旭の向こう(2)
(暗殺を阻止された。スナイパーが殺害されて)
当初は狙撃が発覚して、星間保安機構に射殺されたとダーバンは考えていた。
「隊長、工作員のスナイパーはどんなふうに射殺されたんですか?」
疑問が生まれた。
「わからん。第一班が急に音信不通になり、第二、第三班にも実行司令を出したが次々と音信不通になった。情報提供された遺体の様子を見ると、逆に狙撃されている。それをやったのがGSOなのか、連中が主張したみたいに善意の第三者なのか判明はしてない」
「だとしたら、あいつが……」
「知ってるのか?」
映像が鮮明に蘇る。ルオーの持っていたハイパワーガン。当たり前にスナイピングの用いられる種類のものだ。
レーザーガンは物理弾を発射する銃器と違って銃身の長さが集弾性と比例しない。ある程度の機構を備えていればレーザーは狙いどおり直進する。指向性収束光なので当然のこと。
「もしかしたら、ルオー・ニックルの仕業かもしれません」
「確認していたか」
彼の独断行動は隊長も知るところ。
「確実とは言えませんが、ルオーがハイパワーガンを携行しているところを見てて」
「奴か。アームドスキンであれだけの狙撃を決める男だ。スナイパーとしても並外れていよう。事前に察知していたとすれば」
「スナイパーたちはあいつの手で……」
殺害されたことになる。
「すると、ZACOFは我らの作戦を看破していたか。管理局宙港にライジングサンの戦闘艇の姿は確認していたが、そういうことらしい」
「隊長、もしかして今の状況は?」
「かもしれん。確認できれば、管理局の介入を阻止できる可能性も出てきたな」
(あいつがスナイパーたちを射殺し、GSOに通報して狙撃を表沙汰にした? 俺たちと管理局を対立させるために画策した?)
そうとしか思えない。
(今の苦境を狙ったのはルオーなのか? 我が軍を消耗させようと思いどおりに管理局と戦わされてる? そんな汚い策略の場にクーファさんまで使っている?)
「そんなの許してなるものか!」
怒髪天を衝き、怒りが声となってあふれる。
「うおー!」
「待て、ダーバン! なにをする!」
「あいつだけは許さん!」
配置を離れたダーバンはアームドスキン『ランゼッタ』を一気に飛翔させる。目指すは管理局宙港だ。そこにルオーもクーファもいるはず。彼の魔手から彼女を救い出さねばならない。
「よせ、ダーバン!」
「止めないでください!」
途上にはもちろんGSOや星間平和維持軍のアームドスキンもいる。クーファを救出するには振り切るしかない。
迎撃しようと動いた管理局のアームドスキンに、ダーバンはランゼッタを肩からぶつけるように突っ込ませていった。
◇ ◇ ◇
睨み合いが続くものと思っていたが、急に動いたウェンディロフのアームドスキンによって管理局の部隊と戦闘になっている。ルオーたち、ライジングサンのメンバーは逃げそこねていた。
(勘弁してくれないかなぁ)
こうなるとチャンスは見込めない。
『つうしーん!』
コクピット待機しているルオーの前にティムニが飛び出してくる。
「どなたです?」
『管理局アテンダント括弧自称の人ぉー』
「すみません、括弧自称のカリミナです」
来参したとき対応してくれた情報部エージェントの彼女だった。
「あー、なんというか、すみません」
「構いません。こちらからもお願いですので」
「なんです?」
嫌な予感しかしない。それでも、知らんぷりして通信を切るわけもいかない。
「緊急依頼です」
予想どおりだった。
「星間管理局民間軍事会社業法附則第七項に基づき、ライジングサンに治安維持活動補助をお願いいたします」
第七項は管理局籍を持つ民間軍事会社に重複依頼を禁じるもの。ただし、当局からの正式な緊急依頼に限り、重複を免除する例外細則が付されている。これは、主に治安維持活動に戦力を増員するためのものだ。
「受諾します」
否応もない。
「ありがとうございます。武器使用に制限はありません。ただし、ダ・トリファーへの被害は最低限にしていただけるものと期待しております」
「善処します」
「ここだけの話ですが、降下しているウェンディロフの部隊を全数確保できれば、これからの作戦展開も楽になるのではと思われますが」
「狡い言い方です。でも、事実です」
ルオーは眉根を揉みつつカリミナに答えた。
◇ ◇ ◇
「ごきげんよう、ゼフィーリア」
「ご無沙汰ね、カリミナ」
ゼフィーリアにとって知った顔である。近隣宙区を管轄する情報部に所属するエージェントはだいたい顔見知りであることが多い。表立って友達付き合いする仲ではないが、相互に融通が利くくらいの疎通はある。
「例の報告にあったウェンディロフのパイロット」
「ああ、彼?」
「消しておいてくださる? 当面は情報管理をしておきたいところなの」
久しぶりの明確な命令が下った。
「そのための緊急依頼とか言わないでね」
「他も処理できるだけしておけば。ウェンディロフはこの際、潰しておきたいでしょう?」
「まあ、そうかしら」
(口実を与えてくれるわけ。上は思ったより事態を重く見てる節があるかしら。裏をおびき出すのに単純化させたい?)
ゼフィーリアは冷たい瞳で白いヘヴィーファングを発進させた。
次回『旭の向こう(3)』 「管理局相手にえらいヒートアップしてるじゃん」




