邂逅し(2)
週末の日の政治集会だけあって支持者が大勢集まっている。その中心たる演壇に向けて暗殺の準備をする狙撃者をルオーは信じられない思いで見つめていた。
(こんな状態でパニック起こしたら、例え当たらなくても押しつぶされて怪我したり命に関わるようなことになったりするって考えないんだろうかなぁ)
とは考えるものの、彼も軍人として割り切る訓練を受けてきた一人である。許せないとは思っても、まったく否定はできない。工作員とは因果な職務である。
「狙撃銃座まで持ち込めなかったみたいです。ひと班二人いるんで連続で撃ちます」
「了解よ」
撃ちもらしたら続けて撃ってくれという意味をゼフィーリアは聞き返すことなく理解してくれる。どんな訓練を受けてきたら、これほどなんでもこなせるようになるのだろう。
「では」
演台にフランセスカ議員が姿を見せて、誰もが注目した状態で狙撃姿勢に入っている。正面からの最も狙撃しやすい位置からの班をまず狙って、テンポよくトントンと二度トリガーを絞った。
伏せ撃ちの一人目がビクリと震えて横倒しになるのを確認する前に、バックアップの一人もしゃがんだまま前に崩れる。他の班に連絡する暇も与えない。
「一気にいきます」
本命だった班の狙撃がないとわかるや、バックアップの二つも実行に移るはずだ。少し遠くなるが同時に沈黙させないといけない。
銃口を素早く移し、順番にヘッドショットを決めていく。第二班、第三班と続け、合計六人の頭を撃ち抜いたルオーはハイパワーガンを胸に引き寄せた。
「出番、ないじゃない」
「それに越したことないんじゃないです?」
あとは集まった群衆の中にも工作員が紛れていないか監視するだけだ。そちらは議員のボディガードに任せてもいいのだが、手がまわらないようならフォローくらいはする。
「わたしもクゥと一緒に警戒に当たろうかしら」
「いいですよ。僕が見ています」
狙撃の失敗はすぐに察知されようが、これ以上派手な工作を仕掛けてくるとは思えない。連絡の途絶えたスナイパーの確認に来て、死体を回収していくくらいだろう。
(邪魔する気はないけど。僕の仕事も大袈裟にしたくはないし)
通報までするつもりはなく、相手方で処理してくれるのを待つ。
演説は続いているが、特にテロが起こる気配はない。情報にあった反戦派のデモ隊が騒ぎながら近づいてくる声が聞こえてくる。
(……っと)
スナイパーがいたビルの屋上に人影が見える。回収に来るには素早いと感じてσ・ルーンカメラを向けると意外な人物だった。胸に『GSO』のロゴのある制服を着た捜査官が倒れた狙撃者たちの様子を見ている。
(彼女のほうが一枚上手だったか)
ゼフィーリアが報告して回収に向かわせたのだ。相手方が死体を回収するのなら特になにもないが、星間保安機構が収容するとなると意味が変わってくる。
(見誤ったなぁ。静観してくれるかと思ったのに。管理局も問題視してるんだ)
流れが変わる気配がある。立ちまわりに気をつけないといけないと感じた。頭を掻きながら後ろを振り返ると、美女は「ごめん」とばかりにウインクしてくる。
ルオーは一つ肩をすくめて監視に戻った。
◇ ◇ ◇
ゼフィーリアが交代してくれるというのでクーファは喜んで引き下がる。戦闘要員には向いていないのは自分が最も承知している。
「どぉ?」
「なにもありませんよ。このまま終わるといいんですが」
ルオーが隣に来た彼女に身を伏せて覗くようジャスチャーする。
公園の演台近くには大勢の人が集まり、フランセスカ議員の演説に聞き入っている。中には自分なりの主張があるのか、大きな声をあげている観衆もいた。参戦の工作を推し進める扇動者かもしれない。
「紛れているウェンディロフの兵士はそろそろスナイピングの失敗に気づいているでしょう。そのまま引き下がってくれればいいんですけど」
「参戦派の人に手出ししても意味なくてぇ」
「ええ、そうです。だから、やることはないはずですね」
青年は一段落したと思っているようだ。
観衆は思ったより熱狂しているように見えた。集団心理というものだろう。言うことが過激で、まるで戦争をしたがっているように感じる。
(誰も死ななくていい環境にいるのに、どうして危ないことしたがるのぉ? クゥにはわかんない)
平和を享受してきたからこその考えだとルオーは言っていた。彼らは身内が犠牲者になってみないとわからないのだそうだ。打開すべき事態がないのに戦争をしたがる人間は声高に理念を説く。それしか飾る手段がないらしい。
「偏った活動に酔う人間なんてフラストレーションを転化しているだけ。あまり関わり合いになりたくないものです」
以前、青年がこぼしていたのを思い出した。
シュプレヒコールをあげる観衆も、それを非難するデモ活動も似たりよったりに思えてならない。彼らは自分が幸せな環境にいるのに気づいていないのだろう。ルオーが助けてきた人々のように切羽詰まった印象はない。
「デモ隊のほう、思ったより派手にやりますね。混じっている兵士たちが変に失敗を取り返そうなんて考えなければいいんですけど」
「おかしなことするぅ?」
「ええ、刺激して議員襲撃に向かわせるとかですね」
せっかくルオーが阻止した意味のない流血沙汰を蒸し返してほしくないとクーファは願った。
次回『邂逅し(3)』 「彼女を置いて下がれ。さもなくば撃つ」




