先を見据えて(3)
一足に攻め上がってきたものの敵も艦隊防衛の直掩機を差し向けてくる。エスメリアが率いてきたのが四編隊十六機のルイーゾン、対するは二十機のウェンディロフ国軍機ランゼッタである。
(抜かねばここまで来た意味がない)
彼女の機も合わせて十七で直掩を排除してから目標への攻撃となる。
ランゼッタは最先端のイオン駆動機を搭載しているものの、重力波フィン推進機ではない。フィンを持つルイーゾンならば戦闘機動で上まわることができるはず。エスメリアは広く視野を取った。
(まともに当たれば手こずる。時間が掛かった分だけ隊機に危険が増すだけ。かといって、無視して戦闘艦を狙えば背中から撃たれる)
自分から上申しておいて、非常に難しい作戦に手を出してしまったと思う。だが、ここまで来たらやるしかない。
(こういうところがルオーと違う。良くいえば臨機応変、要するに考えなしなのだ)
視界に理想を描く。向かってくる直掩機の向こうにいる分隊を。
「編隊ごとに散開! 一つ続け!」
なにか見えた気がする。
「抜く! 裏に出ることだけ考えよ!」
一編隊率いて突進する。残りの三編隊はフリーで動かせた。防衛目標がある直掩機は全てに対処しなくてはならない。合せ鏡のように広がる。
「ここ!」
薄いと感じた部分に自ら突入。ビームで牽制も入れずに、左手のブレードを槍先の如く突き出して飛び込む。正面のランゼッタは弾いて横薙ぎに変化しようとしていた。敵機が跳ねさせた剣先がブレードに当たった瞬間に力を抜く。
「ぬるい!」
強く弾くつもりが抜かれた敵機は泳いでいる。逆にブレードをひるがえしたエスメリアは胴体を薙ぎつつ通り抜けた。
(できた。当たり前だ。試合前の訓練のときに飽きるほどやった。こんなことを忘れてるなんて)
実戦は別と考えるあまり固くなっていたのだろう。観兵試合では前線パイロットも顔負けといわれていた彼女だ。そのつもりになればできることだった。
(しかも、このルイーゾンは柔らかい。それでいて、締めるところでは伸びるような底力が発揮される。これほどの機体を預かっておいて遅れを取るなど!)
もう一機と斬り結ぶと見せて、体当たりせんばかりの速度で膝を入れる。吹き飛ばしたランゼッタに右手のビームランチャーで一撃加えて撃破。
「反転、味方を援護!」
「了解!」
理想としていた場所に抜けている。突破したのではない。裏を突くための突進だ。編隊機は分散すると、別の隊が相手している編隊に角度を付けて背後から攻撃。一気に崩して撃破する。
彼女の前にいた残り二機も片づけねばと思っていたら横合いから一撃が伸びる。編隊リーダーが後ろについてくれていた。
「さすがですな、エスメリア様。噂に名高いだけはある」
「持ち上げるな。必死だったんだ」
「その真剣さが部下を鼓舞するんですよ。自ら突っ込んでしまうのはどうかと思いますが」
忠告に感謝を返す。入隊して、初めて部隊と一体化したような感じがした。ようやく成長できていると自覚する。戦場での振る舞いに慣れ、全体を見られるようになって培ってきたものが活きたと思えた。
「いいが、これからどうするか」
「ここまで来てからですか?」
「すまぬ」
いちいちボロが出てしまう。
直掩機はあらかた片づけたので背中は心配ない。だからとて、戦闘艦を沈めればいいというわけでもないような気がしてきた。刺激が強すぎるように思う。
(弱らせるだけで……)
そこまで考えたところで声が掛かる。
「エスメリア様」
新たに出てきた予備機二機がスナイピングビームで貫かれている。
「ルオー!?」
「本隊からの増援は気にしなくていいです。僕たちで防ぎます」
「助かる。で、こいつはどうすればいい?」
素直に訊いた。
「押し上げましょうか」
「下からか?」
「その気になれば沈められますが、それでは敵軍を追い詰めすぎます。切り離してしまいましょう」
艦隊は逃げるしかない。艦載機部隊と切り離して、自転と反対方向へ押しやってしまえという。高度を上げて速度を出せるところまで押し上げればそちらに逃げるしかなくなるという作戦。
「本隊は?」
「合流できないとわかればあきらめますよ。そのために自転と同じ首都方向への退路を開けてあげてるんです」
「なるほどな」
艦隊と部隊を切り離してしまえば戦闘継続能力は著しく悪化する。大破しても換装に戻る場所も失われる。パイロットは不安に駆られて早期の撤退を望むようになる。
「よく考えてるな。あれが本物の指揮官か」
「いえ、あれは参謀タイプです」
リーダーが訂正する。
「一つのタイプではありますが、戦闘隊長は違うと思いますよ。あなた様は皆が担ぎたくなるタイプなんです」
「私はルオーになれないか」
「なれなくていいんじゃないですか? 緻密な指揮をするのでなく、力をもって我々の心の支えになってください」
そこにいるだけで兵に覇気を与えるような指揮官になれという。戦場において象徴的な存在であれと望まれた。戦闘が始まる前から一番いい場所にどっしりと構えているような大将が彼女のタイプらしい。
(そういえば、観兵試合のときも立地分析をしてもらって配置を考えるのが私の務めだったな。思い出すのが遅すぎる)
エスメリアは苦笑しつつ、艦隊を下から突付くよう指示した。
次回『先を見据えて(4)』 「種は蒔いてあるので、待っているだけで芽は出るものです」




