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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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歩む者こそ(7)

 首都の知事は勘違いしていたが、ウェンディロフ国軍機のビーム兵器でも、今の位置の連合艦隊は射程範囲内であった。出力的に損害を与え得る距離である。ただ、防御フィールドは貫けないというだけ。

 圏外だったのは有効射程である。この場合、問われるのは出力ではなく射手が十分な命中精度を出せる距離のこと。ターナ(ミスト)の影響でレーダーによる自動照準が適わず、光学の手動照準で命中させられない距離なのだ。


「敵は動いてない。光学ロックオンで狙え」

 そう主張する防衛艦隊司令官はビーム兵器特性を失念してしまっている。

「光学観測ではまだ遠すぎてロックオンが使えません」

「敵は当ててきているではないか」

「あれは、敵機が特殊すぎるんです」


 副官の訴えは正しい。特に大気圏では命中精度を問う有効射程は格段に落ちる。それは空気があるからだ。風や重力でビーム兵器は容易に曲がったりはしない。ただし、風や間に挟まる空気のゆらぎが光学観測に影響を及ぼし、離れた距離での命中精度を悪くさせる。


「どうすれば当たる?」

「接近すれば自然と。しかし……」

 副官は言い淀む。

「ならば接近させよ。アームドスキン部隊を前に出せ」

「よろしいので?」

「なにが問題だ。出せと言っている」


 国軍のアームドスキンは命令により前進する。すると、連合艦隊の防御フィールド内に待機していた部隊が順次砲撃を開始。同時に、戦闘艦の艦砲もビームを吐きはじめる。

 結果は言うまでもない。有効射程に入った順番にアームドスキン隊は弾幕を浴びることになる。まだ精度はそれほどではなくとも量が多く厚い。被弾する機体が頻出しだし、大破もしくは撃墜される。


「こっちは当たってないではないか。ちゃんと狙って撃たせろ」

「無理です。相手は戦闘艦の防御フィールド内にいるんですから防がれているんです」


 国軍機の損害だけが増えていく。みるみる減っていく機体数に司令官は顔を真赤にして怒鳴りはじめた。


「なんでこんな事態になる?」

「それが敵軍の作戦だからです」


 風上でターナ(ミスト)を放出して電波レーダーを無効にし、有効射程を下げたうえで遠距離攻撃をする。通常であれば条件は同じなのに、連合軍にはなぜか有効射程が異常に長いスナイパーがいる。


「ですから、敵司令官が示唆していたではありませんか。強力なスナイパーがいると。こんな戦術をとられると手も足も出なくなります」

「我が軍にもスナイパーはいるだろう? 同じことをさせろ」

「不可能です。元より当方には、あのムザ隊に対抗できるようなスナイパーはいませんでした」


 危険だと判断されてアームドスキン隊の前進命令は撤回されている。しかし、後退させて再布陣しても、敵の例のスナイパーによる狙撃だけは収まらない。損害機は着々と増えてしまっている。


「どうせよという?」

「これはどうにも……」


 連合艦隊は一気呵成に降下してきた印象が強かった。性能差のあるアームドスキンを駆使して、力押しで防衛ラインを抜きに来たのである。なので、つい攻め手は強引であると勘違いしていた。


 副官は参謀と協議するも有効な手立てが発案されることはなかった。


   ◇      ◇      ◇


「気づいてくれると思う?」

「普通は気づくと思うんですけど」

 ミアンドラの質問にルオーは答える。


 今の事態を打開する方法は唯一だと言っていい。それ以外にあるとすれば、とんでもない奇策。彼も思いつかないような作戦をくり出されてしまえば瓦解する戦術である。


「教えたくなってきた」

「おかしな悪戯心は遠慮してくれません?」


 一つだけある明確な打開策。それはミアンドラが宣言したとおり、首都に損害を出さないという大前提を覆さないと攻められなくなる方策だ。


「気づいてくれないと困るもん」

「そうなんですけど。いきなり子供っぽくなるのやめてもらっていいです?」

 自重を促す。


 ルオーとミアンドラの会話は緊張を適度にほぐすためのものでしかなかった。


   ◇      ◇      ◇


 防衛戦術に行き詰まりを感じた国軍は政府に打診する。損害を見込んでも突撃を敢行するか、もしくは現状を維持して損害を最小限に留めるか。


「政府はどんな判断を下すと思うか?」

「おそらく、玉虫色の指示を出してくると思います。『臨機応変に最大限の効果のある戦術をもって敵軍を撃退せよ』など」

「責任を取りたくないからか。まったく、ゼオルダイゼの顔色を窺うのが上手な政治家ばかりになりやがって」


 こればかりは副官も司令官の言動に賛同する。そう思えばこその返事だった。しかし、判断を仰がずに大惨敗を喫するようなことになれば、全ての責任を被せられる羽目になる。

 ところが、政府からの指示は彼らの予想とは大きく異なる。なんと、後退して首都の防御フィールド内からの迎撃をしろというもの。


「確かに敵の戦術と似通って有効だとは思う。あの小娘が前言をひるがえして突入してこない限りはな」

「ですが、これはあまりにも……。まるで、都民を盾にしているようなものではありませんか」


 副官はその作戦の危険性に思い当たっていた。

次回『歩む者こそ(8)』 「上手くいけば国内から退去させられるかもしれんな」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 政府への支持率低下は免れ無いか?
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