過去の影(4)
重力波フィン唯一の欠点といって差し支えないだろう。搭載機同士が接近すると互いのフィン出力が干渉してしまう。あるいは、強力な端子突起が複数ある場所の近くでは重力子に偏りが発生して推進力が減少する。
前者がアームドスキン同士であればベクトルの誤差はわずかなものなのに対し、後者は少々問題がある。推進力の減少度合いが場合によって著しいからだ。ゆえに、重力波フィンタイプの戦闘艦は発進スロット付近の端子突起配置を避ける。
(あんな巨大質量のベクトル制御をするほどのターミナルエッジがある場所だと影響は無視できないなぁ)
それが、ルオーがロウザンガラク攻略作戦を実行する気になった一つの要因でもある。巨大要塞には必ず取り付きやすい穴があると思った。
幸い、クアン・ザに搭載されているフィン発生器はアームタイプで出力も大きい。展開に幅を取るという欠点はあれど推力は魅力である。少々落ちても気にならない。
「前列崩します。後衛詰めてくるかもしれないので注意しながら攻めてください」
「ルオーが言ってた重力波偏重の所為で裏が広く空いてる。その分、前に詰まってる?」
「中央から右翼寄りのように要塞所属機が予備戦力扱いになってません。少ないだけ詰めてくるのも早いです」
ミアンドラが見ている戦況パネルの表示が想像できる。
中央から右翼にかけては二段構えに近い様相を見せている。しかし、問題のあるこの左翼は布陣に大きな違いがあるはずである。
「始めます」
「いっちゃいな」
左右に控えてくれているパトリックとゼフィーリアとも合わせておく。ここからは速やかに突入タイミングを見極めて進めなくてはならない。二人にも突入口になりそうな箇所を探してもらう。
「なんだか、嫌な感じがしたの、気の所為だったらいいんだけどねん」
パトリックが不安を口にする。
「君もです?」
「そんなのあった?」
「なんかね、きな臭い感じ。匂ってくるときあんだよね」
黒髪の美貌には感じられなかったようだ。
「君たちみたいな野生の勘はわたしにはないみたい」
「あー、なんつーか、トラブル対応に慣れた宇宙屋の鼻だから、優雅な君には似合わないさ」
「命懸かってるんだから備わってくれてもいいはずかしら」
素晴らしい操縦テクを持っているゼフィーリアだが、経歴的に経験値は低めだと思う。その差が表れてしまう典型的な例かもしれない。
「やはり、詰めてきますか」
「えらく積極的だな」
ビームで力場盾の叩き合いが始まったとともに要塞戦力の層が前に詰めてくる。ルオーが隙を狙って何機か墜とし、崩しを仕掛ける前に出てきてしまった。
「おや、なんかおかしくね?」
「違いますね、機種、いや装備ですか。シルエットアンマッチが出てます」
同じカラマイダのはずなのに合致しない。
「待って……。あれは!」
「なんです? リフレクタ?」
「おいおい、そんなんありかよ」
背中に別装備を背負ったカラマイダが友軍機の間を抜けてくる。かと思えば、パイロン状の機具が回転して両肩と両脇から四本突き出された。
そして、先端の発生器が作動すると、カラマイダの前面を全て覆うかのようなビッグサイズのリフレクタが形成された。
「あんなサイズの……」
あまりの衝撃に絶句する。
『理論上はできなくもないー。でも、普通はやんないー。重さの割に効果範囲が限定されるからー』
「四端子ないと形成は無理です?」
『あれでも最低限。きっとバランス調整とっても大変だねー』
ティムニをもってしても難易度の高い機構らしい。
「だとすれば、展開できるのは前面と後面だけ。それでもあれは……」
「硬いだけだろ?」
「いえ、してやられました」
彼の脳裏を塗りつぶした衝撃は単に攻めづらくなったからではない。手札を一つ、封じられたに等しいのである。
「あれだと一機でスクイーズブレイザーを防げます。弾き飛ばすくらいしかできません」
リンク回線のみで予想を告げる。
「マジ?」
「それは……、よくないわね」
「虎の子を封印されました。いざとなればロウザンガラク照準で崩しを入れられると思っていたのに誤算です」
焦りが背中を汗となって伝う。
「使いませんよ。使ったら、防がれるのが露見します。それは今、僕が味わっている挫折感を友軍全体に及ぼしてしまうから」
「最悪だぜ」
「しかし……」
ルオーの中に迷いが生じる。作戦の中にスクイーズブレイザーを使わねばいけない手順はない。だが、なにかのときに使えるのと封じられたでは意味が異なる。
「ルオー、ルオー、どうしたの? 援護薄くない?」
ミアンドラが呼び掛けてきた。
「すみません。敵の新兵器に気を取られてまして」
「あれ? リフレクタでしょ? 前列のパイロットたちは圧掛けやすいだけって言ってるけど」
「後で話します。作戦は……、中止にします」
敢行するにはあまりにリスクが大きい。
「どうして? なにか問題?」
「ここは退く……、いや、退けない。全体のモチベーションが落ちてしまう。切り替えます。削りにいきます」
「なんで? らしくなくない、ルオー?」
正直、少女を構っている余裕がなくなった。作戦を敢行しようとすれば、どこかで無理が生じる可能性が高い。この局面で少しでも敵に流れが行けば、友軍の損害が一気に膨れ上がってしまう。
「すみません。付き合ってください」
「おうよ」
「ほんと、らしくない」
覚悟を決めたルオーの声を二人は受け入れてくれた。
次回『過去の影(5)』 「飲まれるな、ルオー」




