ」

「おいおい、大丈夫かよ、そんなんが姫さんのガードで」


 全体の支援もするルオーの腕前を疑ってくる。そう言われても、腕っぷしには全く自信がないので愛想笑いで誤魔化した。


「頼りねえなあ」

 ゲラゲラ笑われる。

「なにしてるのよ」

「っと、お帰りですかい、ミアンドラ様」

「あんまりいい空気じゃなかったけど?」

 疑念の目つき。

「いやあ、そっちの金髪の兄ちゃんが使いもんにならねえって噂聞いて指揮官閣下の身を心配していただけですって」

「う、それはね。まあ、わたしもそれなりに乗れるからどうにかなるわ」

「墜ちないでくださいよ。閣下が墜ちたら即敗北なんすから。順位報酬くらいは届くと助かるんすけどね」


 民間軍事会社(PMSC)には出来高ギャランティも設定されていた。順位に見合う報酬を約束する契約でパイロットのモチベーションを上げる伝統の手法らしい。


「三位以内? そんなのルオーの腕前以前にあなたたちの努力次第じゃない?」

 ミアンドラはそれほど名のある会社ではないと皮肉る。

「きついこと言ってくれますねえ。善処はしますって」

「まともな指揮ができればって言いたいみたいね。やってやろうじゃない」

「まあまあ。操機士部門の試合、始まるぜ」


 総勢六十機のアームドスキンが対峙しファンファーレが鳴り響く。スタートのブザーと同時に両者が動き出し試合が始まった。


「砲撃戦からかよ。わりとオーソドックスなんだ」

 光の筋が互いを縫っている。

「伝統の戦いだもの。あまり奇策は好まれないわ」

「基本、空中戦ですか。地形を活かすつもりはないみたいですね」

「正々堂々とした勝利を求められるの。やっても、誘い込みくらいね。伏兵を置ける時間もないし」

 整列したところから始まる。

「やり方次第ですけどね。特にこんな峡谷ステージならば」

「そうね。やり方がなくもない」

「観兵式の域を出ないというとこですか」


 ルオーは冷静に戦況を見ていた。


   ◇      ◇      ◇


(へぇ、どちらかっていえば戦術家タイプなわけね、ルオーは)

 峡谷に言及した彼をミアンドラは見直す。

(操機士部門だと嫌われるけど使い道はある。実際、わたしは戦術に取り入れるつもり。そうしないと勝てないもの)


 話が合ったのは思考が似ているからかもしれない。ルオーと相談しながら進めるのも有りだと心に留めた。


「動くか。このままじゃ混戦になってしまうな」

「大体はそんな流れ。メインは個人技ね」


 互いに数機の撃墜をされたところで衝突する。戦列は組んでいるものの、そのまま交わるだけの戦闘になる。一斉にブレードの光が瞬き、そこらじゅうで激突の紫電が舞い散った。観覧艦内は湧いていることだろう。


「向かって右、少し優勢か」

「お兄様がたがいる部隊よ。パイロットとしては群を抜いてるもの」

「おっと、そっちを応援しないと駄目だったとはね」


 乱戦が続き、仮想撃墜機が退場する中で再びブザーが鳴る。ロワウス家率いる部隊が優位に進め、敵の半数を削って幕を閉じた。全てが空中戦で済んでいる。


「バトルロイヤルだとこうはいかないから。お互い、位置取りに苦心するからそのつもりでね」

「地形が活きるのはそっちってことか、OK。まあ、素人にウケない地味な展開になるわけね」

「それも事実。でも、参加する側は本気よ」

 部隊運用の難易度は上がる。

「その中で勝ち残ってみせればアピールになる、と」

「ターナ(ミスト)がある以上、隠れてのゲリラ戦も可能ですけどね」

「考えとくわ」


(それが通用するのは大したことない相手にだけ。名家の部隊には出てきたところで一蹴されると思う)


 先行きは甘くないとミアンドラは覚悟を決めていた。

次回『明るい道へと(3)』 「安請け合いするのね」

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