歩む者こそ(5)
大海洋を越え再上陸後もゆったりとした進軍をしてきた連合艦隊。それでも休み休みで二週間も飛べば首都圏に近づく。確実に追い詰める作戦も最終盤を迎えつつある。
「地方都市を攻撃しなかったのは事実。だが、結局首都は攻撃する。連合軍の矛盾はつまり彼らの偽善を表している」
首都の知事はそう訴えてくる。対抗的なプロパガンダに相違ない。
「私たちも同じウェンディロフ国民。ミアンドラ司令の主張が嘘でないなら攻撃しないでほしい。ここにも生活があるのだから」
都民を名乗る女性も訴えてくる。本当に一般都民か疑わしいところである。しかし、無視はできない。
「わたしは首都を破壊する意思はありません。それが軍同士の戦闘余波での被害であろうと、です。信じていただくしかありませんが」
ミアンドラはそう返答した。本当の一般市民へ向けての通達のつもりである。最初から信じてくれるとも思っていない。行動で証明するしかない。そうこうしているうちに、またロズマン・プリメーラがアクセスしてきたので応じる。
「お時間いただきありがとうございます」
「いえ、お約束を守ってくださったお礼です」
今度はオンラインでのインタビューになる。前回はこちらの顔色も取材対象であったための対面での取材だった。今回は多少ながら信頼関係を築いてのもの。
「閣下の対応を注視してまいりました。正直、不安に感じております。それは都民にとっても同様だと思います」
「理解できます」
彼も難しい立場だとお思う。
「国軍は首都防衛を目して陣取っています。当然でしょう。閣下の軍は、政府が講和を受け入れない以上は降伏を迫るしかありません。つまり、首都を攻めて政庁を制圧するのが手順です。どうあっても首都攻撃を避けられないのではありませんか?」
「そうですね。ミッションブリーフィングでも主題となっております。首都に被害を出さずに制圧する方法はないものかと」
「素人考えではありますが、無理かと思われます。政府も国軍もここで籠城戦に持ち込むほうが、高騰している閣下の人気を落とすのに最善だと考えるでしょうから」
ロズマンも今回は十分に下準備をしてきた様子。
「かなり距離が詰まってきた状態で攻撃がない時点で予想できますね」
「ここで都民の不安の種となるのが第二の選択肢です。籠城戦に最適な対抗策が兵糧攻めです。閣下は食糧生産の拠点である各地のプラントでの人気が非常に高い。そのつもりであれば簡単に兵糧攻めに持ち込めるのではありませんか?」
「手法としては容易です。プラント管理者の皆様が困らないよう産物を全て、連合国で買い取ればいいのですから。ですが、しません」
真っ向から否定する。ブリーフィングでも最も効率的な策として提案されたが彼女はじめ幹部によって却下されている。
「厭戦気分を高め、政府を追い詰めるに有効なのは認めます。ですが、極めて危険な作戦なので」
「危険とは?」
相手が疑問視してくる。
「流通を切り替えるとなれば、それなりの契約が必要です。ウェンディロフ各地のプラントと本国が契約することになるでしょう。管理者の皆様に不安を抱かせないような、そう簡単には解除できない契約を。とても不都合ではありませんか?」
「もちろん都民には不都合極まりないですが」
「それは戦後に渡ってもです。ウェンディロフ国民は自国での食料自給が難しい状況に陥ってしまいますよ?」
ロズマンは「なんと!」と瞠目した。
「メーザードやホーコラの経済復興が遅れているのはなぜだと思われます? それは、ゼオルダイゼが同盟を盾に経済構造の改変を進めていたからです。となれば、離脱した途端に経済が崩壊し立ち行かなくなりました。彼らを縛る鎖でもあったのです」
「そんなことが……」
「今はメーザードをモンテゾルネが技術移管で復興支援し、ホーコラは我がガンゴスリとマロ・バロッタで買い支えている状態です。おそらく、国内だけで最低限の経済がまわるようになるのは十年から二十年は掛かると思われます。経済破壊というのはそれほど危ういもの。わたしはウェンディロフをそんな鎖で縛りたくないのです」
説明できたのは、事前のブリーフィングでへレニア副司令やルオーからレクチャーを受けていたからだ。兵糧攻め否定の根拠である。
「しかし、それ以外となると閣下はいずれ首都に攻め入るしかないように思えます。あまり悠長に構えていればゼオルダイゼが動くのでは?」
普通はそう考える。
「そうですか? 我が方には強力な武器があります。アデ・トブラの、あのムザ隊を壊滅に追い込んだスナイパーが」
「……確かに。聞き及んでおりますが、それほどなのですか?」
「そうですね。首都そのものを破壊する気はございませんが、一時的なインフラ破壊くらいは容認していただけるものと考えておりますが如何でしょう?」
さすがのロズマンもおののいている。
「どんな作戦なのですか?」
「それを今お訊きになられます?」
彼もすぐ失言だと気づいて撤回した。少女も微笑んで頷くだけに留める。
「閣下がウェンディロフ国民を窮地に陥れるようなことをしないと私個人は信じております」
「期待に応えたく存じます」
ミアンドラはミッションブリーフィングの結果に自信を持っていた。
次回『歩む者こそ(6)』 「首都を中心に広域に電波障害が発生」




