朝日を浴びる(4)
ウェンディロフ国軍は政府専用船を護衛して大気圏離脱を図っている。ガンゴスリ、マロ・バロッタ連合艦隊としては、可能であれば拿捕して公に終戦に持ち込みたい。追撃が必要なのだが首都を放置するのはリスクがある。
「星間管理局が無政府状態の申請を受理したということは、それなりの根拠があると考えていいです。実は隠れひそんでいるのは考慮不要です」
ルオーが考えを述べるとミアンドラも「そうね」と応じる。
「ただし、残った国軍艦隊に関しては、確実に味方と断じるのは難しいです。背後を取っての起死回生を狙われるのは痛い。なので、ミアンドラ様には都民を宥めがてらの監視をお願いしたいのですが」
「適材適所だわね」
「わたしは上がらなくていいの?」
へレニア副司令も賛同してくれる。首都を占拠しました、はいさよなら、というのはあまりに無情に見えてしまう。ここは一番人気の少女が残っていれば納得をもらえるだろうと考えた。
「戦闘艦六、うち搭載アームドスキンの半数を直掩として残すわ。ミアは監視の指揮をしてもらえて?」
へレニアが判断してくれた。
「逃げた部隊のモチベーションは皆無といっていいでしょう。本当に追うだけなのでお願いしてもいいです?」
「わかりました。追撃はヘレンおばさまにお任せします」
「このあとの対ゼオルダイゼが決戦よ。今のうちに頭を休められるときは休んでおきなさい」
本来ならガンゴスリの戦闘艦は残ってもらってもいいのだが、損害時の換装作業などの拠点に半分は上げたい。追撃部隊のパイロットが不安を覚えてしまう。
「今まで戦力になってなかった人がいるので存分に働いていただきます」
本人が「誰のことだ?」と嘯いている。
「あなたですよ、ラウ司令」
「わかったわかった。しゃーないな」
「勉強させていただきます」
ミアンドラに持ち上げられるとラウネストは気を良くしたらしい。少女に「観戦しながらのんびり待ってな」と大口を叩いている。
「早く戻って」
「追い立てるだけです」
夕暮れの色がミアンドラを不安にさせているのだろうか。ルオーだけになった回線に小さく呟く。彼は安心させるように微笑みを一つ残して加速した。
「では、まいりますか」
「待たせるなんて女殺しだこと」
「それほど器用なら今ごろ所帯持ちです」
からかうゼフィーリアを追い抜いて前に出る。
(朝までには帰りたいところだけど)
ルオーはもう見えなくなった艦隊に向けてクアン・ザを上昇させた。
◇ ◇ ◇
「野郎ども、食って寝ての時間は終わりだ。楽した分、働けとよ」
マロ・バロッタのラウネスト・ラウダ司令は発破を掛ける。
「野郎は六割ってとこです。今どき、そんなことを言っていたら即ハラスメント認定ですよ」
「定番だろうがよ、戦隊長。生きづらい世の中になっちまったもんだ」
「人気ありませんもんね、司令は。もう少し、身だしなみに気をつけられたらマシになるとは思うんですが」
戦闘部隊を統べるアームドスキン隊の最高指揮官とも呼べる戦隊長は旗艦に搭乗しているのでラウネストの横のブースにいる。基本的に指揮官コースでなく、パイロットコースを歩んで引退した人間が就くのでパイロットの信頼は厚い。
「身綺麗にしてたらモテちまうからやめろと嫁に厳命されてんだ」
「ああ、司令にも逆らえない方がいらっしゃいましたか」
軽口を流される。
「おう、生き甲斐だ」
「せめて国民守護が、と公言するのがお勧めです」
「品行方正にしてたら昇格して面倒な官職を押し付けられるじゃんかよ」
程よい立場というのがある。
「適当にしてるから遠征に放り出されてしまったでしょう? 奥様と引き離されて」
「これくらいはちょうどいいだろ? しばらく離れてたら、あいつも心細くて俺に惚れ直すだろうし」
「今ごろ、羽根を伸ばしてらっしゃるかも」
睨むと舌を出している。お互い、そんな仕草が可愛い年代ではないので顔をしかめる。おっさん同士の会話に通信士たちがくすくすと笑っていた。
「しかし、彼は司令の元生徒らしく優秀ですね」
モスグリーンのアームドスキンが目前の部隊最後尾についている。
「ルオーか。こいつは特別だ」
「在学時も立派な成績を残していたんでしょう?」
「とんでもない。落ちこぼれもいいとこだった」
どうにか軍学校を卒業できたというレベル。
「まさか」
「いいや。こいつは周りを見事にたばかっていやがったからな。本性に気づいてたのは、あのゼーガンのおぼっちゃんだけだった」
「嘘みたいな話ですが」
間違いない事実である。ルオー・ニックルは完璧に落ちこぼれないギリギリを狙っていたとしか思えない行動をしていた。青年らしく、そのポジションをきっちり撃ち抜いていたが。
「それでも、俺の戦術科目だと悪くない成績だった」
だから記憶に残っている。
「そんじょそこらの生徒には負けなかったからな」
「指揮官にスカウトされなかったんですか?」
「できるか。こいつは負けなかっただけなんだよ。楽して勝つことばっかり考えるヤツなんて、エリート意識の塊みたいな指揮官コースの生徒に囲まれたら生きてけないぜ」
それでも、のらりくらりと泳ぎ抜いたかもしれないが。
「ほほう、それは司令の愛弟子らしい生徒でしたな」
「抜かしやがれ」
話しているうちに、朱に染まっていた主星の光は惑星の影に隠れつつあった。大気圏の層も上っ面という辺りである。
ラウネストは重力場レーダーの隅に写っている敵影をつぶさに観察していた。
次回『朝日を浴びる(5)』 「加速? もしかして?」




