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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
徒花に実はならぬ

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苦難にも(4)

 惑星平面外側、つまり恒星の反対、惑星の夜の面に接近していたマロ・バロッタ艦隊が、ウェンディロフの防衛艦隊との接触するまで一時間という行程の場所で停止してしまう。肩透かしを食った格好だ。

 防衛艦隊はタイミング的に首都を含めた大都市圏が真夜中を迎える頃、戦闘になるかと想定されていた。ゆえに衛星軌道に二十隻を残し、あとの十隻を地上に降ろして防衛に当たらせている。


 当然のごとく、時間の経過とともに大都市防衛の軍は自転に合わせて移動し、首都は朝を迎えつつあった。つまり、衛星軌道の防衛艦隊の足下から大きく外れている。

 さらには、こちらも当然自転と同時に足下にガンゴスリ艦隊十二隻の大戦力が眼下に近づいてきつつある。結果、両艦隊で上下から挟撃されかねない位置になる。


 数的には有利とはいえ状況が悪い。大都市圏に集中している戦力の増援は期待できず、敵のタイミングで戦闘になってしまう。防衛艦隊の危機感は募るばかりだ。


 そして、満を持してマロ・バロッタ艦隊が再び動きはじめた。


   ◇      ◇      ◇


「予定時間よりゲムデクス以下十隻が上昇し、マロ・バロッタ艦隊と連動してウェンディロフ軍攻撃に当たる」

 へレニア・ピルデリー艦隊副司令が号令を発する。

「戦闘艦ガスケイン前へ。当艦グリデリアが続く。旗艦ゲムデクスは後方。アームドスキン部隊は発進後、前面に展開」


(流れるように段取りしてくれる。わたしは戦闘に向けて集中できる状態にしてもらえてる)

 ミアンドラは副司令の手腕に感謝する。


 この突飛な作戦を発案したのはルオーだったが、細かな調整を行ったのは敏腕指揮官のへレニアである。肝心要のタイミング合わせや部隊展開も彼女頼りになっていた。


「アームドスキン隊、敵艦隊裏に入るな。クアン・ザのスクイーズブレイザーが抜けてくる可能性あり」

 配慮も微に入り細にわたる。

「油断するな。位置エネルギーで劣ってるのはこちら。狙いたくなるのもこちら。それを頭に刻み込みなさい」


 防衛部隊は思わぬ局面に立たされている。可能ならば地上へと向かって彼らガンゴスリ艦隊を追い出したいだろう。意識はそう働く。

 その意識を逸らすためにマロ・バロッタ側からの攻撃を苛烈にする予定。ルオーも最大火力を用いるつもりで、ライジングサンが外方に配置された理由の一つでもある。


「加速悪い。思いきり踏み込め。ルイーゾンは最大加速からの推力低下はない」

 次々と指示が飛ぶ。

「右翼、遅い。薄くなってる。なにやってんの!」


(本当はわたしがすべきかもしれない注意喚起を)

 心が痛む。


 副司令は意図して厳しめに言っている。出征以降、連戦連勝の勢いのまま来ているが、逆にいえば緩みも出てきている頃合いだ。指揮官が締めていかねばいけないのはミアンドラにも理解できる。しかし、第一声はつい尻込みしてしまう。それをへレニアがやってくれていた。


(参考にしないと。勉強させてくれてる意識もあるはず。人任せにするだけで終わっては駄目)

 今は将来に活かすべく背中を追う。


 ミアンドラは先達の勇姿を見上げていた。


   ◇      ◇      ◇


「下からいい具合に圧掛かってんぞ。楽に行かせんな」

 マロ・バロッタのラウネスト・ラウド艦隊司令が煽りに入っている。

「背中に火ぃ点けてやれ。面白いくらいに燃えんぞ」


(昔から口振りは遊び心しかない方だもんなぁ)

 ルオーは軍学校時代を思い出す。


 大概の者がこれに騙された。適当にやっているように思えて、案外計算されている。気を抜くと覿面に急所を突く一撃が来る。彼の用兵は鋭い。


(この局面だと適度にリラックスさせるのが目的だろうけど)

 なにせ、向かう先には数倍する敵がいる。


「使います。リンクさせた射線、気をつけさせてください」

「おう、わかった。お前ら、自分の背中に火ぃ点けられる間抜けをすんなよ」


 ルオーはスクイーズブレイザーの準備をする。戦闘艦狙いだが、一応は撃沈させるつもりはない。阻止のためにウェンディロフのアームドスキンはまとまらざるを得なくなる。それが目的だ。散開されると難しくなってしまう。


『ラジエータギル展開完了。スクイーズブレイザー、チャージアップ』

「撃ちます」


 衛星軌道に浮いている敵艦隊を照準している。向こうに地表の緑と茶色の大地が透けて見えるので気持ち悪いが外す気はない。


(旗艦は外す。混乱は求めてない)


 敵は整然と行動してほしい。もっと言えば、上手に逃げてほしい。防衛艦隊を殲滅するのが目的ではない。ガンゴスリ艦隊と合流して地上に降りるのが目的なのである。


『砲身過熱、想定値を2%オーバー』

「薄めだけど電離気体があります。通常より連射が利かないのは仕方ありません」

 機体システムに律儀に応じる。


 基本的に宇宙空間での使用を想定した大火力武器である。大気圏内であれば、一射すれば一分ほどは使えないような代物だ。


『着弾確認』

「っと、当たってしまいましたか」


 思ったより地上(した)からの突き上げに意識が向いていたのかもしれない。一隻の戦闘艦に直撃したスクイーズブレイザーが巨大な火球を創造してしまう。敵部隊はまさに火が点いたような騒ぎになる。


 ルオーは部隊をひとまとめにすべく次射の準備を始めた。

次回『苦難にも(5)』 (ミアの背中がどんどん遠くなってしまっている)

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 現場は大パニックですかね? 混乱でアホな事する奴が居ないと良いのですが⋯⋯。
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