小姫に見込まれる(4)
惑星ガンゴスリに定宿を持たないライジングサンはその後もミアンドラに都合してもらったホテル住まいとなる。次の日には、彼女が契約した国内民間軍事会社のメンバーとも顔合わせという段取りになった。
「付き合わせて悪いわね」
少女は気まずげである。
「別に構わないさ。やることないし、試合の日にはともに戦わなきゃならん部隊の一員じゃん」
「まともな訓練時間を取って連携を深めてる暇はありませんし、顔を合わせる程度ですしね。お気になさらず」
「ルオみたいな人たちぃ?」
クーファは他の民間軍事会社を知らない。
「いいえ、あまり期待しないでください。国軍くずれのアウトローが少なくない業界です。できるだけ近づかないように」
「危険なのぉ」
「お持ち帰りされちゃいますよ」
様々な趣味の者が混在する社会である。中にはクーファのような獣人種の女性を下に見て無碍な扱いをする輩がアウトローには存在するのは事実だ。
「ミアがお持ち帰りされるかもぉ」
ミアンドラを気にする。
「彼女はそういった輩と付き合う心得があります。多くの兵士を指揮する立場になるのですから、清濁併せ呑む心持ちがなければやっていけません」
「すごいのぉ」
「も、もちろんよ」
(おや、少し自信なさげだね? あまり制御が効いてる感触がないのかもな)
そこまで教育を受けていないのだろうか。
案の定、彼女の後ろについていった先のロビーで待っていたのは、あまり風体の良い連中ではなかった。民間軍事会社『コリト・ノガ』と『ザンロロフ』のパイロットたちは、あからさまではないが雇い主を見くびった視線を向けてきている。
「揃ったって聞いたんすが、そいつらっすか、ミアンドラ様?」
今度はあからさまに値踏みされる。
「ええ、彼ら二人。国外事業者だから面識ないでしょう? 『ライジングサン』のパトリックとルオー。仲良くしろとか注文しないから、上手に合わせてちょうだい」
「しろって言われりゃもちろんしますよ。いただくもん、いただいてるわけっすし」
「無理は言わない。契約に従ってくれれば十分だから」
少女にしてみても信頼どころか信用も怪しい様子。本当に数合わせで集めた顔ぶれなのは疑いようもない。
(厳しいなぁ。参加するには準備が足りない感じ。なにを思って出場しようと思ったんだろう)
ミアンドラの内心が見えない。
会話らしい会話もなく、本当に顔を合わせただけで解散のくだりとなる。急増部隊での指揮を見せるのが本旨にしても、これでは勝つ気があるのかどうかもわからない。
「兄ちゃんよ」
去り際に呼び止められる。
「なんです?」
「適当に流せよ。そしたら美味い汁吸えるかもしれないってもんだ」
「そうですか。ご忠告感謝します」
「あの色男の兄ちゃんにも言っときな」
(これはちょっといただけない)
裏が見えてきた。
「折りいって訊きたいことがあるのですが、ミアンドラ様」
快く応じてくれる。
「どういう伝手であの二社と契約にこぎ着けたのですか?」
「前にも言ったでしょう? ロワウスの家でどうにかしてくれたって」
「その『どうにか』の部分は明かせない類の話です?」
重要ポイントである。
「別に。お兄様たちに相談してお父様に話を通していただいたの。確か、他の軍閥にお問い合わせして手筈を整えてくださったらしいわ」
「それは本当です?」
「ええ、なにか変?」
伝手がないから誰かを頼ろうとした。家としても実績がないから他家を頼った。そこに問題を感じなかったのだろうか。
(なんというか、彼女も彼女だが当主殿も当主殿だね)
ちょっと呆れる。
(正直者にもほどがないかい?)
もし、ミアンドラの台頭を良しとしない相手であったら。もし、弱冠十三歳にして士官学校に入ってくるほど努力家の子女を危険視していたら。もし、若いうちから芽を摘もうと画策していたら。そういうふうには考えられなかったのだろうか。
「それって大丈夫かい?」
パトリックも名家の子女だった経験から危惧する。
「なにが?」
「他家は君の家のことをよく思ってないかもしれないじゃん」
「まさか。国を守るべき同じ軍閥の一員よ。足の引っ張り合いしてどうするの。それは反国家的行動で忌むべき行為じゃない」
微塵も疑っていない様子で真っ直ぐに言う。
「あり得ないわ。国軍観兵試合だって、互いを高め合う場として設けられているの。確かに戦う場でもあるけど、それは優劣を決するのではなくより高みを目指すために実力を競い合うよう国民に求められていると誰もが知ってるもの」
「ミアンドラ様も今回は空気を感じるつもりで参加なさるんですね?」
「ええ、来年までにはいい勝負できる体制作りがしたいわ。それにはわたしの顔を知ってもらうのも大事だと思うの」
(これはまた、どこまでも透明なんですね。名家に生まれた者の定めとして国民に奉仕の心で尽くそうとしている)
しかし、世の中そんなに甘くない。
「やはり、契約金に少し色を付けてもらってよろしいですか?」
提案する。
「あら、少しは本気出してくれる気になったのかしら。よろこんで」
「その代わり、当日までのガードも請け負います。お出掛けになるときはご用命ください」
「そこまで要求してないのに。でも、ありがとう」
怪訝なパトリックと視線を合わせてルオーは頷いた。
次回『険しい山越え(1)』 「守りたくもなるでしょう、ああも純粋では」