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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
捨てる神あれば拾う神あり

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きざはし踏むは(6)

 イルメアが出撃すると、再度ガンゴスリ部隊が敵右翼に展開している。司令部は彼女の要望どおり正対する左翼に配置された。とにかく、彼女はライジングサンにぶつけるよう、ルビアーノ大統領に厳命されている。


(どうせ、あの男はあたしの復讐心を最大限利用するつもりしかない。対ライジングサンのちょっと強くて便利な駒くらいにしか考えてないだろうからね)

 承知している。

(なら、こっちも最大限利用させてもらうさ。念願はルオー抹殺(それ)だけなんだからね)


 今もムザの最後の苦鳴が耳によみがえる。ルオーにはそれ以上の苦しみを与えて殺してやらねば気がすまない。そのためなら、パイロットスキルでも女としての身体でもなんでも利用して構わない。


「あれも、厄介っちゃ厄介そうなんだけどさ」


 中央では競り合いが始まっていた。中心にいるのはやはり傭兵(ソルジャーズ)の青いアームドスキンである。再び相まみえたその機体は奇妙な武装を搭載していた。

 背中には二枚のリングがアームで格納されている。接近してくると、そのリングが両サイドに開き、腕を通ってショルダーユニットを縦に巡るような位置で固定される。


「あれから切断ビームを発射するんだね。この前は結構な数がやられちゃったみたい」


 撃墜されたり大破機が多数出ていた。通常のリフレクタでは防ぎきれずに脚や腕を削がれるからだ。

 しかし、今日は青いアームドスキンの前にもリフレクタアタッチメント装備機が配置されている。前面を全て覆えるリフレクタがあれば切断ビームを怖れずともよかった。


「きっちり抑え込めてるね。じゃ、あたしらはライジングサンを始末するよ」


 イルメアが率いているのは大統領の直命を受けている部隊である。だから、ライジングサンだけを狙って行動することを許されている。非常に好都合だった。


(あいつ、どれほど恨まれたら軍部の頭越しに直命されるような羽目になるんだろうね。誰にも憎まれるとか、ろくな人間じゃない)


 ムザは偶然出会って会話したらしいが、彼女は直接ルオーに会ったことはない。簡単な公開プロフを見ただけである。ただの冴えない若者に見えるが、その実いやらしい攻撃ばかりしてくる厄介者だ。


「そういえば、やけに仕掛けてこないじゃないさ。また、タイミング計ってる?」

「いえ、前列の軌道部隊はもうガンゴスリ部隊と交戦中ですけど」

「ほんとだ。しょうがないね。突付きに行ってやろうじゃない」


 すでに衝突している。左翼は彼女含むリフレクタカラマイダ部隊が戦列に加わっていないので、砲撃戦も終わり白兵戦距離に詰まっていた。それなのに、スナイピングビームの輝線が走っている様子がない。


(崩してこない? あたしに居場所を察知されるの避けてる?)


 見つかったら突進してくるとでも思ったか。それくらいの執着心を見せてしまったのは否めない。


「ゆっくりでいいからついてきな」

「了解です」


 前列の真後ろあたりまで押し出す。それでも、印象的なライジングサンのアームドスキンの姿は見えなかった。


(あたしを怖がってるとかないね。まさか、別方面にまわった?)

 五分で戦いで敬遠してくるタイプではない。


 そんなことを考えていると、敵の布陣の向こうに光が見える。間違いなく重力波(グラビティ)フィンの金翼だ。見つけたかと目を凝らすと、その意識にσ(シグマ)・ルーンが反応して望遠モードになった。


「近い? 違う、大きい? そ、そんなんじゃない!」


 両軍の衝突する戦場目指して、なにかがとてつもないスピードで接近してくる。アームドスキンではない。船体と変わりないサイズの金色の翅を生やしているのはイエローグリーンの戦闘艇だった。


「ライジングサン!」


 あまりの突拍子の無さにイルメアは目を丸くして固まった。


   ◇      ◇      ◇


「見えてるぅ?」

「見えてますよ」


 ルオーはまだ発進していないクアン・ザのコクピットで外の様子を見ている。特段変わったことではないのだが、見ている回線が違っていた。それは、操舵室(ステアハウス)にいるクーファの目を通した映像なのである。


「かなり共有できてますね」

「クゥにも見えてるぅ」

「僕が感じてる射線っぽいものまでです?」

「だよぉ」


 猫耳娘が新たに手に入れた装具(ギア)は単なる飾りではなかった。彼を含めたパトリックやゼフィーリアとのディープリンクに加われる性能がある。しかも、それぞれの感覚共有まである程度可能だときた。


(ちょっと、とんでもないスペックじゃないです?)


 σ(シグマ)・ルーンのことではない。確かにルオーの着けている輪環型の高性能なものに匹敵する。それ以上に高スペックなのはクーファの処理能力のほうだ。彼と半ば感覚共有しているのに、自身の意識や感覚も確保されていて普通にしている。


(ほとんど、二人分の感覚を得ているようなものなんですよ? それで平気でいられます?)


 特に彼が感じてるものは極めて特殊なはずである。相当密度が濃いはず。それなのに、いつもと変わらない会話が成立している。


「僕の感覚()を使って照準できそうです?」

「するぅ。こう?」

「できてますね」


 非常に複雑なことをしている。彼がクーファの目からの情報を受け取り、そこに敵やライジングサンの砲架の照準状態を重ねる。情報を上書きした感覚が彼女にフィードバックされて視覚を構成していた。


(これを狙ってティムニはσ・ルーン(あれ)をクゥに与えたのかぁ)


 ゼムナの遺志はルオーも知らないクーファの体質を見抜いていたようだった。

次回『恩讐の道(1)』 「ルオと一緒で嬉しいからいいのぉ」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 クゥのスペックとんでもなかった!?
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