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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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朝日を浴びる(6)

 追撃してくるにしても、まだ時間的余裕があると聞いていたウェンディロフの大統領は仰天する。加速中の政府専用航宙船と護衛艦隊に対し、連合の敵艦隊がかなりの相対速度で猛然と突っ込んできたからだ。

 しかも、予想外の左側面からとの報告。逃走する彼らには離反者が出て数が少ない。そのままでは頭を押さえられて拿捕される。捕まればどんな末路が待っているか筆舌に尽くしがたい。


「止めろ! 絶対に前に出させるな!」

「ですが、こんな相対速度では!」


 なにをする暇もなく接近してくる敵艦隊。重力場レーダーで検知してからも数分しか経ってないのにすでに有視界に入ってきている。迎撃アームドスキンの発進もままならない。


「敵も艦載機を出してません!」

「だったら沈めてしまえ!」


 互いに艦砲を向け合う。ビームが両者を繋ぐが、防御フィールドの所為でダメージを与えられない。両者、火器での叩き合いの様相である。みるみると距離が縮まり、衝突するのではないかという相対位置だ。


「捨て身か!」

「か、回避間に合いません!」


 モニタを凝視しつつ、身の奥がきゅっと縮まるような感覚がする。艦首を向けた敵艦隊が自分に突き刺さりそうだ。これ以上はないくらいに目を見開いた。


「ひぅっ!」


 しかし、相対速度はあれどベクトルが異なる専用船と艦隊はわずか数百mというぎりぎりの間隔を空けてすれ違う。連合艦隊が後ろを抜ける格好だった。


「お、驚かせおって……」

「アームドスキンをばら撒きながら通過していきます!」


 荒げた息が収まる暇もなかった。連合艦隊は後ろを行き過ぎながら、開放した後部ハッチより大量のアームドスキンを放出している。普通の発進スロットからの出撃ではない。

 準備をしていたのか、重なり合うように飛び出してくる人型兵器の群れ。その密度は普段感じられるものを遥かに超え、恐怖を抱かせるに十分だった。


「迎撃しろぉ!」

「アームドスキン、発進急げ!」


 一気に四百機以上の艦載機を産み落としていったスタイルだ。彼らにしてみれば、突如として敵部隊が出現したようなものである。なにもかもが間に合わない。


「そのままの速度で! 我々で足留めします!」

「当たり前だ! 絶対に通すな!」


 大統領の乗った政府専用航宙船はビームの瞬きはじめた宙域から離れていった。


   ◇      ◇      ◇


「大胆ですね」

 ラウネストに告げてくるルオーの声音は笑いを含んでいる。

「ぴったりだったろ?」

「計算したのはシステムでしょう? ですが、この発想はなかなか」

「我ながらイケてるぜ」

 自画自賛する。

「戦争屋のやり方じゃありませんね。どっちかっていうと、探査系の宇宙屋が選びそうな方法です」

「愉快じゃねえか」

「内臓がひっくり返りそうな加速でしたよ。ラウ司令の前に並んでいらっしゃるナビオペの方々の表情をご覧ください。恨み骨髄といった感じじゃないです?」


 確かに半泣きといった風情の妙齢女性が並んでいるが、皆が背中を向けている。特殊な発進をしたのでそれどころではないのだ。あとで苦言を呈される覚悟は必須だろう。


「わかったよ。終わったらポケットマネーで振る舞いでもするさ」

 財布の紐を緩めて宥めるしかあるまい。

「お前さんも頼んだ」

「そう言われましても、この状況じゃ戦術もなにもありません」

「まあ、ガチンコだわな」


 彼らの戦闘艇ライジングサンのイエローグリーンのボディも艦隊と一緒に通過している。取り付いていた三機のアームドスキンを敵艦隊の前に振り落として行ったのだ。


「滅茶苦茶な状況にしたんですから、きっちり指揮してくださいね」

「まずはそっからか」


 ラウネストは戦況パネルを目を細めて見た。


   ◇      ◇      ◇


 押し出される形で宇宙に放り出されたルイーゾンのコクピットでエスメリア・カーデルは戸惑っていた。かつて経験のない密度で友軍機が周りにいる。どうすべきか迷っているうちに彼女の指揮下の編隊が二つ集まってきた。


「問題ありませんか、第三戦闘隊長?」

 気遣ってくれる。

「大丈夫、だと思う」

「いやー、軍学校時代の加速訓練を思い出すような機動でしたね。苦しいと同時に懐かしささえ感じました」

「皆も問題ないか?」

 言われて気づく。

「問題なしです。では、行きますか」

「ああ、行こう。ナビが来た」


 エスメリアの所属する旗艦ゲムデクスは地上に残っている。第一戦闘隊の三編隊は直掩として共に残り、第二と第三の戦闘隊がへレニア副司令が座する戦闘艦グリデリアの機体格納庫(ハンガー)に詰め込まれてここに至る。


「志願なさったんですから気合入ってるんでしょう?」

 ミアンドラに頼んで追撃隊に入れてもらっている。

「試したいことがある。貴官らまで危険にさらすのは心苦しいが」

「言いっこなしですよ。我らも撃墜ボーナス稼がせてもらうんですから」

「すまないな」

 気遣いがしみる。

「両編隊、前へ。一気に攻め落とす」

「承知です」

「無理に私を守ろうとするな。抜かれそうだったら抜かせろ」


 まずは力強い姿を部下に見せるのが目的である。そのためにルオーやパトリックに指導をもらったのだ。カーデル家の令嬢を守りながら戦うという意識でなく、彼女が後ろに控えているから心配ないと思わせたい。


(できるか?)


 独自スタイルを初めて実戦投入するエスメリアは自問自答した。

次回『朝日を浴びる(7)』 「よく似てらっしゃいますよ」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 エンタメムービーなら山場でしょうか? ⋯⋯作られたりしますかね?
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