深く潜るは(6)
「理屈は理解したけど具体的な方法は?」
ミアンドラはそれが重要だと思っている。
主張するのは大切である。だが、主張が主張だけで終わってはいけない。簡単で、誰にでもできることだからだ。
必ず方法論が付随していなくてはならない。例え問題があったり穴だらけだとしても、主張するだけよりは遥かにマシである。方法のブラッシュアップは議論すればすむこと。
「そうね。要塞ロウザンガラクの推進機を一つ二つ破壊してもバックアップはできるよう設計してある可能性が高いわね」
へレニアが技術的視点で補足する。
「本体への攻撃もままならないんじゃないかしら」
「はい、デヴォー司令の言うのもわかります。ルオーは?」
「ポイントとなるのは制御が複雑であるところでしょうか」
彼女も青年が無策で主張するとは思ってない。
「ベクトル制御をするスラスターだったり端子突起だったりを破壊して軌道を狂わせるのは難事業です。要塞そのものの攻略と変わらないんじゃないです?」
「でしょう?」
「だから、制御の大元であるコントロールシステムを破壊すべきでしょう。そのほうがリカバリも難しくなるはずです」
ミアンドラは一瞬ルオーの正気を疑った。輪を掛けて難しいことを言ってきたからである。
「ベクトル制御は主幹システムの一つだと思うの。外部からアクセスできない構造になってるんじゃない?」
電子戦でどうにかできるとは思えない。
「間違いなくそうなってるでしょうね。人の手さえ触れにくい状態を作ってあってもおかしいとは思いません」
「そこまで?」
「コントロールを奪えば、最悪本星に落とすことさえ可能なんですよ? あんなのが地表に落下したら大被害です。海に落ちても災害級の事態になるでしょう」
言っていることに矛盾があると青年が気づいていないわけがない。説明を促すように見つめた。
「逆にです。不測の事態が起こったときも対処できる構造になっていないとおかしいと思いません?」
盲点を指摘するように言う。
「つまりは、内部からなら人の手が及ぶ方法が残されているはずなんです。その手順を知っている人間を限定するだけで秘密は守りやすい」
「ベクトル制御系に繋がる系統は内部にあるはずって言いたいのね?」
「はい。回線が残っている以上、そこからアクセスするのも可能。ライジングサン得意の電子戦が通用するという結論に至ります」
種明かしはすんだという面持ちだ。
「でも、それも極めて難しいと言わざるを得ない。だって、ルオー、あなたはロウザンガラクに接触アクセスを試みるって言ってるのよ?」
「ミアンドラ様のおっしゃるとおりです。直接アクセスするしかないと思ってます」
「そんな平然と言うようなこと?」
要塞攻略のための手順として、軌道艦隊との切り離しを議論している。それなのに、まずはロウザンガラクに直接触れられるくらいに接近しなくてはならないという。要塞攻略の前段階に要塞攻略しろと主張するようなもの。本末転倒だ。
「現実的じゃなくない?」
「そうです?」
軌道艦隊の分厚い部隊の層を抜け、さらに要塞内に常駐している部隊の攻撃をしのぎ、ようやくロウザンガラクの表面に接触するチャンスが得られる。それができるのならば、ゼオルダイゼの全軍は怖ろしくないと言っているも同然に思えた。
「アクセスするのはクアン・ザの一機だけでいいんです。ライジングサンの処理能力を使えばベクトル制御システムを狂わせるのも難しくない」
全軍を撃破して到達するのではないという意味。
「自分なら取り付ける? 帰ってくる目算もある?」
「不可能ではありません。さっき、俎上にのぼったような波状攻撃も正直有効とは思えません。敵味方ともに消耗戦になるでしょう」
「確かにそう予測したけれども」
デヴォーは逆手に取られて狼狽している。
「だったら、こちらのほうが有効です。たった一度の電撃作戦で要塞と艦隊を切り離すことができるのですよ? デヴォーさんなら、意表を突くための陽動作戦くらい簡単なことです。上手くいけばいくほど僕が楽になります」
「そうだけれども」
「簡単ではないわね。接触部隊に相応の戦力を用いるのも難しい。少数精鋭で挑むしかないわ」
へレニア副司令が真っ先に具体案に言及する。彼女が一番技術的に近道だと理解しているのだろう。
「それはライジングサンで受け持ちます。皆さんは覚られないよう大胆に攻撃してもらえません? もちろん、可能なかぎり消耗しないように、です」
ハードなミッションなのは彼らだけではないと言う。
「少なくとも一発勝負になる。失敗したら次の手を考えましょう。君も、もしものときの引き際は心得ていると思ってOK?」
「当然です。決死で挑む気なんてさらさらありません。失敗しそうだったら、さっさと手を引きます」
「やってみる価値はあると思う。皆さんはどう?」
反対の声はない。誰も対案を持っている様子もない。傭兵がなにか言い出すかと思いきや、黙って耳を傾けている。手柄を奪われると口出ししてくるかと警戒していたので意外だった。
(バロムはルオーの洞察力を怖れているフシがあるみたい。きっと邪魔に思ってる)
青年との会話を引きずってしまっている。
(彼が厳しい挑戦を試みるのは悪くないって考えてる?)
ミアンドラは英雄と呼ばれる男を窺うが、その深奥までもは読み取れなかった。
次回『過去の影(1)』 「そんなに持ち上げてどうするっての?」




