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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る
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険しい山越え(1)

「ありゃ、妨害工作も有りだって判断か?」

「無いと言い切れます?」

 ホテルの部屋に戻っての会話だ。


 パトリックはミアンドラのガードまで引き受けたことに言及している。ルオーは彼女を潰しにかかるような問題の発生を危惧して動くつもりになったと返す。


「金まで取らなくてもいいじゃん」

「そうしないとミアンドラ様のほうが気兼ねして単独行動や危険と知らず動いてしまう可能性があります。依頼(オーダー)って形にしたほうがいい」

「気、遣うな。そこまで入れ込むか?」

「守りたくもなるでしょう、ああも純粋では」


 ミアンドラは優秀だが世間知らずでもある。現実を知るのも成長に糧になるが、それは彼女が傷つかない形であるほうが望ましい。あの年頃では全てに絶望してしまいかねない。


「ティムニ?」

『はいはーい』

 彼のσ(シグマ)・ルーンからアバターで飛び出してくる。

「『コリト・ノガ』と『ザンロロフ』という民間軍事会社(PMSC)だそうです。どこの陣営です?」

『実績見る範囲だと軍閥のリスカー家ってとこが小間使いにしているみたい。今回の観兵でもパヴァリー・リスカーって女子を候補者に出してきてるー』

「なるほど。順位的には?」

 ライバル視しているかの話。

『それ以前にロワウス家の実績が全く無くてライバルもなにもないって話ー』

「普通に考えれば妨害工作など仕掛ける必要さえない状況ですか。それなのに策動の気配があるとなると」

『あの子の成績が問題なのかもねー。三つ四つ上の生徒を歯牙にもかけない断トツトップ。その才気が指揮官職に向けられ開花するのは避けたいってー』


 士官学校内部での派閥争いに巻き込まれている可能性が高い。ただ、ミアンドラ本人はそんなものに目もくれず、自身を高めることにしか興味を抱いていない。


(逆にそういう態度が鼻についたのかもしれないけど)

 そういう人間の機微にもまだ疎い感触だ。


「軍閥の各家でも派閥形成してます?」

 敵情把握をしておきたい。

『少なからずー。トップクラスのカーデル家やピルデリー家に大きな勢力争いはないけど、一段下の家は徒党を組んで上を脅かそうって動きはあるー。リスカー家もその一つ』

「リスカーに従っているのは?」

『目立つとこだとウンザー家とかオカモ家って名前が挙がるかなー』

 そこあたりも候補者を出してくるらしい。

「やはり、下工作をしてくるあたり本番は観兵試合と見定めてるみたいですけど。その前に仕掛けてくる怖れもありますね」

「あんま強めに撃退しないほうがいいんじゃね? 最悪、試合中に厄介な手出ししてくるかも? 例えば事故を装って実戦出力で撃ってくるとかさ」

「あり得ますね。まあ、相手方がアクション起こしてくれないと対応のしようがありませんけど」


 パトリックの懸念ももっともである。契約会社は金銭的工作をしているようなので試合まで無視していい。問題は他の家だ。派閥のまとめ役のリスカー家の歓心を買おうとするあまり過激な手段に訴えてきかねない。


「要警戒だな」

 口にしなくともパトリックも心得ている。

「危ないのぉ?」

「少しですね。まさか、僕たちの身内まで狙ってくるほどではないと思います。それどころか、こちらの情報を把握していなくて探りを入れてくる段階でしょうね」

「じゃ、ルオの後ろにいるぅ」

 クーファには「そうしてください」と微笑みかける。

「試合まであと三日か。活躍するには、あのお嬢ちゃんの心が折れないよう締めて掛からんとな」

『わかる範囲で動向は監視しとくー』

「ほどほどに。他国で君の実力を見定められるのは面白くありませんから」


 ティムニには自制を促しておく。それほど複雑な情勢ではない。これに政争まで絡んでくると、もっと広範囲に目配りをしなくてはならないからだ。


(軍の力が大きいとはいえ、外交にまで関与するほどではない模様だしねぇ。軍閥ってのは大体に戦争好きだけど、ここはそんな感じじゃない)

 温和な政策を執っている。

(あとはミアンドラ様のお父上の思惑が知りたいとこだなぁ。有力軍閥の長ともある方が迂闊だとは思えない。なにを思ってこんな差配をしたんだか)


「ふぅ」


 ルオーは重なる危惧を鼻息にして抜いた。


   ◇      ◇      ◇


 翌日は戦場になる地域を視察しておく予定だった。思い起こしてライジングサンの彼らに連絡をする。屋敷まで迎えに来てくれるそうだ。


(なんだか楽しい)

 ミアンドラは心が弾んでいる。

(ルオーはよく頭が回るし、パトリックはかなりの自信家みたいだけどその分実力もありそうで頼りになる。クーファも同い年の友達みたいな感じ)


 士官学校では味わえない感覚を味わっている。観兵試合まで学校は休みになっているが、行けば剥き出しのライバル心と直面することになる。それは親に認められたい子どもっぽさからくるものだと彼女は思っていた。


(大人になれば政治もしなくちゃいけない。変な対抗心なんて国を守る義務のあるわたしたちには無駄なもの)

 今みたいな子どもの感情は捨てねばならない。

(卒業するまでは我慢って思ってた。でも、飢えてたのかも。友達感覚で付き合える仲間っての、やっぱり心の平穏には大事なのね)


 ミアンドラは彼らの到着を告げる呼び出しに席を立った。

次回『険しい山越え(2)』 「アミューズメントのバーチャルマシンみたいで面白いのぉ」

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