朝日に照らされる(2)
貨物船グス・メリーテ号の船長は周囲に浮かぶ三十八機のアームドスキンに満足の笑みを浮かべる。内訳は直轄の警備隊二十機と民間軍事会社の十八機である。
(これだけいればなにが来てもそうそう簡単ではない。打てる手はいくらでもある)
高をくくっている。
しかし、彼が予想した中で最悪の相手が姿を現した。飛ばした偵察ドローンが捉えた映像には船腹に『GPF』のロゴのある戦闘艦が映っている。本物の星間平和維持軍がやってきたのだ。
「そこの貨物船、機関を停止して護衛機を下げなさい。こちらはGPFである。これより臨検を行う」
オープン回線で臨検を告げてきた。
「急に何事ですかい? うちは普通の貿易用の貨物船でしかないんですよ?」
「当該船には星間法第一条国際貿易条項第八項の身体に被害を与える物質を含む製品が積まれている可能性があるとの情報だ。確認を行う」
「身に覚えがありませんな。こちとら急ぎの行程なんで行かしてもらいます。どうしてもと言うなら、可能性でなく司法部の令状持って来てくれないと困りますな」
拒否を示す。
「こちらの公務執行に従わない場合、強制的な停止もあり得る。それでも停止しないか?」
「ずいぶんと強引で。それなら、うちも自衛権の範囲で抵抗させてもらいますぜ?」
「了解した。確とした証拠がないのは事実である。当艦は追尾を行う。貨物引き渡し時に確認させてもらう。ただし、先の発言は発覚時に不利な条件となるのを容認されたし」
予想どおりの対応である。もちろん、追尾されれば面倒なことになる。ここで振り切るつもりだった。引き渡してしまえば確認する術もない。相手方が上手く誤魔化す。
「そいじゃ、逃げるぞ。護衛二機残して他はGPFの進路に入って退散願え」
「アイアイサー」
GPF艦との間にアームドスキンを入れる。無理に押し通ろうとするなら衝突もあるが大した罪にはならない。お互いに強引な手法であるからだ。
「船長、民間軍事会社の連中、ごねてます。GPF相手にドンパチできないって」
「やらせろ。先に金受け取ってんだからグズグズ言う権利はねえって言ってやれ」
そのための民間軍事会社である。本当に合法で大事な物品輸送の護衛であれば、ほぼ公的機関の傭兵協会を使う。装備も質もいい。無理を通すからの民間である。
「せいぜい働けよ。捨て駒どもが」
そのとき、グス・メリーテ号は突如として被弾する。一瞬、何事が起こったか全くわからない。注意していたGPF艦からの発砲ではなかった。
「なんだ、おい!」
軽く揺れる船体にシートから立ち上がる。
「後ろからです! 推進機を撃ち抜かれちまいました! 航行能力低下!」
「どこのどいつだ!」
「民間軍事会社のアームドスキンです! あのモスグリーンの!」
一機のアームドスキンがビームランチャーを抱えている。遠目にもロングバレルとわかるのでスナイパーランチャーだと思われた。映像内でもう一度発砲する。
「直撃! 航行不能です!」
「なんだと、くそ野郎! 裏切ったな! 墜とせぇー!」
すぐに直轄機が動き出す。民間軍事会社のアームドスキンも恫喝すると動き出した。
「戦闘が行われているようだが援護が必要か?」
「ちょっとした内輪もめだ。引っ込んでてくれ。まだ、領宙内ですぜ?」
「いや、当該船はもう領宙を抜けているぞ」
慌てて確認する。加速していた船体は慣性のまま軌道から五万km以上離れていた。もう、超光速航法を予定していた宙域である。
「なんてこった。早く跳べ」
「加速できません。時空界面への突入不可能です」
「ちいぃっ! 奴を粉々にしろぉー!」
ところが、それも適わない。船の眼の前で一機のアームドスキンが頭を撃ち抜かれる。両肩も次々と破壊され漂っていった。
「な! この距離でか!?」
モスグリーンの機体は自艇をほとんど離れていない。
「ピンポイントショットだとぉ?」
「信じられません。もう三機が戦闘不能にされています。もう一機も接近! そんな馬鹿な! 重力波フィンだって?」
「最新鋭機がなんでこんなとこに?」
金色の翼を展開したアームドスキンが飛んできている。
「どこの奴だ?」
「PMSC『ライジングサン』です! こいつら、いったい!」
船長は愕然とする。予期不能の事態に陥っていた。しかも、すでに打つ手がない状況だ。
「ラジエータギル展開。一気に行きますよ」
「よろしくちゃーん。オレが仕留めてやるさー」
超収束度に絞られたスクイーズショットが空間を舐める。両脚を切り離され、肩から斜めに斬り裂かれしたアームドスキンがそこら中に漂い始めた。レモンイエローの機体が確実に戦闘不能にしていく。
「なんで、あんな隙間を!」
「防げるかよ!」
「こんなの出鱈目だろうが!」
直轄のアームドスキンはリフレクタを出して狙撃から身を守ろうとするが、隙間を縫われて被弾する。ボディの一部でも失うとバランスを崩してすぐには対応できない。その間にもう一機に一撃を喰らう始末だ。
「この裏切り者めー!」
「よっわ。たかだか小悪党風情がこのオレに逆らうからじゃん」
また一機が両腕を斬られ蹴り飛ばされる。その間に直轄機を乗せてきた戦闘艇までもが推進機を撃たれて航行不能にさせられていった。
「なんだ、これは……」
船長は愕然として悪化する事態に脱力していた。
次回『朝日に照らされる(3)』 「そんなことってあるぅ?」