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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
正直者は馬鹿を見る
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姫を射んとするも(1)

 民間軍事会社(PMSC)『ライジングサン』は故郷の惑星国家マロ・バロッタのあるパルミット宙区に戻っている。遠場を避けたのではなく、依頼ページに大量リクエストが入ったからであった。


「今回は普通のお仕事ぉ?」

 クーファが言うのは裏に星間管理局が絡む依頼でないかという意味。

「通常依頼です。それも僕たちにとってはわりと身近で多少は事情もわかっているお仕事ですので気楽にしててください」

「はいなのぉ。クゥはパルミット初めてだからわかんなぃ」

「でしょうね。本当に危険の少ない……、うーん、はず(・・)のお仕事なので大丈夫です」

 確証はない。

「ただ、僕も初めて手を付ける依頼なので内実がどうなっているかまではわかりません。油断はしないでくださいね?」

「危ないとこ行かないようにするぅ」

「ええ、それで」


 本日のクーファはクマ耳モードである。ウサ耳ほど高さが出ない分、余計に小さく見えてしまう。化粧っ気の少ない彼女がホニャっとした表情をしていると子どもにしか見えない。


(とはいっても彼女のことなのでなにを仕出かすかわからないなぁ。子どもみたいに手を繋いで連れ回したいくらいだけどそれはそれでね)

 ちゃんと妙齢女性として見ている。

(でも、あまり特別な関係になるのはいただけないなぁ。ティムニはまだ彼女に目を光らせてる。僕がニュートラルな立場を守らないと判断に私情が混じってしまうかもしれない。それはティムニのためにもレジット人(レジトリアン)のためにもならないからね)


 可愛らしいし慕ってくれるのは嬉しい。ルオーにも傾く気持ちはある。しかし、少し距離を置いて付き合うのがクーファの将来に良い結果を導くだろう。


「どんなお仕事するぅ?」

 小首をかしげるとまるで小動物だ。

「具体的には模擬戦だよ」

「模擬戦ってなぁに、パッキー?」

「だからパッキーって呼ぶなって言ってんのに。まあ、いい。戦闘訓練の派手なやつみたいなもんさ。軍の演習みたいにアームドスキンの実機を使って対戦形式の訓練をする。それに動員されるんだ」

 パトリックもこの仕事のことはよく知っている。

「軍隊の練習相手ぇ?」

「そうじゃなくてね。将来指揮官になる兵士は普段パイロット志望の兵士の指揮を取って訓練するんだけど、それだとマンネリで実際の指揮能力が測れない。なんで、いつもは関わりのないパイロットの部隊を指揮して対戦する。それで、指揮官としての公正な実力を見ようっていう行事みたいなものさ」

「イベントみたいなものですよ」


 惑星ガンゴスリは代々軍閥の力が強い国家である。幾つもある軍閥が輩出する兵士の質を競うのが国軍観兵試合。操機兵の腕を競う部門と、彼らが動員される指揮官の能力を競う部門の試合が大統領の面前で催される。


「名誉を競う対戦になるので各軍閥は有力パイロットを招集するのに必死です。傭兵協会(ソルジャーズユニオン)はこういうイベントじみたのには関与しないので、僕たちみたいな民間が使われるのですよ」

 説明を加える。

「国内だけでは賄えないから外にもな。それも質の高いパイロットを求めて管理局籍の事業者が目を付けられる。去年までは別件で宙区外に出てたけど、今年はたまたま暇だったから民間ページの運営に頼み込まれてね」

「レビューが悪くないのも困りものですね」

「オレたちは特に管理局依頼の任務遂行率高めで通ってるからな。引っ張られるさ」

 パトリックはまんざらでもない様子。

「すごいのぉ。目立っちゃう?」

「いや、初参加じゃ評価低いと思いますよ。もしかしたら、お声も掛からずさよならするかもしれません。なにしろ、辺り構わず掻き集めてますからね」

「そしたら、美味しいもの探しの旅に出るのぉ。楽しみぃ」

「ハズレ前提で話すのやめてくんない?」


 ルオーも半分物見遊山のつもりでいる。毎年行われることなので、ガンゴスリ国内にも優秀な事業者が集まっている。それぞれがすでに名のある状態と思っていい。そこへ外様の、それも若造が参入しようとしても無理があるだろう。


「なにがあるか目星付けておきましょうか?」

「するするぅ」

「お前ら、もちょっと真面目にやれ。赤字になるじゃん」


 パトリックの気合が入っているのにも理由がある。実はこの国軍観兵試合、参加する指揮官は各軍閥の令嬢が多く参加するからだ。男子は前線で名を挙げ、女子は後方指揮で名を挙げる。そんな風潮が文化的に残っている所為である。


「美しい令嬢が競い合う戦場。戦果を誇る若い操機士。そこに恋が生まれない道理がない」

 自前の理論展開をする。

「恋が生まれてどうするんです。相手は生粋のお嬢様ですよ? 一夜の恋に溺れたりはしません」

「動機が不純極まりないのぉ。そんなオス臭い男にお嬢様は惹かれないかもぉ」

「だからオス臭い言うな。見初められれば取り立ててくれるかもしれないじゃんか。そうすれば将来は軍事強国の将軍候補になれるかもしんないし」

 勝手な筋書きを描いている。

「そのときはライジングサンを退社するんですね。頑張ってください。応援しますから」

「お前も一蓮托生に決まってんだろ?」

「嫌ですよ。せっかく国に雇われの身になるのを回避できたのに、今さら縛られたくありません」

 真っ平御免である。

「そしたら、美味しいもの探しできなくなるもんねぇ」

「ですよね?」

「そこだけ呼吸合わすな」


 ルオーの裏切りにパトリックは目を剥いていた。

次回『姫を射んとするも(2)』 「おい、そこ! 決定事項みたいに言うな」

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