歩む者こそ(6)
奇妙な空気の漂う首都を男性の乗った社用リフトカーが走る。彼の会社が扱う商品の一つに家庭用掃除ロボにセットする洗剤カートリッジがある。値上がりの動きが見える食品ではないが、消費動向に陰りが見えて商品の動きが悪い。
(なのに、在庫数に不一致が出るとはな)
おそらく、倉庫の在庫管理機械に不具合が出ていると思われる。カメラで確認したが、動いていないエリアがあるのしかわからなかった。どういう不具合なのか自身で確認しなければ修理依頼も出せない。
(敵軍が迫ってるってのに)
普通に考えれば仕事どころでないのに、なまじ敵軍の司令官が首都攻撃を否定しているばかりに勤務停止が掛からない。そんな最中、問題発生したので在庫置き場に出向かなくてはならなくなった。
通常は在宅勤務で済んでいるのに、よりによってこんな状況で街中を行くには若干の不安がある。街行く人も彼と似た心持ちなのであろう。いつもより緊張感を覚える。
(停まる?)
スムースに走っていたリフトカーが停車の気配を見せる。周囲の車も同時にスピードを緩めているので故障ではない。
滅多に遭わない事故に遭ってしまったのかと思ってインジケータを確認する。すると、交通システム管理信号途絶による自動停車との表示だった。
(なにが起きてる? システムにも不具合?)
情報を見ようと携帯端末を取り出したがネットに繋がらない。そちらもノーシグナルの表示から変わらなかった。男性にはなにが起こっているか理解が及ばず困惑する。周囲の停車した車両から降りてきた人々もしきりと上空を見上げていた。
(まさか、電波妨害? 攻撃されるのか?)
にわかに不安になった男性は路肩を走って避難を始めた。
◇ ◇ ◇
「首都を中心に広域に電波障害が発生。ターナ霧です」
知事はそんな報告を受け取った。
連合軍のミアンドラ・ロワウス司令官に騙されて不意打ちを受けるかもと考えたが、それ以上のことが起こらない。生活インフラ管理は有線で行われているので支障はない。ただ、どうしても電波信号での管理を行っている交通や通信は麻痺状態に陥った。
「司令が昨日おっしゃっていたインフラ破壊が始まったのでしょうか?」
職員が言い出す。
「かもしれん。当面は生活に問題は出ないだろうが、経済活動にはかなりダメージが出るな」
「どういたしましょう?」
「対処はする。とりあえずはパニックにならず整然と生活するよう告知を出せ」
ただし、連合側に抗議しようにも通常通信は繋がらなくなった。超光速通信のオープン回線で訴えるしかなさそうだ。しかし、有事の状態でオープン回線を使用すると政府からお叱りを受けそうで迷う。
「政府と国軍の動きを調べろ。当面、連合軍の動向を把握する術はそれしかない。政府に情報を照会してみる」
戦闘になる前に把握したい。
「ターナ霧が放出されたということは、もう戦闘が開始されるのでは?」
「まだわからん。事実、郊外でも戦闘が行われている様子がない」
「情報来ました」
パネルを確認している。
「ターナ霧の検知と同時に国軍の戦闘艦からアームドスキンが発進しているそうです。迎撃体制を敷く模様」
「当たり前の対応か。近郊で激突してしまえば、どうあれ流れ弾による被害はあると思うしかない。策定したとおりの地域に避難勧告を出せ」
「承知しました」
職員がばたばたと行動を始める。知事は逃げたくなる衝動を抑えて踏ん張った。が、座視する度胸もない。上空の衛星からの映像を呼び出して監視をする。
(戦闘艦の配置は変わらずか。アームドスキンが戦闘配備に就こうとしている。だが、ガンゴスリの艦隊は動いてないな。かなり遠い。どういうことだ?)
昨夕確認した位置から連合艦隊は動いていなかった。アームドスキンを発進させている様子はない。
(ターナ霧で電波障害を発生させてプレッシャーを掛けるつもりなのか? それにしても冗長な作戦だと思えるが)
北西の方向に動く点が確認できる。連合のアームドスキン二機となんらかの飛翔体と思われる。予想では、それが風上からターナ霧を流して首都を覆っている。
(主導権を奪い合う駆け引きでもしてるのか? わからない)
彼には軍事的知識がない。
漫然と眺めているしかないかと思うと光の線が走った。連合艦隊付近からである。一瞬の間を置いて光球が発生する。国軍機が撃墜されたらしい。
(ちょっと待て。砲撃戦も始まってない状態だぞ? 敵の射程に入っているのに、のんびりと迎撃するつもりだったのか?)
撃墜を受けて砲撃が始まる。しかし、国軍から多数のビームが放たれているが命中している感じがしない。ほんの一部が連合艦隊の防御フィールドに当たって紫の波紋を広げているだけだ。
(どういうことだ? 連合艦隊はろくにアームドスキンさえ発進させていないじゃないか)
防御フィールド内に機影が見える。もちろん、フィールドを貫けるわけもないのでノーダメージだ。しばらくすると砲撃も止む。すると再び細いビームが走って国軍機が撃墜された。
(まさか、一方的に狙撃されているだけなのか?)
愕然とする。
(ミアンドラ司令がおっしゃっていた最強の武器とはこれか。レーダー射撃だけ防げば、こちらの射程外から攻撃できるほどのスナイパー機がいると?)
知事は少女の自信が証明されつつあるのだと知った。
次回『歩む者こそ(7)』 「それが敵軍の作戦だからです」




