過去の影(3)
先陣を切って傭兵部隊が前に出る。このあたりは定番化しているのだろうとルオーは思った。実際のところ、卒のない序盤戦である。
(大きく間違ってはいないんだけどねぇ)
以前のようにビームで力場盾の叩き合いに意味が失われつつある。パワー、緩衝性ともに上がった駆動系が衝撃を吸収し、それだけでは戦列を崩すことさえできない。ならば、飛び込むしかないのである。
「援護しない?」
ゼフィーリアが訊いてくる。
「君でも好き嫌いで判断が狂うのかしら」
「いえ、あそこは崩すべきじゃないと思うんです。下手に穴を開けて突き崩しちゃうと、そこを狙いたくなるものでしょう? 後衛が包囲してやろうと虎視眈々と待っている状態ではいただけない」
「冷静ね。だったらいいわ」
美貌に試されている。
「当たられると意識せずとも押し返そうとするものじゃないです? 敵陣が突出してくるようならデヴォーさんが削りに行きますよ」
「どうあれ、戦力が集中する?」
「戦場の注意がそこに向いたときが狙い目です。心の準備をしておいてくださいね」
突入に備えて控えさせてもらっている。しかも、精強なガンゴスリ部隊の裏側に、だ。本来は衝突箇所に投入すべき戦力を、彼らが突入に用いる穴を開けるために温存している形。
(あまり引っ張ると不審がられる。早めにチャンスを見極めなきゃねぇ)
左翼側が張り出してきて半方位隊形を作られないよう阻止する気配を見せながら機を伺っている。ただし、遅かれ早かれ過分な戦力だと覚られるのは間違いない。
「あれは?」
ルオーの目に入ったのは特殊なビームの輝線。
「円弧状に? なんです?」
『通知ありー。バロムのメトソールがリングアタッチメントを使うから前に入るなだってー』
「リング。肩のあれですか」
ティムニのアバターが伝えてくる。
『スラッシュショット、撃てるみたいー。サンドイッチ収束器かなー』
「あのリングそのものが砲身みたいなものなんですね。軸線上、どこにでも発射できる」
『理屈のうえではねー。近寄らないがいいかもー』
ショルダーユニットを中心にした二枚のリングを抱き合わせにしてその隙間の随意の場所に収束磁場を形成する方式だという。通常のビームも放てるようではあるが、リング上を滑らせるようにビームを射出すれば円弧状に形成される。
彼がスクイーズショットを砲身を振りながら発射するのと同じだ。一ヶ所の破砕でなく切断に近い効果を得られる。その武器が両肩に搭載されていた。
「範囲が広い分、リフレクタの隙間に入り込みやすいと」
手脚を失わせる大破機を生み出していた。
「こりゃ厄介だ。敵機も堪らないんじゃね?」
「射撃下手でも効果は大きいかしらね」
「扱いを間違えると味方まで斬り裂きかねませんけど」
対多数戦闘では多大な効果を発揮しそうな構造である。同時に、混戦状態での使い所が難しそうではある。
(友軍機に被害を及ぼすのを無視できるなら簡単になるねぇ)
バロム・ラクファカルならやりかねない気がする。
「ともあれ、あれなら数が多くても勝負は早そうです。そろそろ押し出しにくると思いますけど」
「動きあるじゃん」
ディープリンクを張っているベルトルデとヘヴィーファングにはクアン・ザの望遠映像が送られている。
間合いを取っての砲撃戦が不利と察したゼオルダイゼの中央部隊は、勝手をさせないよう前衛の傭兵部隊を飲み込もうと目論む。攻撃を受け止めつつ、正面以外を突出させる動きを見せた。
それを見逃すデヴォー・ナチカではない。予想して配置していたモンテゾルネとメーザードの部隊に突撃を命じる。突出部をかすめるように突進した部隊は、薄く削り取るように旋回しながら攻撃した。
「均されたな。あそこで押し引きになるんじゃね?」
「おそらくは。全体には、思ったより消極的に感じます」
「一応は迎撃戦だ。一気に押し寄せたりはできないじゃん」
彼らを含めたガンゴスリや、右翼の抑えに配置されているマロ・バロッタを警戒しているか。こちらの狙いを見定めようとしているようにも思えた。
「こっちも仕掛けるか?」
マロ・バロッタのラウネスト司令に問われる。
「露骨に見えてしまいます。むしろ、機を窺って中央を狙いにいきません?」
「ありだな。わかった」
「ミアンドラ様、予想ほど乗ってきてくれないので仕掛けましょう」
能動的にいかないと中央が泥仕合になりそうだ。
「いきなり穿孔突撃は厳しくない?」
「もちろんです。左翼全体に圧力を掛けるように見せて揺り動かします」
「偏りの見える位置を探すのね」
左翼側はロウザンガラクの公転の後ろ側になる。プラズマブラストの光はなく、大量の端子突起でベクトル制御を行っているのだと判明した。
当然といえば当然。常時軌道維持をしなくてはならず、さらにはゼオルダイゼ本星の重力にも逆らいつづけなくてはならない。主星の強大な重力を利用して重力波推進をするほうが間違いがない。
(ただし、どうあっても公転後ろ側のほうが戦力は薄くなるし)
ロウザンガラクの後ろ側、推力を掛けている方面では重力波偏重が確認されている。そこに配置されたアームドスキンは推進方向に狂いが出るだろう。ビームも微妙なズレを生じるので砲撃にも向かない。どうしても右翼寄りの布陣になっていた。
ルオーはそこにまわり込むのが近道だと考えてガンゴスリ部隊を投入していた。
次回『過去の影(4)』 「君たちみたいな野生の勘はわたしにはないみたい」




