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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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朝日に照らされる(4)

『問題の違法薬物を生産したスナキ製薬には一斉捜索が行われています。それと同時に情報を漏洩したと思われる三議員が自宅での事情聴取の対象となっております。こちらは容疑が固まり次第、逮捕に切り替えられるものと思われます』

 AIアナウンスがニュースを報じる。

『未曾有の星間(G)保安(S)機構(O)による大捜査に、我ら惑星国家キュリ・リオンは大変な国辱を受けていると言っていいでしょう。先に挙がった容疑者および違法行為のあった企業には厳しい裁定が下ることを望みます。以上、違法薬物一斉検挙のニュースでした』


 ニュース内容とは一転して戦闘艇ライジングサンの操舵室(ステアハウス)ではのほほんとした空気が流れている。ひと仕事終えて、パトリックは昨夜のうちから遊びに出掛け帰っていない。ルオーは無重力タンブラーのお茶をちびちびと啜りながらメインシートでくつろいでいた。


「国民に選ばれた議員たるものが、販売承認のために提出された医薬品の成分を別企業に漏らすばかりか、それで麻薬を製造して私腹を肥やそうとするとは世も末ですね」

 うんざりする。

『それだけレジット製薬の生産する医薬品が目覚ましい効能を示しているってのもあるけどー』

「少しは認める気になりましたか?」

『これだけじゃねー。ラギータ進化種の能力を示してるけど、彼らの本質の変化を示してるんじゃないもん』

 ティムニが踊りながら言う。

「点がからいですね。まあ、のんびりと眺めていてください。僕たちと違って、君の時間のスパンは比較にならないほど長いんでしょうから」

『そんな手間は掛からない気がするー』

「なんでです? って、いやなんで?」


 ライジングサンの外部カメラがその姿を捉えている。今日は縞々のウサ耳を着けたクーファが自走カートを伴って船体の下に入ってくるところだった。


「あーけーてぇー」

 ぴょんぴょんと跳ねているのはウサ耳に適っているとか考えている場合ではない。

「いったい、なにをどうして……」

『さあ』


 彼女とは昨日別れたばかりである。帰投した途端に抱きつかれたのには面食らったが心情を思えばおかしくもない。感謝の言葉も十分に受け取った。何一つの憂いもなく「さよなら」を言って送り返したつもりだった。


(それなのに、また来る? なんか、思い残すようなことあったのかな?)


 嫌な予感というのは大概当たるもの。自走カートの中身が御礼の品だけであることを望みながら猫耳娘を迎え入れた。


「お邪魔しますぅ」

 クーファは勝手知ったる空気で先に歩いていく。

「そ、それじゃあカフェテリアでお話しましょうか。御用はなんです?」

「用はないのぉ。クゥ、今日からここに住むぅ」

「いや、そうじゃなくて。おかしいでしょう?」

 やはり当たる。

「おかしくないのぉ。ルオ、お仕事大変だから健康管理が必要ぉ。クゥがずっと診てあげるぅ」

「だから、謝りますから。仲間外れっぽくしたのが気に入らないんでしょう? 昨日みたいにかなりリスキーな仕事も結構あるんです。君を巻き込みたくなかったから素っ気なくしただけなんですよ。わかってくれますよね?」

「わかったのぉ。だから住むぅ」

「なんでです!?」


 聞く耳持ってくれないだろうという予感も的中する。なのでルオーはこのタイプを苦手としていた。理屈をこねようがなにしようが、自分の気の赴くままにしか行動してくれない。


(クゥは民間軍事会社(PMSC)みたいな荒んだ業界にいるようなタイプじゃないのになぁ)

 考えたところで説得に応じてくれる気がしない。

(待てよ?)


「そうですね。では、レジット製薬を通して移籍を申請してみますか。以前のギャラはお幾らほどです? 危険性が高い分、こちらのほうが上でないと先方も納得してくださらないでしょう」

 理論武装で足掻いてみる。

「無理に要らないのぉ」

「そうはまいりません。ライジングサンの事業として雇用違反が問われます。管理局はそのへんうるさいですよ?」

「だったら、このくらいでいいのぉ」

 提示額に目を瞠る。

「高っ!」

「お小遣い程度ぉ?」

「どこの財閥のお嬢様ですか!」


 彼女といると、普段は省エネで済んでいる声帯がツッコミでフル稼働になる。若干調子が良くなっていると感じていた。


「うわ、またいる! なして?」

 パトリックが戻っきた。

「生活管理もしてあげるぅ。パッキー、メス臭い」

「メス臭い言うな。なんでいるのよ、クーファちゃん。昨日お別れしたじゃん」

「昨日お別れして今日ただいまぁ? 合ってるぅ」

 謎理論が展開される。

「いや、そんな粘着系女子みたいなこと言ってないでさ。ここは男所帯なんだから、クーファちゃんみたいな娘には危険地帯だよ?」

「パッキーはクゥに興味ないもんねぇ。ルオは襲う?」

「襲いません」

 抵抗を放棄する。

「だったら安全。だから住むぅ。クゥ、あのお部屋がいい」

「荷物少なくないですか、お姫様?」

「少しずつ作り変えてくから問題ないのぉ」

「ですよねー」


(なんだろう。やりたいことしてるだけなのに縁だけが増えていくのは、まだ不運を引きずっているんだろうか?)


 しかし、悪い気がしてないルオーであった。

次はエピソード『正直者は馬鹿を見る』『姫を射んとするも(1)』 「なにがあるか目星付けておきましょうか?」

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