小姫に見込まれる(2)
「ところで確認ですが」
「なにかしら?」
ルオーはミアンドラに肝心なことを訊く。
彼女が間違いなく正式な指揮官部門試合出場者であるか、だ。なにせ、見るからにローティーンの少女である。惑星国家ガンゴスリではこの年代から士官学校の生徒なのだろうかという疑問である。
「それね。わたしは飛び級で士官学校に入学したの。今、十三歳よ」
こともなげに言ってくる。
「では、さぞかし優秀なんでしょうね」
「まあね。勉強は嫌いじゃない。やればやるだけ身につくもの」
「それはそれで才能なのですが」
努力の天才であろう。
「でも、勉強ができるだけでは出世できないわ。少なくとも軍閥の家に生まれたからは。まずは指揮官としての力を示さないといけないの」
「あなたには家名が枷になっているんですね」
「そうでもない。使えるもの。あとは効率よく利用するだけ」
強かな少女である。パトリックのように環境から変えるのではなく、環境を利用してステップアップしていこうという気構えを感じる。
(彼女は指揮官よりは政治家向き。でも、名を使って指揮官として大成して民心を得ようとしているんだろうなぁ)
自身にできることを模索している。この幼さにして将来有望だ。
「指揮官の道は一本じゃないみたい。色んなタイプが存在する。決まった習得法がなくって、まずは実践からって状態」
内心を吐露する。
「だから、あなたたちが望むような成果をすぐには差し上げられないと思う。そんな状態で契約しろだなんて言えた義理はないわね」
「頭数は揃っているんですか? レギュレーションでは一部隊指揮官機プラス十機までですよね?」
「四機保有の二社までは家の伝手でどうにか確保したわ。でも、わたしがこんなでしょ? 勝ちを見込めないって露骨には国内企業の面々も言いはしないけど敬遠されてしまって、オーディション会場に勝負を懸けてみたの。それでも、国外企業にさえ子どものお遊びって思われてるみたい」
致し方あるまい。
「有力候補者の皆さんは軒並み十九歳から二十歳というところですか」
「見劣りしちゃうわよね。それは認める」
「アームドスキンに乗っての参加ですから体格差は関係ないでしょう。でも、経験値を問われますよね」
現在、力のある候補者は十六歳くらいから研鑽を積んで今の位置にある。幼さはハンデ以外のなにものでもない。国内民間軍事会社だとて、有名なこの観兵試合で示す実績が依頼の糧になる。勝ちが見込めなければ動かない。
「無謀な挑戦なのはわかってるの。でも、経験しないことには始まらないわ。その一歩目でつまづいちゃってるけど」
やれやれというジェスチャー。
「レギュレーション上、八機での出場も可能ですが集められないこと自体が指揮官としての評価を下げることになるでしょう。来年が厳しくなりますね」
「そうなの。わたしとしては数合わせだけ。そんな内情では目立ちたいという二人の目的は果たせないわ。すぐに終わってしまうかも」
「うーん、そいつは非常に困るんだが」
パトリックも難色を示す。
少女は諦念に捕らわれている。相方と同じくオーディション会場を巡ってフラれ続けているのだろう。
「話聞いてくれてありがとう、ルオー。あなたとの会話は面白かったわ。自分を見つめ直すきっかけになったもの」
握手の手を差し出された。
「そうですねえ」
「来年までにどうにか顔繋ぎしてみる。会場を駆け回るわ」
「待ってください。検討の余地はあります」
握手ではなく、少女の手を下から受ける。
「おいおい、本気か? どうせ他に当てのない国内の弱小が付いてるだけだろ?」
「だからこそです、パット。もし、そんな弱小部隊が快進撃を演じたらどうなります? 間違いなく注目の的でしょう。そうしたら?」
「まさか、エスメリア嬢とかからお誘いの言葉があるかも? 悪くないな」
少なくとも来年への布石としては絶好機だとそそのかす。パトリックは考え込むフリをして、すでに心ここにあらずという雰囲気だ。妄想の翼をはためかせている。
「いいの、ルオー? もちろん契約金は色を付けて差し上げるわ」
「いいえ、相場で結構ですよ。それこそ悪い噂のもとになってしまいます」
(こんな健気に身を立てようとしている少女の手助けをしないでどうするって話だよね。失敗するにせよ成功するにせよ、僕がなんとかしてあげたいって人を助けるために起業したんだから)
話をまとめるつもりだった。
「契約いたしましょう。我らライジングサンはミアンドラ様麾下で観兵試合に出場し、叶うかぎりの戦果を挙げるとします」
取った手に額を添える。
「ありがとう、ルオー。パトリックも。わたし、精一杯頑張ってみる。勉強中でどこまでやれるかわからないけど、どうにか大統領閣下や観客の目に留まるくらいの活躍はしてみせるから」
「仕方ないな、リトルレディ。オレが銀河の英雄になる一歩を君に捧げるとしようか」
「若造に見えると思いますけど、それなりに場数は踏んでいます。多少はお役に立てると思いますよ、ミアンドラ様」
心痛の晴れた少女の最高の笑顔をルオーは眺めることになった。
次回『小姫に見込まれる(3)』 「そのためにオーディションに参加したんですからね」