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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る
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姫を射んとするも(2)

 ルオーとパトリックには比較的近隣国で行われている国営行事であっても、実際に参加したこともなければ観覧したこともない国軍観兵試合である。内実に関してはオープンな情報以上の知識はない。


「オーディション?」

「ええ、集められるだけ集めて、あとは実力評価などを通じて実際にメンバー入りさせるかを決めるようです」

 案内ページからそう推察する。

「呼んどいてさよならぁ?」

「スカウトされなければですね。国軍士官学校の有力候補などは、国内企業と早々に契約しているという話でしたが、掘り出し物も無きにしもあらずと会場には姿を見せるらしいです。名門の体裁で顔見せするだけかもしれませんけどね」

「そこでお声掛けなければぁ?」

 クーファがウキウキしている。

「スイーツ巡りです」

「やったぁ」

「おい、そこ! 決定事項みたいに言うな」


 パトリックは準備に余念がない。オーディションに着ていくフィットスキンで迷っていたりする。


「新品で清潔感を演出すべきか、使用感のあるもので手練れの凄腕感を出すべきか。これまでの映像見ても五分五分ってとこで判断つかん」

 頭を悩ませている。

「どうせ顔も売れてないんですから、格好を気にしたところで意味あります? 相手の見るところは会社の実績と評価点だと思いますよ」

「それでもだ。見た目の印象で評価さえ見てもらえないでは困るじゃん。まずは目に留まるとこから始めないと」

「最初っから実績データは公開されてるんですよ。会場でスカウトする気がある候補は入念に事前チェックしてると思いません?」


(もっとも、その実績データだってうちのは大したの載ってないけどね。管理局関連案件はほとんど非公開になってるから除外されてるし)

 作戦内容も二人が参加したこと自体も管理局の記録にしか残っていない。


 載っているのは、何事も起こらず現地まで随伴しただけの護衛依頼とか、国軍演習相手としてどこどこの仮想敵軍に参加していたとか、取るに足らないような事実の羅列。それを見て選んでくれというは少々厳しいとルオーは思う。


(オーディション会場入りする参加の決まってない民間軍事会社(PMSC)はどこも似たりよったりかな? 国内大手は見せつけるためにそこで握手して見せるだけとかね)


 ある種、軍閥有力候補のパワーゲームの見せ場になっている気がする。それでもルオーやクーファが出向く気になっているのは、会場が立食パーティ形式になっているからだ。


「どんな料理出るぅ?」

 猫耳娘が気にしているのはメニューのほうである。

「そうですね。各軍閥の共同主催形式ですから外聞もあります。正直、悪くないものが並んでいるはずですよ」

「おかわり自由ぅ?」

「せっかく時間使って来たんですから元は取りましょうね?」

「だから、物見遊山感出すな」

 どうやら清潔感重視の新品を選んだらしいパトリックが各部を点検している。


 彼らのフィットスキンはティムニ謹製のもの。普通は(うなじ)の後ろに配置される制御器と呼吸用炭素フィルターが喉の下部分に小さく置かれている。

 フィルターのコネクタはユニバーサルデザインだが、コクピットでは別系統のチューブを接続して呼吸可能になっている。通常でも80時間以上使用可能なのに、さらに長時間の運用ができるようになっていた。


 長時間の隠密行動が可能なスナイパー仕様で、ルオーに合わせたデザインだとも思える。制御器の表側にはエンブレムの旭日マーク、そのすぐ下にライジングサンを示す『RISE.S』のロゴが入っている。

 同じ仕様のものをクーファも作ってもらい非常に喜んでいた。彩色は彼女好みのレモンイエローにオレンジの差し色が入ったもので、色々と他のファッションアイテムと合わせて楽しんでいる。


「準備いいですか? そろそろ会場に向かいましょう」

 皆を促す。

「アームドスキン、乗ってかないのぉ?」

「街中を勝手に飛行するわけにはいかないんですよ。許可ありの識別信号(シグナル)出してないとすぐに警察機が飛んできます」

「許可もらえばぁ?」

「手続きが面倒なんで遠慮します」

 星間管理局事業者パスを使えば難しくもないが目立ちたくもない。

「まあ、大手も外に機体を置くのは一社一機程度らしいから、うちが割り込む余地なんてないだろうな」

「高性能機見せると選ばれるかもって思ったけど、選ばれても困るからやっぱりいらないかもぉ」

「困らんわ!」


 身支度を整えた三人は宙港ビルを経てロータリーへ。そこでオートキャブを拾って会場へと向かう。


「すごぉ。大っきい」

「国際会議とかにも使われる会場らしいです。催しのわりに贅沢な会場設定ですね」


 オーディション兼顔見せ会場となっている大型ホール前には何機ものアームドスキンが整然と立っていて、まるで展示会場の様相をなしていた。それなりの賓客を迎えるとあって、エントランスには数多くのアテンダントロボットが立ち働いている。


「さあ、勝負だ」

「ええ、お腹はしっかり空かせてありますね?」

「おー!」

「大食い大会ちゃうわ!」


 本日のツッコミ役パトリックを前面に押し立ててルオーはクーファとともに会場へと入っていった。

次回『姫を射んとするも(3)』 「ナイス、サポートなのぉ」

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