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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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朝日を浴びる(8)

 エスメリアたちはその後も粘闘を続けるも、数で勝る敵部隊の猛攻にさらされ苦しくなっていく。彼女の目からも徐々にパフォーマンスが落ちていくのが窺えた。


(いつまでもはもたない、当たり前だが)

 一休みという戦況でもない。

(マロ・バロッタ隊も首尾よく切り込んで敵艦と部隊を分断した。しかし、敵全体が劣勢にモチベーションが下がろうが、接しているパイロットたちまで逃げ腰になるものでもない)


 逆に、尻に火が点いたように圧力を増している。決死の敵ほど怖ろしいものはない。へレニア副司令が機を見て少し下げ気味に誘導していても、背後を取られた敵軍は前に進んでスペースを奪うことに必死になっている。


「飲まれるな。押せ」

「エスメリア様の言うとおりだ。下がるな。押しつぶしてしまえ」


 不安のなくなった第三隊は中でも奮闘しているほう。戦列の要として機能している。撃破数が増えれば敵の攻め手も激しくなってきた。穴を作ろうとしているのだ。


「友軍が敵の背後を崩したぞ。もう一息だ」

「勝手させるか」

 敵の動揺を誘おうとオープン回線で伝えると、それを挑発と受け取ったか。


 部下の上を抜けた敵機がビームで牽制を連ねつつ、力場刃(ブレード)を振り下ろしてくる。エスメリアはルイーゾンで躱すのではなく下に入り込んだ。ブレードの描く円弧の内側まで踏み込むと、左手で足を掴んで引き下ろす。

 反動で後ろに縦ロールしたところをビームランチャーで一射。腰から頭へ一直線に貫いた。放り投げて入れ替わるように前に出ると、二機目が慌てて力場盾(リフレクタ)をかざしている。無理に撃たずに右手を折り曲げて、リフレクタを素通しさせた肘で頭部を粉砕する。


「幾らでも来るがいい!」

 もう、空元気に近い。


 疲れは彼女の手足をゴム紐で縛り、一つひとつの動作をワンテンポ遅らせる。敵も似たような状態なので遅れを取らないで済んでいるだけ。


(どこかで引き際を弁えなければ部下を殺す。それも私の務め)


 三機目は大胆に突進して頭に膝を入れ、足を引っ掛けたまま前転しつつ背中から撃ち抜いた。前後して三度の爆発が起こる。


「聞け! もうワンアタックで……」

「ご立派でしたよ」

「ルオー!」

 決定打が来た。


 正確無比で無慈悲な光の槍が迫りくる敵の群れをほぼ同時に貫く。命冥加に残った敵機には、パトリックのベルトルデとゼフィーリアのヘヴィーファングが襲いかかった。疲弊したところにそれではもつものではない。


「一突きで終わりか」

「エスメリア様が追い詰めてたから限界が来ただけです。誇ってください」


 敵は完璧に崩れてしまっている。程なくして降伏信号が戦闘宙域を駆け巡った。護衛対象の政府の船が時空界面突入(ブレイクイン)したことで任務も果たしたと思っているのだろう。


「逃がしてしまったのは悔しいな」

「あれは行かせただけ。ラウ司令もヘレン副司令もそのつもりだったはずですから帰ったら聞いてみるといいです」

「そうなのか……」


 手足がだるい。疲れが一気に押し寄せてきてエスメリアをさらっていってしまいそうだった。漂っていると、軽い音がコクピットに響く。


「貴官らか」

「お見事でございました。我ら一同、エスメリア様が司令官になられる日を心待ちにしております。それまではどうか頼ってください」

「ああ、お願いする」


 二人の編隊リーダーに支えられてエスメリアは帰投の指示を出した。


   ◇      ◇      ◇


 首都の人々には歓呼をもって迎えられるも、安々と降りていくわけにもいかない。バストアップの3Dモデルを表示してもらって冷静に行動するよう伝えるだけ伝えた。少々熱狂気味の夜も過ぎ去っていく。


(勝利の報告はあった。それは疑ってもなかったんだけど)

 ミアンドラはまんじりともせず過ごしている。


 艦長が休息を促してきたが眠る気になどならない。配下が必死に戦っているのに自分だけ休む司令官など彼女の目指す姿ではないからだ。

 帰還を称えて迎えるのが筋だろう。どうせ緊張で眠れるものでもない。襟を正し、礼をもって毅然とした姿勢で凱旋を見守りたいと願った。


「ミア司令、国軍指揮官が宣う場を設け、公式に敗北を認める形にしたいと言ってきておりますぞ」

「わかりました。夜が明けて、都民が聞ける頃合いを見計らってライブ配信いたしましょう」

「そうですな。そのほうが喜んでもらえるかと」

「敵将の言葉を喜ぶ敵国民という構図はどうなのでしょう?」


 まだ戸惑いが抜けない。どんな顔で宣言を受け入れればいいのか迷った。多少なりとも飾らねばならないかとも思う。疲れが顔に出てないかミラーパネルを出して見る。その横顔に光が差した。


「朝日が……」

「ミア司令、戻ってきました」


 朝日の反対側、まだ明けやらぬ群青色の夜空に光を反射する艦影が見える。敵艦隊を拿捕して引き連れた配下の艦隊が降下してきている。見ているだけで、なぜか涙がひと筋こぼれてしまった。


(心細かったんじゃない。あんまり綺麗だから)

 自分に言い訳する。


「ご苦労さま、ルオー」

 開いた通信パネルに呼び掛ける。

「寂しがらせてしまいましたか」

「違うの。これは、眠くてあくびをしたから出た涙」

「申し訳ありません。ただいま帰りました」

「はい、おかえりなさい」


 自然と最高の笑顔で迎えられたのが不思議でもなく感じたミアンドラだった。

次はエピソード『雀百まで踊りを忘れず』『深く潜るは(1)』 「え、落ちたの、ウェンディロフ?」

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更新有り難うございます。 支持と信頼に値すると行動と背中で示したか。
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