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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
分別過ぎれば愚に返る

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ならぬ相手と(3)

 ダーバンは驚いて腰を浮かす。振り返ると金髪の男が立っていた。


「ルオぉ!」

「探しましたよ、クゥ」


 クーファはスプーンを置くのももどかしく男に抱きつきにいく。首元に頭をこすり付けて喜びの表情を爆発させていた。


(この男が……)

 つい険しい眼差しを向けてしまう。

(ん?)


 どこかで見た顔だった。最初に思いつくのは眠そうな表情。童顔で冴えない雰囲気をしている。クーファが頼りにしているのが信じられない思いだ。


(どこだ? どこで見た?)

 わりと重要な記憶な気がする。

(プライベートじゃない。メディアでもない。軍の情報……!)


「ルオー・ニックル!」

「僕を知っている。まあ、そうでしょうね。あなたはウェンディロフの軍人みたいですし」


 ダーバンが身にまとっているのは軍のフィットスキンである。胸元にはしっかり『WDF』のロゴが入っていた。


「その様子からして、彼女を連れていこうとしたのは偶然です?」

「お前は!」


 すかさず腰裏のガンキャッチに手をまわす。レーザーガンのグリップを握るが、目の前の青年は手で制してきた。


「やめません? ここは第三国です。街中で荒事は問題になります。僕もあなたを攻撃するつもりはありません」

「ふ……。確かにそうか」


 そうでなくとも周囲がざわつきつつある。喧嘩になっているのかと警戒している様子だった。


「まあ、座りましょう」

「ルオも食べるぅ?」

「一口いただけます?」


 クーファがスプーンを青年の口元に運んでいる。自然な動作は慣れているとしか思えない。ルオーはどこかに連絡して「見つけましたから大丈夫ですよ」と伝えている。


「どうしてライジングサンがこんな場所に」

「そう言われましても、クゥだってライジングサンの一員なんですが」

「は?」


 よく見れば、彼女が着ているオレンジ色のフィットスキンの胸元には『RISE.S』のロゴが入っている。『ライジングサン』の略号なのは言うまでもない。


「あ!」

「もしかして、あなた、結構迂闊じゃないです?」

「く……」

 反論できない。


 ルオーは肩をすくめながらメニューパネルを操作して自分の分を注文していた。開いたパイロットブルゾンの隙間から脇にキャッチさせたレーザーガンが垣間見える。そこへ手を伸ばす気配がまったくないところを見ると本当に攻撃意思がないらしい。


「お前、ガンゴスリに加担してるんじゃないのか? どうしてクーファさんが出国するのに手を貸している」

「聞いてませんでした?」

 青年は頭を掻く。

「彼女の立派なライジングサンの社員なんです。出国するとかどういう意味です?」

「だから、ガンゴスリはレジット人(レジトリアン)を隷属させて使いまわしてるじゃないか。彼女だけ特別なのか?」

「どこから隷属させてるとかいう話が出てきたんです?」

 怪訝な顔をしている。

「それ以外にないだろう? 軍事大国がなんの得もなく受け入れるわけがない」

「ずいぶんと偏見に満ちてません?」

「ゼオルダイゼが保護しようとしたじゃないか。レジット人が無法に拘束されているからって理由で」


 保護しようと引き渡しを要求したのにガンゴスリが拒んだのだ。盟主国は仕方なく交換していた大使を通して交渉しようとしたが、その大使の引き上げに戦闘艦まで投入してきた。それが戦争の発端となった衝突の原因である。


「どこからそんな話を仕入れてきたんだか」

 彼の説明にルオーは苦笑している。

「他にどんな理由があるってんだ? オイナッセン宙区に秩序をもたらそうと腐心しているゼオルダイゼがわざわざガンゴスリみたいな軍事国家に手を出す意味がない」

「いいですか? 確かにガンゴスリでレジット人(レジトリアン)は医療関係で大きな貢献をしています」

「そうだろう?」

 違うというジェスチャーが返ってくる。

「多くの国に少なからずいる人間主義者から彼らを保護しました。移住を受け入れてくれたガンゴスリに恩返しをしたいとレジット人のほうから申し出てくれたからです。彼らなりに自分の居場所を作り、守ろうとする努力をしているだけなんですよ」

「だったら、なんでゼオルダイゼが保護しようとするんだ」

「引き渡しを要求したのは本当みたいですね。ただし、ゼオルダイゼは彼らの医療技術だけを欲していたようです」


 ゼオルダイゼの首都ランワサからの撤退戦でもライジングサンの姿は確認されている。ルオーが事態の当事者なのは疑うべくもない。しかし、真実を語っているとも限らない。


「クーファさん、彼が言っているのは本当のこと?」

 もう一人の当事者に尋ねる。

「クゥたちをどうしたかったかは知らなくてぇ。でも、あのとき大使さんが捕まってて助けに行ったのは本当だよぉ」

「そんな、まさか。ゼオルダイゼが他国の大使を拘束していたっていうのか?」

「事実です。あの時点で僕もガンゴスリの人も戦争をしたいなんて考えてもいませんでした。ですが、ゼオルダイゼがあまりに強硬手段に訴えるので戦闘になってしまいました。多大な人的被害が出てしまった以上、ガンゴスリとしてはゼオルダイゼに保証を求めなくては示しがつきません。受け入れる姿勢が微塵もない相手では戦争に踏みきるしかないでしょう」


(全然予想外の話ばかりが出てくる。いったい、なにが起こってるんだ?)


 ダーバンはなにがなんだかわからなくなりつつあった。

次回『ならぬ相手と(4)』 「僕の理屈になにか綻びがあるなら聞きます」

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更新有り難うございます。 無理を通す為の戦争⋯⋯。
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