歩む者こそ(8)
差し迫った脅威にウェンディロフ政府は国軍に全て被せようとしていた。招集されていた安全保障会議がその決定を下しようとしたところでひっくり返る。
アドバイザー参加していたゼオルダイゼ大使より進言があったのだ。敵司令官は首都攻撃を否定している。ならば、首都での籠城戦をすればいいと。
敵の作戦を奪うよう勧められる。つまり、首都上空に戦闘艦を入れて布陣するということ。都市の強固な防御フィールド内ならば攻撃を受けずに一方的に迎撃できる算段だ。
表向きはそうだが実情は違う。ミアンドラ・ロワウスが攻撃しないと言ったのは首都の市民であって首都そのものではない。つまり、都民を肉の壁として扱う作戦である。
「本当に攻撃しないとお考えか、大使殿?」
「100%ないとは申しませんぞ。攻撃してくれば非難声明をお出しになればよろしい。同時に星間管理局に人権事案として訴えるのは如何か?」
「確かに。上手くいけば国内から退去させられるかもしれんな」
大統領の問いに大使は明確な答えを与える。
人的被害が出る可能性は否定できない。むしろ、多少なら被害が出てくれたほうが好都合。そんな会話が交わされる。
追い詰められていた大統領は人心地つくとともに国軍への指示を下した。
◇ ◇ ◇
「後退するみたい」
ミアンドラの安堵の声がルオーの耳に届く。
「そのままでは時間は掛かれど損害は増える一方です。張り詰めた状態でできる判断など知れています」
「合わせて前進?」
「しばらくは控えます。ウェンディロフ軍の対応に困惑しているかに見せましょう。外縁部に留まればそこまで。完全に上空に入るようなら有効射程限界まで寄せます」
後退するところまでは計算のうちだが、どこまでかは相手次第。ギリギリの外縁上空に配置するか首都中心の上空まで下がるか見極めてから動いてもいい。
「加速するわ。完全に上空に入るわね」
オンラインの輪に入っているへレニア副司令が確認する。
「悪いほうを選ぶんだ」
「心理的な選択ですよ。政府としては、どちらかといえば攻撃してほしい。被害者の数が少なからずというラインが理想的。そうなると、人口集中地域の上に陣取らせたくなるものです」
「そこは、こちらの術中なのにね」
相手は最悪の事態を理想的と考えているのだろうが、連合艦隊としてもそこが理想的だった。作戦フローどおりの展開といえる。
「じゃあ、前進しましょう。設定位置で停止後、ちょっとだけ刺激します」
「はい、よろしく」
「都市フィールド発生機は?」
「そちらは生かしときましょう。都民の方々が安心できます」
ルオーはクアン・ザの背中からスクイーズブレイザーキャノンを抜いた。
◇ ◇ ◇
国軍戦闘艦がアームドスキンをまとわりつかせたまま首都上空に入ってくる。都民にすれば、その光景は不安でしかない。しかし、大統領も閣僚もそんな気持ちをまったく理解していない。
「射程には入ってこない。自分が使っているからこそ、この戦法の怖さを知っているのだな」
大統領は指示が的中したと笑う。
「しかし、このままでは膠着状態では?」
「いずれ焦れよう。自ら禁を破ってアームドスキンだけでも侵入してくる。そうなればこっちのものだ」
「我慢比べですか」
閣僚の問いに自信を持って答える。他に手段がないと思っていた。星間平和維持軍艦の監視を受けたままで行動に移れば証拠を提示するまでもなく糾弾できる。
「できるだけ早めにお願いしたいものですな。ただでさえ、主に食料物資が都民の分しかありません。国軍兵士まで食わせるとなると情勢は徐々に悪くなっていきます」
閣僚が続けて発言する。
「有事だ。少々は我慢させるしかあるまい。とはいえ、クレームが出る前に……、なぁ!?」
「か、貫通してきました!」
「なぜだ!」
官庁街上空に戦闘艦が布陣し、その前面にアームドスキン部隊が多数配置されている。そこへ、都市フィールドを貫通してきたビームが直撃した。
「ひぃ!」
「ここも狙われる!」
直撃を受けたアームドスキンは頭から胸までを吹き飛ばされている。誘爆はしない。ただ制御を失って、反重力端子の効果を維持したままゆっくりと落ちていき、大通りに落着した。
「抗議だ! 管理局ビルに繋げ!」
自身が狙われる恐怖におののいた大統領が叫ぶ。
「はい、こちら星間管理局です。どうなされましたか?」
「見ればわかるだろう? 首都が攻撃を受けている! 人権事案だ! このままでは国民に多数の犠牲者が出る。早く連合艦隊に警告して退去させてくれ」
「ただいま確認しましたが、市民の方には被害が出ていない模様です。そちらに何らかの通報がおありですか?」
冷静に問い掛けられた。
「いや、今のところ聞いていない。が、しかし、攻撃されているんだぞ?」
「こちらでも情報精査中です。もし、被害者が出るようであればただちに対応いたしますが、それまでは人権事案として取り扱うことはできません」
「出てからは遅いではないか!」
「事実、被害が確認できなければ明確な星間法違反とは申せません。ご理解ください」
あくまで丁寧ではあるが、はっきりと突っ撥ねられる。押し切りたいと思っても、継げる二の句がない。口をパクパクとさせる。
(これも敵の策略か)
大統領はそれがまだ序盤でしかないと気づいていなかった。
次回『朝日を浴びる(1)』 (さあ、伏線は十分。これからが地獄だよ?)




