出会っては(6)
ゼフィーリアはクーファとパトリックと連れ立って街に出てきた。ただし、ルオーと一緒のときのように下調べしてないので、当てもなく飲食店の多い通りを歩く。
「意外だったかしら」
隣を行く猫耳娘に問う。
「ルオーと管理局ビルについていくって言うと思ってた。なにかお目当てがあるんじゃない?」
「お店は知らなくてぇ」
「じゃあ、別の目的?」
視線を彷徨わせている。
「あのね、誕生日なのぉ」
「誕生日? あ!」
「八月だから、十九日がルオの誕生日でぇ」
三日後の話である。きちんと付き合いはじめた彼氏の誕生日が近いとなれば目的は一つしかない。美味しいものではなくプレゼントを探しに来たのだ。
「目星は?」
訊くと「ないのぉ」と答える。
「だったら、ブラついてピンときたものにする? そんな感じ?」
「それぇ」
「うんうん、そうね」
となれば、少し趣旨が変わってくる。ただでさえ実店舗の少ない街並みなので、飲食街でなくそれっぽい店の多い場所を探すべきだ。
「だったら……」
σ・ルーンをタップして広域マップを呼ぶ。
「大通りは避けて裏にまわりましょ」
現代の買い物はほぼネットページで探すのがメインである。実店舗を構えるとなると、よほど大手か小ぢんまりとした営業をしている店しかない。後者は地価の安い裏通りにありがちになる。
「はいはい、んじゃこっちね」
パトリックがカーレーン側に身体を入れる。
裏通りを行き交う車両は少なく、代わりに人が多くなる。ただでさえ人目を引く顔ぶれなのに、人の多い場所だと注目を浴びることになるからだ。
(言うことはいちいち残念なのに、やることは紳士なのよね。深く知り合ってなければ、彼は理想の男性でしょう)
顔は間違いなくいい。伊達男でもある。振る舞いは女性の気分を良くしてくれる。慣れていなければ簡単に落ちてしまうだろう。
「ルオの好きそうなもの知ってるぅ、パッキー?」
「だからパッキーって呼ぶな。あいつの好きそうなもんか」
考え込んでいる。
「食うもん以外となるとパッと出てこないな。着るもんだのアクセサリーだのにはまったく興味がないし、肌身離さず持ってるもんなんてレーザーガンくらいなもんだ」
「高級レーザーガン買うぅ?」
「そんなもんあるか。街中で手に入るもんなんて、ほとんど見せ球みたいなもんさ。オレたちが手にしているみたいな軍用品ほど信頼性がない」
彼らが扱っているのはパワーや性能を重視した軍用品である。行くとこに行かないと手に入らない。あるいは事業名義で取り寄せるかになる。
「他に……、こりゃ案外難儀だぜ?」
「困ったねぇ」
「プレゼントとなるとね」
三人して悩む。思い当たるフシがまったくといっていいほどない。じっくり考えてみれば、ルオーという男は物欲に乏しいと思える。とはいえ、食欲くらいしか訴えないのだが。
「無難に消え物にする? それじゃつまんないものね」
考え直す。
「なにか、繋がりを感じられるものがいいかしら」
「思いつかなくてぇ」
「思い切ってお揃のアクセサリーにしてみるとか。彼、身に付けるかしら?」
想像がつかない。
「面倒くさがりそうだよな。音がするようなものは嫌がるだろうし」
「変なとこでスナイパーなのよね」
「あいつの場合、ポリシーってより習性に近いもんある」
アクセサリーショップなら点在している。しかし、バラエティに富んだ小物を扱っている店舗となるととんと見つからない。そういった傾向こそ、ネットページのほうが取り揃えやすいからである。
「君にプレゼントするものならいくらでも思いつくんだけどさ」
パトリックはカマ掛けしてくる。
「例えば?」
「婚約指輪なんてどうだい? 今すぐ立派なものを喜んで贈っちゃうよん?」
「浮気な男の約束手形なんて当てになって?」
皮肉を返す。
「だーかーらー、君のためならオレは絶対に浮気しないって誓えるって言ってんじゃん」
「あなたの誓いに騙された女なんて星の数ほどいそう」
「破らない破らない。そのときはいつも本気なんだぜ?」
「ベッドの上だけの話でしょ?」
調子のいいパトリックに付き合っていたらキリがない。今回の目的はルオーが欲しがりそうなものなのだ。
「なにか思いついた……、っていない」
後ろにいたはずのクーファの姿がない。
「あら、はぐれた?」
まだ、ゼフィーリアは深刻に考えてはいなかった。
◇ ◇ ◇
ダーバン・ガスケートはダ・トリファーの街に降りている。彼の所属するウェンディロフ艦隊は、待機軌道よりは外側の目立たない場所に位置している。
(ここの人間は危機感がないな。あれほどパルミット宙区の軍が侵攻してきて危険だって警告してるのに、怖れる気配もなく平然としてるなんて)
ウェンディロフ軍のパイロットである彼からしてみると正気を疑いたくもなる。オイナッセン宙区に秩序をもたらすはずのゼオルダイゼ同盟に対して反抗的だった国が組織化してきている。それだけでなく、隣の宙区の勢力まで引き入れて拡大傾向にあるのだ。
(今こそオイナッセンの人間が力を合わせて駆逐しなきゃなんないときだってのに)
待ち行く人々は平然と日常を甘受している。
(危機感がなさすぎる。どうにかしないと)
「え?」
小柄な娘がキョロキョロしつつ歩いている。
幼気に見える様子に、ダーバンは保護欲に駆り立てられた。
次回『ならぬ相手と(1)』 「うん、はぐれたみたいでぇ」




