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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る
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明るい道へと(1)

 星間銀河圏では公式に扱われている兵器情報を共有する情報ボードがある。公表されているスペックまで記されているそれは一般に戦闘ボードと呼ばれていた。その中にはもちろんアームドスキンに関わるセクションもある。


「アームドスキン『カシナトルド』。管理局兵器廠の最新機体じゃねえか、おい。まさかのイオン駆動機搭載だぞ」

 泡を食っている。

「冗談は止せ。そんなの照合ミス……、合致してんじゃんかよ」

「カラーは正式採用と違ってるがフォルムはピッタリだろ?」

「じゃあ、ほんとに?」


(嘘でしょ? イオンスリーブ搭載機? 我が軍の半分を占める購入機、ガイステニアの『ヨゼルカ』だってほんの十機あまりをなんとかイオンスリーブ搭載型にしたっていうのに?)

 ミアンドラも唖然とする。


 そこまで詳しくはないが、世の中にそれほど出回っているアームドスキンではない。パトリックがマロ・バロッタのゼーガン家の嫡子だと知っているから一笑に付すほどではないが、それでも相当苦労しなければ入手できないはずである。


(見劣りするかも)


 彼女の乗機は国軍所有機の残り半分を占める自国開発のアームドスキン『ザイーデン』。ヨゼルカのようなメーカー量産機よりはカラーを出してパワーアップしてあるが、次代を変えるといわれている最新鋭のイオンスリーブ搭載機には追いつかない。


「もう一機も見慣れないアームドスキンだぞ?」

 ルオーの機体を見ている。

「かなりヘビーカスタムの機体だ。あそこまでいくとベース機が見えてこないぜ」

「まともな照合値がないぞ。挙がったやつでも軒並み70%台がいいとこ」

「お? 一つだけ85%ってのがあるじゃないか」

 覗き見ると真紅のフォルムが光っている。

「それこそ冗談きついぜ。これってあの『ヴァン・ブレイズ』だろ?」

「おう。メルケーシンのクリムゾンが使ってる専用機だ。そんじょそこらにあるもんじゃねえし」

「偶然だ、偶然。馬鹿らしい」


 ルオーのアームドスキンはどこの製品かわからないようだ。ただ、見るからに専用カスタムが施されている。背中にロングバレルのビームランチャーを背負った、いわゆるスナイパーカスタムである。


(まさか、これ、専用機とか言わないでしょうね?)


 専用機ともなれば莫大な開発費用が掛かる。それ以上にとてつもない技術力の裏打ちが不可欠だ。弱小民間軍事会社(PMSC)が持てるようなものではない。


(そういえば二人がなに乗ってるか確認もしなかったけど)

 頭を振って否定する。


 降着姿勢を取った二機がパイロットシートを押し出してくる。カシナトルドもルオーの機体も前面の胸部装甲が前にずれ、頭部の前まで引き上げられた。

 一般的なフロントハッチ方式ではなく、最近流行り始めている強度の高いブレストプレート方式である。彼らのように一線で使うアームドスキンは常に最新にバージョンアップしていかないと厳しいのかもしれない。


(実戦経験値だと比べものになんないのかもしれないわ)

 命懸けが日常であれば金に糸目は付けていられないものかと想像する。


「やあ、おまたせ」

 シートにヘルメットを放り出してパトリックが降りてくる。

「待ったわよ」

「いやー、真打ちは最後に登場ってね。定番じゃん?」

「貴殿の所為なの?」

 予想は裏切られた。

「すみません。全然聞かなくって」

「てっきり寝坊したのかと」

「僕だっていつまでも寝てるわけじゃありません。一時間前には起きましたよ」

「遅いわよ!」

 緊張してあまり眠れなかった彼女を嘲笑うような言。


 半ばトレードマークのようになっている寝癖を手櫛で整えながらやってくる。クーファは降りてくる様子はない。戦闘艇で待機らしい。


「ざっくりと打ち合わせさせて」

 パイロットを集める。

「混ぜても難しいだろうから分けて運用するわ。右にコリト・ノガ、左にザンロロフでお願い。ライジングサンは直掩で随時動かします」

「了解でさあ」

「両社は問題ないわね? 二人に確認しておくけど、演習プログラムで戦闘します」


 演習プログラムとは、ビーム兵器やブレードのような斬撃兵器の出力を制限される状態のこと。どんなアームドスキンにも搭載されているプログラムである。

 機体にダメージのない出力の兵装で戦い、エネルギー兵器の接触判定を機体表面のセンサーが行う。パーツ破壊や撃墜判定が表示されそこの部位をパイロットが停止させるスタイル。


「ゾンビ行為は厳密に監視されているから絶対禁止。そもそもパイロットの精神にもとる行為よ」

 アームドスキンの機動停止はパイロットの生命に危険を及ぼす可能性があるので個々の任意で停止状態にする。

「部隊の全滅か、もしくは指揮官機の撃墜、あるいは指揮官判断の途中辞退で敗退が決定。部隊機が一機でも残っているうちは継続可能よ」

「わかりました。僕はミアンドラ様のザイーデン前面で護衛に当たります。基本的にはその運用でお願いします」

「盾になってくれるのね。ありがとう」


 指揮官機が墜ちたらおしまいである。考え方として正しい。スナイパーの運用としても正解の配置だろう。


「ざっくりだけどそんな感じで。パトリックは動きを見て判断するわ」

「はいはい、よろしく。さすがのオレもちゃんと従うさ」


 ミアンドラは簡単な打ち合わせを終えた。

次回『明るい道へと(2)』 「オマケみたいなもんか」

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