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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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朝日を浴びる(3)

 政府専用船が宙港から飛び立ったとの報告をルオーから受けたミアンドラはため息を一つ。想定したうちで最も可能性の高かったオプションだ。


「悪手なのにね」

 苦々しい思いが口をつく。

「仕方ありませんでしょう。為政者が最も軽視するのが民意で、直面した為政者が最も怖ろしく感じるのが民意です」

「逃げるって思わせるだけでも反感は増すもん。もっと怖くなっちゃう」

「保険のつもりでしょうが、あれを動かした時点で逃亡は決定事項になります」

 首都の状態を知る術はないが容易に想像できる。

「そして、もっと悪い状況を誘起する」

「ルオーがそう仕向けたんじゃない」

「ええ、間違いなく僕です。こんないやらしい作戦を軍籍にある方は好まないんじゃないです?」


 青年は自嘲している。確かにこんな情報戦の類は彼女の領分ではなく、主に政略として用いられるもの。政治家が駆使する策だ。


「じゃあ、接近してプレッシャーを掛けてく?」

「はい、分別(・・)しないといけませんし」


 ミアンドラは首都の混乱を横目に、アームドスキン隊に前進を指示した。


   ◇      ◇      ◇


 今や政府のメッセージボードは散々たる状況だった。


「逃げるのか、裏切り者」

「ゼオルダイゼの犬どもが」

「二度と戻ってくるな」

 似たような言葉が踊り狂っている。


 大統領にしてみれば、自分のほうが裏切られた思いだ。歴代政権は自国の繁栄を試みてゼオルダイゼと接近した。安全保障同盟を結び、軍事拡大もして見下されない立場であろうと盟主におもねる。

 結果として、集中する富の一端は自国に流れるような仕組みづくりにも成功する。盟友として先端技術も流入するようになった。国民は安泰な暮らしを手にしてきたはずである。


「それなのに、私が裏切り者扱いだと?」

 歯ぎしりする。


 まるで石持て追われる有り様である。国民は嫌悪感を剥き出しにして政府を睨みつけてくる。留まれば命も危ういのではないかと思われるほどに。


「大統領閣下、これは……」

「私は逃げるのではない! 捨ててやるのだ、こんな恩知らずども!」


 大統領は政府専用船に乗り移った。


   ◇      ◇      ◇


「憐れなもの」


 ミアンドラが見つめる先でウェンディロフの政府専用船が国軍戦闘艦に守られながら浮上していく。敗者の逃亡に他ならない。


「国家運営としては大きく間違っていなかったのにね」

 彼女にはそう見えた。

「ええ、幾つか大事な見落としをしただけです。民意に向き合うことを忘れた。誠実であることを忘れた。是々非々な判断をすることを忘れた。追従するだけに終始してしまった。このあたりじゃないです?」

「はい、胸に留めておきます」

「いや、別にミアンドラ様をどうこう言っているのではありません」


 ルオーに責められているのではないと理解していても少々耳が痛い内容だ。長々と権力の中枢にいればどうしても見落としがちになる。ましてや、そういう家系に生まれた少女ならなおさら忘れてはならない。


「邪魔よね。ごめんなさい」

「いいえ、僕は部隊の後ろについていくだけですので」


 戦闘部隊は彼女の指示で前進を開始しているのに、愚痴に付き合わせた気分になる。ライジングサンは珍しく後方に控えていた。


「ミアンドラ様のほうがちょっと大変ですよ?」

「そうかな?」

 難しいとは思えない。

「なにせ、敵国民のアイドルです」

「すっごく矛盾してない?」

「一挙手一投足を見られますよ」


 大統領が乗っているであろう政府専用船を護衛する国軍戦闘艦は全てではない。観測するかぎり全体の半分ちょっと。十六隻まで数えていたが、また二隻が脱落して首都上空に留まる。


(彼らは敵ではないはず)

 見極めなくてはならない。


 見つめていると、待望の通信が入ってくる。地上に残ろうとしている戦闘艦隊からだ。


「連合艦隊司令官に告ぐ。我らは戦闘を望まない」

 想定していた文言が告げられる。

「もし、お言葉どおり民間人に不利益な行動がなされないならば我々は貴軍が入域してきても攻撃しないと宣言する。返答されたし」

「丁寧なご挨拶、ありがとうございます。わたくし、ミアンドラ・ロワウスはこれまでの言葉にたがわず、民間人の方々には一切被害を与えないと誓いましょう。そのためにも、首都と政権指揮下の戦力を切り離すべく首都上空に入ることをお許しいただけます?」

「受け入れる。今、管理局ビルにウェンディロフが無政府状態になったことを通達した。星間管理局による暫定統治が行われる。監視下であることにも留意されたし」


 ちゃんと釘も差してくる。完全に信用したわけではない。星間管理局がきっちり監視しているから横暴はするなという意味合いだ。


星間(G)保安(S)機構(O)のアームドスキン隊、確認」

 通信士(ナビオペ)が部隊からの報告を上げてくる。

「わかりました。後ろは?」

星間(G)平和維(P)持軍(F)艦からも出撃してきたわ。監視下に入るわね」

「ヘレン副司令、宣告があったら対応お願いします。わたしは残存艦隊の監視に当たります」

 騙し討ちの可能性は低いと考えている。


 戦闘部隊が政権支配下の敵を押し上げるように動いている。空いた隙間に自軍艦隊を滑り込ませていった。


「え?」


 戦闘艦ゲムデクスが首都上空に入ると、外に出てきた都民が一斉に見上げてくる。それぞれが手を振ったり、なにかをかざしたりしてアピールしている。


 ミアンドラも、まさか凱旋の如き喝采を受けながらの入域になるとは思っていなかった。

次回『朝日を浴びる(4)』 「勉強させていただきます」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 捨てたのでは無い、見放されたんだ。
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