歩む者こそ(3)
広い会議室のような場所。記者のロズマン・プリメーラが通されたのは普段幹部が集まって会議をする部屋であろうか。そこに二人っきりで相対している。
(カンニング用のビューワーを使わないとなると、こいつは自分の言葉でしゃべってやがる)
ミアンドラ・ロワウスは泰然とし、理路整然と質問に答えてくる。
「私は妙に思うんですよ。司令官殿がおっしゃるように、我が国に対して全く悪意がないのであれば、どうして開戦となったのです?」
彼の立場では侵攻を受けているとしか思えない。
「事の経緯は戦没者慰霊式でつぶさに語りましたが、国内向けのものだったのでこちらには伝わっていないのでしょうね。発端はガンゴスリが手にした高度医療技術だったのです」
「医療技術?」
少女は最初から語る。
ゼオルダイゼがガンゴスリの入手した医療技術を欲したこと。要求を拒むと、ゼオルダイゼは赴任していた大使の移動を事実上禁じてきたこと。国外演習中に、その事態に触れた彼女の父である国軍長官ボードル自ら戦闘艦で救出に出向いたこと。
そして、士官学校の生徒であったミアンドラも同行し、この戦闘艦ゲムデクスで戦闘になってしまったこと。大使は救助できたものの、ゼオルダイゼから離脱する過程で所属するパイロットの半数近くの命が喪われたこと。
「わたくしの目の前で十余名もの大切な国民の命が無法に奪われてしまいました。身命を賭して、わたくしや父を守ろうとしてくれた兵士たちの命がです。ご家族の方には掛ける言葉もございません」
悲痛に語る。
「絶対に許せない暴挙に我が国も立ち上がらざるを得ません。なので、ゼオルダイゼに対し宣戦布告を行いました。国民の方々の後押しもいただき、わたくしも名誉挽回の機会をいただき、この席に就かせていただいております」
「ウェンディロフには悪意がないというのはそういう意味で?」
「はい、対するゼオルダイゼには安全保障同盟がございましたので、同盟国であるウェンディロフの攻撃も受けました。なので、我が軍も宣戦布告の対象を同盟全体に変えるしかありません。そんな経緯があったので、わたくしはもちろん、我が軍の兵士もウェンディロフ国民の方々にはなんの恨みもございません。ただ、この戦争から離脱してほしいだけなのです」
完璧に筋は通る。要するに、ゼオルダイゼとの一騎打ちのためにウェンディロフが邪魔なので手を引いてほしいと言っているのだ。ゆえに国民に対して悪意はなく、ただ戦意を削ごうとしている。
(政府はそんな戦争に加担してたのか。いや、同盟がある以上はそれ以外に選択肢がないのも事実だが)
ロズマンは司令官の少女を侮って、ろくに下調べをしてこなかったのを後悔しはじめている。
「ならばこそ、わざわざ地表付近まで降下してくる必要があったのですか? だから侵略だって思われてしまうんですよ?」
彼も大きな誤解をしていた。
「考え直していただきたかったんです。ウェンディロフの人々はこんな戦争で大切な命を失う必要なんて微塵もない。民主的な国家の国民である方々であれば参戦の過ちを認め、国軍を撤退させるよう訴えてくださるのではないかと」
「そのためにこんな無謀な作戦に踏み切ったのですか?」
「はい、まずはガンゴスリやこの戦争に興味を抱いてくださらないと、なにが間違いだったのか気づいてくださらないかと思いまして」
宇宙で戦っているうちは遠くの戦争。しかし、国民と触れ合うような距離になれば戦争当事者の実感が湧く。それが狙いだという。
(これは、まんまと利用されたな。俺みたいな野次馬が取材をしに来るのを待ち受けてやがったんだ)
心の中で舌打ちをする。
「どうしてかは理解しました」
認めるしかない。
「ですが、戦争をしているのは紛うことなき事実です。国民の中にはあなたの軍によって戦死した兵士の家族もいることでしょう。それでも、悪意はないとおっしゃるのですか? あまりに都合のいい論調だと思いますけど」
「反論の余地はありません。不幸な現実だと思います。でも、わたくしは率いる兵に言えません、相手がウェンディロフ軍なのだから黙って死ねと。挑んでくる者には正々堂々と戦えと命じます」
「質問が意地悪だったと思います。取り消して謝罪します」
それが戦争だという事実は彼にも変えられない。
手も足も出ない。ミアンドラ・ロワウスは清廉潔白そのものだ。取り繕おうという濁りがまったく感じられない。
「これからどうなさるおつもりなのですか?」
それ以外に質問が思い浮かばなかった。
「可能ならば、この言葉がウェンディロフ国民の方々に広く伝わることを願っています。皆様が考える材料にしてくだされば、この不幸な戦争を終わらせることもできるのではないかと」
「わかりました。閣下のお言葉を一言一句変えることなく全て国民に伝えることを誓います。このロズマン・プリメーラ、ジャーナリスト生命に懸けて記事にします。もちろん、この動画もそのまま流しましょう」
「ありがとうございます。どうか、ご協力お願いいたしますね」
少女の微笑みはロズマンがこれまで目にしたものの中で最も清らかだった。
次回『歩む者こそ(4)』 「クゥは美味しものが食べられればどっちでもよくてぇ」




