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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
油断するとつけ込まれる
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朝日に照らされる(1)

 護衛依頼に出発する朝、クーファはいても立ってもいられずライジングサンを訪れる。今後の身の振りようを考えるにしても、今回の出会いの最後を見届けてからにしたかった。でないと、ひどく後悔しそうでならない。


「ですが、万が一のこともあり得るのですよ。可能性が低くないのは真相を知っている君ならわかることですよね?」

 頼み込んでもやんわりと拒まれる。

「なんだか嫌ぁ。お願い。連れてってぇ」

「困りましたね。遊びじゃないのは承知してくれているとは思いますが、本当に危険なのです。君を巻き込みたくありません」

「嫌ぁ。連れてってくれないなら星間管理局に通報するぅ」

 最後は脅しだ。

「ふぅ、案外責任感が強いんですね。わかりました」

「絶対邪魔はしないからぁ」

「ええ、お願いしますね」


 パトリックは気にしてない様子で歓迎してくれる。ティムニもやれやれといった案配で肩をすくめた。離陸したライジングサンの操舵室(ステアハウス)から眼下のデ・リオンを見下ろす。


(なんかの拍子に真相がバレちゃったらレジット人(レジトリアン)は排斥されちゃうかもぉ。こんな豊かな景色が見れるのももう数えるほどかもしんない)

 心の整理ができて、意外と落ち着いていられた。


 大気圏を離脱する間際に用意してきたグローブとヘルメットを被るように言われる。ちゃんと無線を繋げてもらえた。会話にも不自由ない。


「あれですね、グス・メリーテ号。大型貨物船です」

「大っきぃ」


 周囲にライジングサンと似たような戦闘艇が結構な数寄り添っている。重複依頼だったらしく、何社かの民間軍事会社(PMSC)が参加したようだ。それ以外は直轄の護衛隊だと教えてもらった。


「着任サイン確認っと。さあ、お仕事だぜ」

 パトリックが陽気に言う。

「いやに張り切ってるじゃありませんか、君らしくもない」

「これのギャラでデ・リオンの女の子たちと遊ぶんだ。この前は振っちゃったからさ」

「どうぞご勝手に」

 呆れ声を出している。


 惑星キュリ・リオンの軌道を離れ出発する。ここから五万kmの領宙を抜け、超光速航法(フィールドドライブ)可能な公宙(ハイスペース)まで半日掛かりの航宙だ。護衛が最も警戒を厳にする時間帯らしい。


「のんびりしててもいいって。なかなか騒動は起きないもんさ」

「そうなのぉ?」


 いっそ誰かが貨物船をどうにかしてくれればいいと思った。積み荷のうち、どれくらいの量がハイプなのか知らないが間違いなく不幸を招く。それを思うと憂鬱になった。


『ターナ(ミスト)を検知しました』

「おいでなすったか」


 公宙(ハイスペース)ギリギリの地点で宇宙空間にターナ(ミスト)を検出する。つまり、付近に電波レーダーで検知できない戦闘艦艇が隠密状態であることを示す。敵襲と考えてもいい。


「大人しくしててくださいね?」

「すーぐ終わっちゃうからさぁ」


 クーファは下の機体格納庫(ハンガー)に向かう二人を見送った。


   ◇      ◇      ◇


「どこの野郎だ?」

 貨物船グス・メリーテ号の船長は問う。

「わかりませんぜ。どっかで嗅ぎ付けた奴らが横取りするつもりなのかもしれませんし」

「そのために雇った使い捨てどもだ。さっさと出撃させてどうにかさせろ」

「はいよ、船長。よし、アームドスキンを全部出させろ」


 輸出品第一号である。この裏ルートが確立するか如何で今後の取引成績が決まってくる。最初の一歩でつまづくわけにはいかない。民間軍事会社(PMSC)まで動員して先行投資したのはそのためである。


公宙(ハイスペース)の向こうってのがちょっと気になりやすね」

「くだらん想像をするな。余計なこと口にしたら、その舌引っこ抜いてやるぞ」

「勘弁してくださいよ。ブツは医薬品に紛れ込ませてあるから、そう簡単には見分けられませんて。最初っから目星付けられてないかぎりはですよ」

「警察ならまだいい。鼻薬をしっかりと嗅がせてあるらしいからよ。でも、そいつが効かない連中がいやがる」


 自ら悪い想像をしてしまう。領宙の向こう側を管轄している存在にはおいそれと手を出せない。


(まあ、いい。万一のときは捨て駒を噛みつかせて逃げおおせるまで)


 船長は首を慣らしてアームドスキンが発進していくのを見ていた。


   ◇      ◇      ◇


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調成功シンクロンコンプリート


 コクピットのシステム音声がクーファにも聞こえてくる。ルオーとパトリックはすでに発進態勢を取りつつあるのだろう。


(止めたい。でも、止められない。邪魔しないって約束だしぃ)

 ゲストシートで自身の身体を抱きしめる。


 葛藤が彼女の中で渦を巻く。こんな気持ちになるのなら無理矢理ついてこなければよかったかと思う。しかし、見届けねばこれからなにが起こったとしても受け入れるのが難しい。


(初めて心から好きって思える人だったのにぃ)

 胸がキュッと締め付けられる。

(恋愛の好きかどうかはまだわかんない。でも、一緒にいたかったぁ。そう思って勇気を出して手を伸ばした相手なのにぃ)


 ルオーにとって彼女はそういう相手ではなかったらしい。優しく、それでも間違いなく遠ざけられた。協力者以上にはなれなかったのがつらくて悲しくてどうしようもない。


「クーファ」

 ルオーが呼び掛けてくる。

「ライジングサンは君の明日を暗闇に閉ざしたりしない」

「え?」


 モスグリーンのアームドスキン(ルイン・ザ)は飛び立っていった。

次回『朝日に照らされる(2)』 「先に金受け取ってんだからグズグズ言う権利はねえって言ってやれ」

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