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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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歩む者こそ(4)

 一度報道に乗ってしまえば事態は雪崩のように進む。ロズマン・プリメーラのしたためた記事とアップしたインタビュー動画は一気に拡散する。民間はもちろん、居並ぶ政府批判系のジャーナリズムはここぞとばかりに書き立てた。

 当然、危険性を察したウェンディロフ政府は規制に乗り出す。が、遅きに失し、追随するように世論は傾いていった。


「あんな少女の心を引き裂くような事件を起こしながら、そのゼオルダイゼに加担して参戦するとは政府はなにを考えている?」

 皆口々にそう唱え、追及の姿勢を緩めない。


 政府要人が如何に反論しようが手遅れだった。冷静に捉え、安全保障上の同盟に従ったまでと正論を主張する人間もいるが、逆に攻撃対象となってしまう始末。


「ミアンドラ・ロワウス閣下は苦しみながらも、敵意を国民にまで向けず実に穏当な対応をしてくださっている」

 世の論調はこうだ。


 そうなれば、連合艦隊は行く先々で歓迎を受ける状態になる。これまでは、ほぼ公営に近い流通業者との契約を重く捉えていたプラント管理者たちが、公然と契約無視もやむ無しという姿勢になってしまう。

 それはミアンドラの本意ではない。首都圏を兵糧攻めにするつもりはないので契約分の出荷はするよう促す。すると、民意はさらに過熱。彼女の優しい心根に救われている政府や国軍はただちに戦闘を放棄しZACOF(ゼイコフ)と講和すべきだ、と。


「いやー、プロパガンダのなんたるかを見せられてるような気分だな」

 マロ・バロッタ艦隊のラウネスト・ラウダ司令が放言する。

「呑気にくつろいでないで働いてください」

「そうは言ってもな、やることはない、美味い飯は向こうから降ってくるんじゃ気も抜けるってもんだろ、ルオー?」

「まだ自分の出番じゃないって口調ですね」


 連合艦隊オンラインブリーフィングの席上での会話だ。だらけきっているラウネスト司令の態度を質すのはライジングサンメンバーにしかできない。


「でも、急激に変わりすぎてコントロールが大変。気遣いしたら妙な感じに受け取られて余計に人気になっちゃってるし」

 ミアンドラは怖ろしくも感じている。

「世論が動くときというものはこうです。全てが好循環になります。ツボを外す失言やミスをするまでは」

「それが怖いの、ルオー。わたし、いけない発言をしてないか気になりすぎて口が重くなるじゃない」

「ですから、ミアンドラ様は心に忠実にしていてくださればいいんです。変に上手くやろうとか守りに入ろうとか考えると失敗しますよ」

 青年はさも簡単なことのように言う。

「色々考えちゃうじゃない。言動一つに皆の命も懸かってるの。敵地であることに変わりないんだもの」

「ですが、そう感じられなくなってません? 乗っかるだけでいいんです」

「わたし、自国民より敵国民に人気者になっちゃいそう」


 ため息が出てしまう。本人としては薄氷を踏む思いなのである。善意が敵意に変わったとき、逃げられない可能性のある場所なのだから。


「だがよ、しんどいのはほんとだろう。取材の申し込みがあっても控えていいんじゃね?」

 パトリックが執り成してくれる。

「そうね。セーブしたほうが安全策かも」

「でしょ、ゼフィ?」

「クゥは美味しものが食べられればどっちでもよくてぇ」

 傍観者が一人いる。

「クゥったら!」

「取材を控えても、交渉はミアンドラ様でないといけないので発言機会に変わりないと思うんですけど。まあ、これ以上の過熱はリスクもあるので、戦略上の問題があるので控えるよう伝えてもいいでしょう」

「うん、プラント管理者はおおらかな方々が多いから頑張れる」


 すでに乗り越えているのに、今まさに苦しんでいるように思われて、泣きながら抱きしめられるのも困る。下手な演技はミスに繋がりそうでしたくない。笑顔で大丈夫と伝えるのだが、それさえ気丈に振る舞っていると思われるから困惑する。


「もしかして、わたし、雑に使われてない?」

 恨めしい視線をルオーに向ける。

「気の所為です。僕がしているのは依頼(オーダー)に見合う作戦立案の一つです。選択しているのはミアンドラ様でしょう?」

「狡い言い方」

「敵味方ともに、できるだけ戦死者を減らしたい意向には適ってるはずですよ。プロパガンダの真髄はこれから発揮されます」

 眠そうに頭を揺らしながら言う。

「無血開城とは申しませんが、それに近い状況を作り出すのが最終目標ですので」

「信じてるけどメンタルにくるの。敵味方って認識が変になっちゃいそう。培ってきた常識が崩壊寸前って感じ。軍人として歪んでくるんじゃないかって不安なの」

「まあ、奇策中の奇策だと思ってやってみてください。あまり参考にはならないとは思いますけど」


 ブリーフィングなのを忘れそうになる。ルオーの前だといつもそうだ。つい、実の兄に対するより甘えてしまっている自分がいる。


「無理のない程度で結構よ。メンタル的に厳しくなるようだったら、一時的に私が交代しても構わないから」

「お願いします、ヘレン副司令」

「気に病んで臥せっているとでも言っておくから。もっと同情されるわ」

「おばさままでなにをおっしゃるんですか!」


 ミアンドラは議事の肴にされているとようやく気づいた。

次回『歩む者こそ(5)』 「ですが、極めて危険な作戦なので」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 お手本にしたい(?)正しいメディア戦略。
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