朝日を浴びる(1)
直撃を浴びせたウェンディロフの国軍機『ランゼッタ』は頭と胸あたりまでを失って落下していく。誘爆させずに撃墜するのには成功していた。
三機の撃墜まで確認したルオーはスクイーズブレイザーキャノンのラジエータギルを畳むと砲身をスライド収納させる。短くなった本体を背部に格納した。
(あのスピードで落ちているアームドスキンの下敷きになる人はいないとは思うんだけどねぇ)
そこまで確認できない。
落下したのを目撃した都民は慌てるだろう。戦闘が起きたのか怖れて上を見上げる。ところが、戦闘にはなっていないと知る。ただし、自身が直面している戦争を強く意識はする。
(これまでの行動で連合艦隊が国民の敵ではないと思い込んでる。でも、実際に政府や国軍とは敵対していると思い出す。さて、どう感じるかなぁ?)
今ごろ落下したアームドスキンに報道の目が集中しているはず。首都の人々はこれからどうすべきなのか、この紙一重の状況から脱するにはなにをすべきか考える。その結果を彼は欲している。
(さあ、伏線は十分。これからが地獄だよ?)
ルオーは表情一つ変えず首都の様子を窺っていた。
◇ ◇ ◇
麻痺した交通網を見限って、地下リニアを使おうとしていた清掃用品メーカーの男は足早に街を行く。未だ携帯端末はノーシグナルを示したままだ。
頼りになる情報源は街角に表示されているインフォメーションパネル。それで首都近傍で戦闘が開始されているのを知った。
(まったく、政府がいらない意地を張ってるからこんなことになる。仕事にならないじゃないか)
彼にとって戦争はまだ遠い事実。
リフトカー用ハイウェイの降り口から徒歩でようやく地上に降りた頃には、戦闘は国軍が劣勢だと報道されている。背中を押される思いで不慣れな地下リニア乗り口を探している。なにせ、携帯端末が使えないのでマップも見られない。
(迷惑千万だ。上でさっさと方をつけてくれ)
そう思っていると周囲が影になる。上空を巨大な戦闘艦が横切るところだった。目は見開かれ、空いた口が塞がらない。
(こいつら、まさか首都上空で戦争をしやがる気なのか? 正気じゃない)
身の危険を感じはじめた。使い慣れないサインパネルに目を走らせながらリニアの昇降口を探す。焦燥感が余計に目を滑らせる。
(地下のほうが少しは安全なはず。はやく潜らないと)
焦るばかりで目的地が見つからない。右往左往していると、急に真上でとてつもない大きな衝撃音がした。思わず足が止まる。
見上げると、巨大な人影が降ってくるところ。頭と胸の部分がえぐられている。おそらく、中の人は蒸発している。アームドスキンはゆっくりとだが、重々しい音を立てて男から50mほど離れた場所に落下した。
(勘違いしてた。これは俺たちの戦争だった。普通に物は壊れるし、人は死ぬ。その一人になりかねないんだった)
堪らず、横のビルの中に避難する。頭を抱えてしゃがみ込んだ。似たような格好の都民が周囲に多数いる。しばらくそのままでいたが、それからはなにも起こらない。
(戦争になるんじゃないのか? どうして、それっきりなんだ?)
ビルの外を見据える。それ以上、物が降ってくる気配はないし、ビームの光が瞬く様子も見受けられない。男は勇気を振り絞って恐る恐る外に這い出る。上を見ると、行き交う国軍のアームドスキンはいるが、戦闘になってはいないようだった。
「大丈夫なんですかね?」
隣に同じく避難してきた男性が同じ姿勢で話し掛けてくる。
「今のところは」
「みたいですね。敵軍は国軍を攻撃できるみたいだけどしないのかも」
「攻撃しない?」
一瞬なにを言われたか理解が及ばない。
「だって、敵の司令官の女の子は民間人は攻撃しないって言ってたじゃないですか。実際に街には一発も撃ってこない。撃ったのはあの機動兵器だけです」
「そうか。攻撃はできるんだ。できるけどしないだけなのか。街の民間人に被害が出てしまうから」
「言ってるとおりに見えますね。国軍と決着を付けたいのはやまやまだけど、街の上に入ってしまったからできない。困ってるのかもしれませんね」
「だとすれば……、政府と軍は俺たちを盾にしてるんじゃ……?」
疑念が頭をよぎる。
状況が整合性を示している。戦争が激しい状態になっていないのは敵の司令官が遠慮してくれているからだ。逆に政府は彼ら関係のない都民を巻き込もうとしている。
「あのミアンドラって子はこんなにも民間人を気にしてくれてる。それなのに、うちの政府ときたら、俺たちを盾にして戦争を有利に運ぼうとしてやがるんだ。そんなの許せるか」
拳に力が入ってしまう。
「堪ったもんじゃないですね。あの子は地方のプラント管理者と仲良く話してました。笑顔で、それは丁寧に説明して、部下のために産品を高値で買い取ろうとしてましたな。普通の女の子に見えて、和んだものです」
「その影響で色々値上がりしてるのも確かとはいえ、彼女は敵国民にも気遣って頑張ってるのに政府は戦争に勝つことしか考えてないとは。国民をないがしろにして。挙げ句に都民を犠牲にしてでも勝とうとしてる。とても受け入れられないと思いませんか?」
「ですな。私も腹が立ってきたところです」
(このままじゃろくなことにならない。政府に任せてなんかいられるか)
男は決然と立ち上がった。
次回『朝日を浴びる(2)』 「どうせ一部の者だろう?」




