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ゼムナ戦記 フルスキルトリガー  作者: 八波草三郎
分別過ぎれば愚に返る

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出会っては(4)

 三日の休養期間を置いて、ガンゴスリとマロ・バロッタの艦隊はダ・トリファーの内情監視に出向く。当該星系から超光速航法(フィールドドライブ)一回分に位置する、適当に選んだ可住惑星を持たない星系の外縁(カイパーベルト)時空間復帰(タッチダウン)した。これは補給のためでもある。


 補給は全て惑星で済ませればいいようなものだが、これがなかなかそうはいかない。生産にスペースを必要とするもの、農産物などが筆頭に挙げられるが、これはさすがに惑星でしか補給できない。それ以外に大量に必要となるのが水である。

 飲用はもちろん、生活用水、生産用水、工業用水、果ては対消滅炉(エンジン)用消費材の純水まで、宇宙航行には大量の水が必要だ。これを惑星で生活するでない人員が消費すると、惑星上のサイクルから外れてしまうので単純にマイナスになる。短期的にならともかく長期的にもなると消耗するばかり。なので別で調達する。


 星系の外側にあるカイパーベルトには存外に水がある。主に氷の塊としてだ。そこに時空間復帰(タッチダウン)した艦艇船舶は、適当にある氷の塊をキャッチして水を得る。分解して様々な状態で利用する。

 他に艦艇では、氷塊に含まれるメタンなどの高分子体も利用できる。ラジカル化して弾液(リキッド)にするのだ。なので、カイパーベルトは補給物資の宝庫なのである。


「この辺で適当に慣熟訓練しとくぜ」

 ラウネスト司令が通信で言ってきたのでルオーは応じる。

「お願いします。ライジングサンは先行して下調べしときますので」

「楽だよな。管理局船籍だとチェック甘いし」

「ええ、デヴォーさんに酷使される原因です」


 星間管理局籍を持つ船舶や人員が管理局ビルへの来参で申請すると入国チェックは簡略化される。ほぼ機械的に処理されるので、ルオーのように宙区で要注意と(マーク)されている人間でもすり抜けやすい。


「おそらく、ゼオルダイゼの監視網には掛からず入り込めるので待っててください」

 潜入調査の時間である。

「ゆっくりと慣熟訓練を。『アベニール』はどんな感じです?」

「いいぜ。よくもまあ、あんな短期間でここまで仕上げたなって思う」

「カラマイダを叩き台にした新機構の構築技術蓄積がありますからね。他国で難儀しているようなことも簡単にやってのけます」


 マロ・バロッタの国軍機『パンテニール』の後継は『アベニール』。重力波(グラビティ)フィンとイオン系駆動機を搭載した先端アームドスキンになる。やはり、有事は技術革新を加速させる。


「これで五隻でもまともに戦えるぜ」

 同盟の機体に一歩先んじる。

「いい名前ですね、『アベニール』」

「だろ? 俺も気に入ってる」

「その名のとおりに、故郷に未来(アベニール)をもたらしてくれればいいんですけど。家族もいることですし」

「ゴタゴタはしてるがな」


 マロ・バロッタに政変未遂があったのは記憶に新しい。どうにか収められたが、もっと安定してくれればと願う。ガンゴスリやホーコラとの関係深化で、つまらない勢力争いどころではないと思ってくれれば幸いである。


有事(これ)をきれいに片づけてからだ、何事もな」

「ですね」


 最大の殊勲を挙げて凱旋すればラウネストの発言力も増すだろう。彼のような優秀な指揮官が軍部で力を持てば安定基調も望める。政治のほうは、ビスト・ゼーガンが元気なので任せておけばいい。


(ともあれ、こっちだなぁ)

 通信を終えてルオーは考える。


 引っ掛かりは解消できていない。今回の妙な動きがなにを意味しているのか熟考する必要がある。


(今まで特にしていなかったマスメディア戦略に出た理由はなんだろうねぇ。タイミングもおかしい気がする)

 まるで読めなかった動きなのだ。

(ダ・トリファーの事態は手始めなんだろうし、首尾よくいけば拡大傾向になるはず。でも、これは果たしてゼオルダイゼの策なのかなぁ?)


 一貫して強硬手段を講じてきたゼオルダイゼが一転して搦め手を用いてきたのだ。違和感を覚えて当然である。

 もちろん、あの大国が大統領の一存だけで動いているわけはない。謀略を得意とする人間も中にはいよう。しかし、いきなり前面に出てきたのは怪訝に思う。


(確かにスムースに進んできたのが、ここに来て行き詰まったのも本当)

 ZACOF(ゼイコフ)だけでなくガンゴスリを始めとした阻害要因が増えた。

(だからって、ここまで方針転換する? 考えにくいんだよねぇ。ゼオルダイゼ本国にはまだ地力が残ってるのに、如何にも事態を長引かせるような方向性だし)


 ゼオルダイゼが拡大政策を執りつづけるのなら、ここは強く出るべきだと感じる。反抗勢力を力で押しつぶすくらいでなくては今後も現れる可能性を残してしまう。どうにも悪手に思えてならない。


(どっちかっていうと、長引かせるのが趣旨に思えてくるくらいなのはなぁ。理解できない)

 自室のコンソールで背もたれに体重を預けながら思う。

(引っ張りたい理由がある? もし、それはゼオルダイゼの意図とは違うものなのだとしたら? じゃあ、この戦争が長引くと誰が得をするのかねぇ)


 ルオーはゼオルダイゼの裏側に感じられる別の意思が働いている気がしていた。

次回『出会っては(5)』 「クゥは街に美味しいもの探しに行ってみるぅ」

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― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 戦争なんて消費経済なのにねぇ⋯⋯。 何処か力を削ぎたい勢力が裏に?
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