深く潜るは(4)
事前打ち合わせを終了したミアンドラは、ライジングサンメンバーと移乗してきたへレニア副司令とともにブリーフィングルームに入る。その他の国の艦隊司令官はオンラインだ。
「皆さん、お集まり感謝します。とりあえず現状報告からで」
モンテゾルネのデヴォー・ナチカ司令が進行するのは理由がある。
「我が軍の偵察艇を付けたゼオルダイゼ遠征艦隊は本国に帰還しましたわ。領宙内まで進入すると危険だから追跡はやめさせたけど向こうは自領、隠密航行もせずに電波レーダー追跡させてくれたから衛星軌道まで着いたのは確認してます」
ゼオルダイゼ軍は動向を隠蔽するつもりもなかったものと思われる。二十隻、しかも損傷艦も抱えた遠征艦隊では、合流したパルミット勢の相手まではできないという判断。当然ともいえる。
「あちらさんとしては不本意でしょうけど、本国での迎撃を選択したようよ」
艦隊戦での勝利までは望んでいまい。
「ただし、迎撃戦での逆転を目論んでいるのは確実。なにせ、あの国はあれを抱えてるんですもの。要塞『ロウザンガラク』」
通常の惑星国家が運用しているのは基本的にアームドスキンを活用するための戦闘艦隊で備えている。一般的には二十隻ほど、ガンゴスリクラスの軍事大国となれば五〜六十隻。ゼオルダイゼも五十隻の艦隊を備えている。
だが、かの国の強みはそれに終わらない。本星に寄り添うように宇宙に位置する大要塞『ロウザンガラク』。内包する戦力は戦闘艦五十隻分以上とも噂される。
「ロウザンガラクは定点要塞。常に本星公転軌道の外側に位置して、外敵の侵入を監視してるわ」
ゼオルダイゼ本星と同期して主星を公転している。
「これの攻略は最大の難事になります。できれば、軌道艦隊と一緒には戦いたくないものね」
ZACOF艦隊の総数は三十九隻。内訳は、オイナッセン勢のモンテゾルネ十隻にメーザードの四隻、ウクエリとデトロ・ゴースが合同で雇用している傭兵艦隊が八隻。あとはパルミット勢のガンゴスリ十二隻とマロ・バロッタの五隻。
「実質、二倍半の戦力と同時に対戦するのは無謀の一言だわ」
数が多くなるほど物量による戦力差は拡大する。
「だから、敵が戦力を小出しにするような戦略をとらないと駄目。そのための知恵を貸してくださらない?」
ミッションブリーフィングはそれを目的としたもの。敵軍の勢力圏内に乗り込む前に話しておかなければならないことだ。
「ここでグダグダ話したって無駄むだ。うちの英雄バロムなら軽くひねってくれる。さっさと乗り込もうぜ」
バロム・ラクファカルの取り巻きが嘯く。
「あら、あなたのところの大将が一機で三千機を撃破してくださるの? だったら、喜んで先陣をお願いするわ」
「ばっ! そこまで言ってねえだろ」
「そうとしか聞こえなかったけど。できないなら黙っていてくださらない?」
悔しそうに口をつぐんでいる。
「俺が一人で三千を墜とせないのは事実だ。だが、敵の庭でどれだけのことができる? 作戦らしい作戦を組むのも難しいのではないか?」
「それも本当。要塞と軌道艦隊を切り離すしかないのだけれど、その試みなんて敵も想定しているのは当然」
「押し掛けて艦隊だけ引きずり出そうとしても動いてはくれんだろう」
バロムの主張も道理である。わざわざ敵に有利に働くよう動いてはくれない。軌道艦隊は要塞を中心に布陣して迎撃するはずだ。
「ならば、少しずつでも削りに行くしかないのではないか? 例えば、部隊ごとの波状攻撃を仕掛けるとかだな」
「正攻法だわね」
アームドスキンの大戦力といえど、一度に全機が敵に当たれるわけではない。高速機動戦を基本として、一撃離脱を心掛けるような戦闘を提案する。まさに、薄く削ぎ落としていくかのような戦術だ。
「そうねぇ。時間が掛るのは特に問題ないのだけれど、継戦能力的にメーザードは厳しいものがあるわ。こちらの損耗も見込まねばいけない分、機材の補充もままならなくなってしまうでしょう?」
デヴォーがメーザードのメラ・オード司令を窺う。
「まことに申し訳ないことながら、当方は現有戦力で限界というところです。機材補充もモンテゾルネに頼っている状態ですので、これ以上ご迷惑をお掛けするのは」
「二艦隊分の機材を負担するのは難しくてよ。マロ・バロッタは?」
「うちは機材調達含め補給はなんとかなる。増員はちょっくら無理ってもんだがな」
彼女が案じたのは後入りの国。
「そう。ガンゴスリは余裕あるでしょ?」
「うちも増員まではちょっと。ホーコラ防衛に駐留艦隊を送ったので、これ以上本国を空けると国民を不安にさせてしまうかも」
「よね。保有戦力の半分を放出してる状態だもの」
いくら軍事大国ガンゴスリとはいえ、無限に人材や機材が湧き出てくるわけもない。本国防衛のボーダーラインというものがある。
「艦隊をおびき出す、いい餌はないものかしらね」
デヴォーの視線はちらりとルオーを窺っている。
「艦隊ですか。恨みを買ってる僕が餌になれと?」
「そこまで言ってないじゃない」
「暗にそう言われた気がするんですけど」
青年は苦笑いしている。
「気の所為、気の所為」
「そうです? でも、艦隊ばかりに着目する必要ないと思うんですが」
「どこが変?」
「変というか、このロウザンガラクという存在そのものが不自然だと思いません?」
ルオーがなにを言い出したのかミアンドラ含め全員が理解していなかった。
次回『深く潜るは(5)』 「わかりますでしょう、ヘレンさん?」




