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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
分別過ぎれば愚に返る

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ならぬ相手と(4)

 混乱する彼を見てルオーは苦い面持ちになる。その灰色の瞳に揺れているのが憐憫のように思えて、ダーバンは面白くなかった。


「どうも、あなたは人の言うことを鵜呑みにしてしまう傾向があるようですね。そこから悪い想像を働かせてしまう」

「勝手に分析するな」

「ああ、それもよく言われてしまいます」


 青年はクーファにσ(シグマ)・ルーンを渡すよう促す。受け取ると、バッテリーパックに持ってきた反応液(パワーリキッド)を注入した。再起動させた装具(ギア)を頭に着け直した彼女は確認して笑顔になる。


(天真爛漫な笑顔がこの男にだけ向けられるのはなんでなんだ)

 悔しさが胸に募る。


「例えば、これ」

 今の一連の作業を指す。

「あなたはクゥがガンゴスリの拘束から逃げ出したと思っているようですが、逃げ出しては困る相手にσ・ルーンなんて渡します?」

「それは……」

「誰かの手助けがあったとしても、位置情報を特定しやすい通信機器を直接持たせたりはしませんよ。危険ですから」

 理屈は通っている。

「クゥがσ・ルーンを着けている時点であなたは彼女の境遇を勘違いしていることに気づいてしかるべきだった。そうならなかったのは、誰かの意見が頭を占めてそれを起点に考えてしまう癖があるからです」

「ちが……」

「違わないでしょう? 僕の理屈になにか綻びがあるなら聞きます」


 反論できる点が見つからない。ルオーは見た目のゆるゆるな雰囲気と違い、理路整然としている。


「例えば、もう一つ」

 続けて指摘してくる。

「秩序秩序と言いますが、あなたの言うゼオルダイゼの秩序ってなんです? 星間管理局のもたらす秩序とは違うものなんです?」

「あれは押し付けだ。当事者の意を介さない、一方的な判断を下してくるじゃないか」

「管理局の判断はどれも星間法を基準にしたものです。各国はそれを容認して加盟しているのではないです?」

 加盟申請には星間法の遵守を求められるのが常識だ。

「その星間法を用いているのが局員という一部の人間に委ねられているのはおかしい。もっと公平に運用されなくてはならない」

「局員は公平公正ですよ。なにせ、どこの国にも属さないんですから。誰の思惑にも左右されません。どんな公権力にもどんな財力にも屈しない、フラットな立場で星間法を運用しています。これほど公平な機関がどこにあります?」

「誰の意思も介在しないって言いきれるのか?」

「言えます。彼らは星間法の下僕たるよう教育を受けているからです」


 漏れ聞こえてくる公務官(オフィサーズ)学校(スクール)のカリキュラムは確かにそれを裏付ける。しかし、星間法が多種多様な国家に適正なのかは疑問だ。


「押し付けと感じてしまうのは適していないからだ。だから、不公平感を生むんじゃないか?」

 そのままぶつける。

「ならば、適するように改めるべきです。揺るがない基準なしに安定した秩序など実現できないと思いません?」

「当事者の意見も容れずにか?」

「加盟国の協議で星間法のほうを改めるべきだと言うんです? そんなの現実的ではありません。ずーっと協議が続くだけで、いつまで経っても混沌としたままになるでしょう。国際機関として機能不全に陥ること請け合いです」

 ルオーは首を振る。

「じゃあ、立法をAIに委ねるのが正しいというのか? そんな人の気持ちが理解できない状態じゃ誰も納得できない」

「だから司法は司法官が司っているんです。そこに情状酌量が入り込む余地を作ってあるんですよ」

「く……」


 いちいち反論してくるのが癇に障る。そして、ルオーの指摘を間違いだと言いきれない自分にも腹が立つ。


「そもそも、ゼオルダイゼの謳う秩序ってなんなんです? 同盟にとって都合のいい秩序じゃないって断言できます?」

 ため息混じりに訊いてくる。

「宙区として安定感をもたらすには誰かが旗振りしないといけないじゃないか。ばらばらに好き勝手してれば今みたいに戦争が起きてしまう」

「起こしているのは誰なんでしょう。あなたは盟主国のプロパガンダを飲み込んでしまって発想が飛躍しているように見えてなりません」

「事実、メーザードやホーコラは同盟から離脱してすぐ牙を剥いてきたじゃないか。同盟の提唱する秩序から免れた途端、乱す側にまわってる。それは、ゼオルダイゼの秩序の正しさの証明じゃないのか?」

 この戦乱は秩序の破壊を目論んでいると思っている。

「メーザードやホーコラでなにが起こっていたのか知らないんです? それはちょっと不勉強ですね。やはり、あなたは誰かの意見に引っ張られ過ぎなんですよ」

「なんだって言う?」

「搾取です。ゼオルダイゼの求める秩序は、君臨する者に従う独裁の芽です。僕はそれを摘み取るように動いてしまった。だから、同盟ではお尋ね者みたいに扱われているんですよ。あなたが僕の顔を予め知っていたみたいにです」


 ライジングサンが危険分子として挙がっているのも本当。そこには彼、ルオー・ニックルの名前ともう一人、紫の髪をした二枚目の男パトリック・ゼーガンのプロフィールが載っている。


「だが、お前の言うことが全て正しいとも思えない」

「そうですね。僕の主張を鵜呑みにするのも危険といえます。あなたはあなた、僕は僕の道があります。食い違いは簡単には正せない。国同士ともなるともっと難しい。戦争がなくならないわけです」

「他人事みたいに言うな。当事者のくせに」

「それは、あなたが正しい」


 最後に肯定してきたところもダーバンは腹立たしかった。

次回『ならぬ相手と(5)』 「でも、なんかやらかす気は満々ってやつだな」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 人間が二人居れば議論が生まれ、 三人居れば戦争が始まる。(ついでに迫害も)
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