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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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朝日に照らされる(3)

 発進したルオーのアームドスキンはクーファの視界から消えることなくライジングサンの近くに留まる。どうするのかと思っていたら、背中のビームランチャーを保持しているアームが回転して脇に。機体の手に収まった。


(んー?)


 迎撃態勢を取ったのかと思えば、ふいにビームを発射する。あまり派手に見えない、細く細く絞られた青い光が麻薬を乗せている貨物船の船尾に突き刺さった。小爆発が起こって推進機が破壊される。


(え?)


 それからは思いもかけない戦闘に突入した。味方のはずだった彼らに攻撃を受けたのである。貨物船を守ろうとしていたアームドスキンは火が点いたようにルオーとパトリックに襲い掛かる。


(そんないっぱい)


 ところが、二機は危機感などまるで覚えていないように、当たり前に受けて立った。ルオーが遠距離から放ったビームは遥か彼方へ飛び去る。クーファの目ではその先でどうなったかわからない。


『見えるようにしたげるー』

「ありがとぉ、ティムニ」


 光る盾の隙間を突いて貫くビーム。次々と被弾するアームドスキン。そこへ斬り込んでいくパトリックのレモンイエローの機体。とても多勢に無勢とは思えない展開で圧倒していった。


「すっごい。どうなってるのぉ?」

『そんなに時間は掛からない。でも、ちょっとは危険だから覚悟してー』


 怒り狂って襲ってくる人型兵器の群れ。たった二機では如何ともしがたく、すり抜けてくる敵もいる。かなり向こうからビームが尾を引いて向かってきた。

 ほとんどが離れた場所を抜けていくが、たまに一直線に迫ってくる光条もある。ライジングサンは防御フィールドに守られているがルオーのアームドスキンはそうはいかない。


「危ないのぉ」

『大丈夫。見ててー』


 ルオーがわずかに砲身を振ってトリガー。放たれたビームが衝突軌道を描いて接触する。そこで紫色のプラズマボールが花開いた。彼は砲撃だけで攻守を賄っていた。


「そんなことってあるぅ?」

『まあ、ルオーにしかできないかなー』


 迎撃した分だけ相手は自由になってしまった。するすると接近してきてモスグリーンのアームドスキンへと忍び寄る。


「スナイパーなんて近づかれたら終わりだろうがー!」

「僕はずっとこのスタイルです。つまり、前からあなたみたいな人ばかり相手してきたってことですよ」


 またビーム同士が衝突して紫電球と化す。その傍らを抜けてきた機体がルオーに迫った。しかし、間合いに入る暇も与えられない。

 一撃で頭部が吹き飛ばされ次には両肩を失う。反動で後ろに縦回転しながら流れていった。


「これで終わりだぁー!」


 隙を突いて脇を取ったつもりの別の一機が間近で照準(ポイント)される。避ける間もなくビームがランチャーを貫いて本体にも被弾。さらにビームランチャーのプラズマ燃房(チャンバー)が爆発を起こして機体全面を大きく破損して飛ばされていった。


「無敵ぃ?」

『このくらいの数、二人ならねー』


 合間に戦闘艇も航行不能にされており、砲門を向けてくることもない。次第に戦闘は終息方向へと向かっていく。それに従い、遠く見えていた星間(G)平和維(P)持軍(F)の戦闘艦も接近してくる。制圧する気だろうか。


「さっさとその無法者を捕まえろ!」

 貨物船の船長が吠えている。

「なぜだろうか?」

「見てたろ! 立派な暴行傷害に器物破損じゃねえか。契約違反もある。星間法の商取引関連だって問題だらけだろうがよ」

「いや、契約どおりなんだがね」

 GPFの隊長機らしきアームドスキンが近づいてきた。

「ご苦労だった」

「いえ、ご依頼内容に沿ったまでです」

「いつもながら見事な腕だな。助かったよ」


 会話が成立している。額面どおりに受け取るなら、ルオーは貨物船の依頼でなく目の前の星間(G)平和維(P)持軍(F)からの依頼を請けていたことになる。


「スパイだと、貴様ぁ! 最初から裏切ってやがったのか!」

「ああ、前金はお返ししておきますのでご安心を」

「安心できるかぁ!」

「そうですね。ちょっと大変なことになりそうです。分析したハイプの危険な成分はそのままデータとして提出してありますので」

 ルオーは淡々と告げる。

「そこまでだと!? お前、なにもんだ?」

「しがない民間軍事会社(PMSC)の経営者ですよ。あなたが小狡いと思うような汚れ仕事も請け負っていかないとやっていられません」

「ほざくなー!」

「うるさいのはお前だ。まずは積み荷から確認させてもらおうか?」

「ひっ!」


 貨物船はGPFのアームドスキンに包囲されている。すでに抵抗の余地もない状態だ。彼らの罪は確実に暴かれるだろう。


『ライジングサンは君の明日を暗闇に閉ざしたりしない』

 その言葉がクーファの心を打つ。


(ルオは最初っからクゥの気持ち考えてくれてたぁ)

 感動で耳が震える。

(事件を未然に防ぐだけじゃなくて、根本から解決するために一生懸命動いててくれたんだぁ。これでレジットの名誉は損なわれなくて済んだし、星間銀河圏から追い出されることはないのぉ)


 いつの間にか時間は経っている。惑星キュリ・リオンは公転し、今いる宙域を照らし始める。まるで朝日の光が彼らたちレジット人(レジトリアン)を明るい場所に連れていってくれるように。


 クーファは知らず瞳を潤ませていた。

次回『朝日に照らされる(4)』 「ですよねー」

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