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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
捨てる神あれば拾う神あり

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きざはし踏むは(3)

 イルメア・ホーシーは苛立たしげに整備柱(ピラー)を蹴る。


 完全にライジングサンの攻め手を奪っていた。ルオー・ニックルが前に出てきたのが証拠である。いつものように味方の後ろから彼女らを撃ち崩すことができなかったからだ。それは間違いない。

 ただし、そこからが良くない。狙いどおり、混戦模様の戦列に引っ張りだせたのに彼との対戦は痛み分け。大破を奪いながらも見逃す結果になってしまった。


「なんだよ。無敵でもなんでもないじゃないか」

 危うく撃墜されるところだった。

「カラマイダほどの機体をもらったのに討ち取れなかったなんて情けないったら」

「イルメアさんは善戦したじゃないですか。その証拠に、ライジングサンの撤収から全体を撤退させるにいたったんですから。あなたがZACOF(ゼイコフ)を撃退したようなものなんですよ。俺は誇らしいです」

「所詮は小競り合い程度でしかなかったんだよ」

 若い整備士(メカニック)は彼女を褒め称えるが、とてもそうとは思えない。

「味を聞かれた。やつらにリフレクタアタッチメントを見られて勝負を避けられた。大勢を決するくらいの効果があってもよかったのに。今ごろは対策を練ってるかも。ルオーって男はそんなやつなのさ」

「対策がありますか? 俺にはそうは見えないんですけど。ましてや、実戦投入したばかりで数が少なかったし。数日稼いだだけでもアタッチメントの数は倍加します」

「でも、強化カラマイダでさえ損傷機が出てる」

「そりゃ、最初からイルメアさんほど上手に扱えるパイロットなんてそんなにいないですって。しかも、正確な狙撃もできるなんて稀有です」


 彼が言うのも一面は事実を示している。リフレクタアタッチメントが完成したのは本当に寸前だった。どういった機能を有していて、どういうふうに使えるか知らなかったら彼女もイメージトレーニングできていなかっただろう。


「まあ、慣れてもらうしかないね。ちょっと癖のある仕上がりになってる」

 それはイルメアも認めるところ。

「正直、σ(シグマ)・ルーンラーニングが全然足りてないと思ってます。だから、イルメアさんほど使えない」

「普段の運動で学習できるような代物じゃないからね。ほんとは訓練飛行とか演習とかでしっかり詰め込まないと無理さね」

「それを、偉い人たちは無視して投入したんです。大きな声じゃ言えないけど、俺、馬鹿なんじゃないかと思ってます。あなたみたいな方にしっかりと指導してもらってからでないと」

 メカニックは途中から声をひそめる。

「言っちゃ駄目だよ。上層部なんて、高い機能のある武器ができて現場に落とし込めば勝てるって思ってるような連中さ」

「で、失敗しても責任を取りはしないんだから。苦しんでるのは、俺とか、帰ってこれなかったパイロットなんです」

「いいこと教えたげる。失敗の責任を自分が取るなんて殊勝な考えを持つ人間は出世できないんだよ」

 現実でもある。

「だったら、俺は出世なんてできなくたっていいです」

「やめときな。せっかく実力もあって、少々じゃ死なない位置に入れるんだから出世して幸せになるんだよ」

「嫌ですよ。俺はイルメアさんみたいな方とずっと現場で切磋琢磨してたいです」


 話しているうちに心が鎮まってきた。少し若さに当てられたような気がする。


(ムザもこんな気分だったのかもね)

 思い起こす。

(八つ当たりとか腹いせの的にされて歯がゆい思いばっかりしてたあたしたちを拾って引き上げてくれた。戦友ともいえる仲間を与えてくれた。それをルオー・ニックルはぶち壊した。許せるものじゃないんだよ)


 イルメアはクレバーに目的を達しなくてはならないことを思い出した。


   ◇      ◇      ◇


 ルオーが部屋を出て、直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)で繋がった旗艦ゲムデスクに向かおうとすると後ろから腰にしがみつかれた。顔を向けると、そこには満面の笑みのクーファがいる。


「どうしました? おや、それは?」

「作ってもらったのぉ。いいでしょぉ?」


 頭にはカチューシャかと思いきや、新しい装具(ギア)を嵌めていた。以前から着けていた、船体操作用のσ・ルーンではない。

 彼の使っている額まである輪環型ではなく、頭頂部をまわるパーツが付いているタイプである。しかも、そこからウサ耳が生えている。よく見ると、ウサ耳脱着用のキャッチが付いており、気分によって変えられる。


「良かったですね。ナビとか操作用のσ・ルーンって機能的すぎてちょっと無粋ですし」

 女性にしてみれば、可愛くないものが多い。

「一般に普及してるオペレータ用とかならファッション性のあるものも販売されてますけど」

「これ、すごいんだからぁ」

「ほんとです? どんなふうにすごいんです?」

 クーファは「秘密ぅ」と自慢げに言う。

「ルオにならちょっとだけ教えてあげるぅ」

「内緒にしますから」

「実はねぇ、今度はキツネ耳もあるのぉ」


 いそいそと付け替えると、彼女の顔と変わらないようなサイズの三角耳が装備された。自前の猫耳を相まって、なかなか派手な見た目になっている。


「よく聞こえそうですね」

「あのね、キャッチのとこに集音マイクも付いてたりするぅ」


 驚いたことに、着けた耳が回転するギミックまで仕込まれていた。遊び心もここに極まれりという感じである。


「ティムニにお礼しました?」

「いっぱいしたぁ」


 作戦中断の風当たりを覚悟していたルオーの沈みがちだった気分は和んだ。

次回『きざはし踏むは(4)』 「今からパイロットでも目指す?」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 やはりカワイイは正義!
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